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めちゃくちゃヤバい人

ぐちゃぐちゃと髪の毛を咀嚼され、鼻息と生温かい口からの吐息で毛根が悲鳴をあげている。唾液がボタボタと流れ落ち、頭皮に当たった瞬間に鳥肌が立った。


「やめ…ぇ…」


花乃にその声は届かない。弱々しく地に消えていく助けの声を何度も何度も、萎んで虫の息のか細い声が花乃の胸の中を飛んだ。


手で押し返そうも恐怖で力が入らず身体が思うように動かない。身震いしていた身体は次第に目に見えるほどになり、足の感覚が無くなった。


「な、何してるの…?!」


「あぇ…??」


それは突然に。試着室の外で他の店員が目を見開き仰け反っている。困惑の中、目玉をクルクルと回し何とか状況を確認する。ぎこちなく足を前に出し、あとから体がついてきた。上半身と下半身で脳みそを2つ使うことになり口も思うよう動かない。それでも、力いっぱいに両手で頬をひっぱたき意識を取り戻した。


「…離れなさい!!」


怒声を上げ花乃の腕を掴む。グッと力を入れ後方へ引っ張るが、人間とは思えないほどの力で抵抗され、一ミリたりとも動かなかった。


「なっ…つっよぉぉ!?!」


「ゔぃぃ…!!!」


獣の唸り声のようなものをあげ、一向に離れようとしない花乃。店内に居た数人の客がザワザワし始め、レジ奥で隠れていた店員が警察を呼んでいる。


魔王ちゃんの泣き声。店内に響く花乃の唸り声。店員の怒声。店内の客以外にも騒動を聞きつけた民衆が店内を覗いている。だが誰も騒動の中心に飛び込みはしない、あくまで遠目で、静かにスマホを構えているだけ、ガラス越しではなくわざわざ店内に入ってまで撮影を始める者もいた。


そんな状態が五分ほど続き、警察が二人到着した。二人の警察が民衆をかき分け店内に入った。現場を視界に入れると早足で駆け付ける。


「そっち持て!」


「はい!せーので行きます!」


花乃の腕を片方ずつで分担し、せーのという掛け声で一気に剥がす。


「いぅ…いたぁい!!いゃあ…!!」


「ゔぃぃ…!!!いぃゔぅ…!ぁぁう!!」


魔王の体を指が抉る、爪は立てずただの握力のみで引き剥がしを拒否した。だが鍛えられた男の筋力には敵わず、腕は背後に回される。


「なんだこれ!関節効かない!」


「手錠使えバカ!!」


花乃は未だ髪の毛に噛みついている状態、足を魔王に絡めつけ離すまいと力を込める。だが、二人がかりで腕に手錠をかけられ、魔王への拘束が弱まってしまった。残るは口と足、それでもどちらの力も衰える事を知らない。


「いゃ…!うぃたいい…!いたいぃ……!!!」


足でがっちりと拘束され髪の毛を食いちぎられている。ブチブチと音を立てて引き抜かれる髪の毛を、怒鳴り声が掻き消す。


「足行くぞ!」


「はい!」


男二人でも引き剥がすことができない。小柄の魔王を体の中に収め、花乃は一向に動くことはなかった。すると、警察が更に二人駆け付けてきた。


そこからは早いものだった。足を物量で剥がされ拘束する。口に関しては、危険な作業ではあったが、髪の毛を切る事で解決した。


号泣し警察に保護された魔王。「魔王ちゃん」という名を叫び続けながら連れて行かれる花乃。躁状態で店内で落ち着く店員。


いつの間にか店内から人がいなくなっており、静寂の中身を寄せ合い呆然とするのみ。


なぜか店内の商品が少なくなっていたが、問題にするほど精神に余裕のある状況ではなかった。


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