やべ
チャラ男はガキの腕を引っ張り、襲撃者の居る1階へと向かった。階段を二人で下る。歩幅が違うため、ガキが遅れている。だがガキに合わせる気は無い。一切ペースを落とさず、チャラ男は下へと降りていく。その間も、何人かの仲間が死んでいる音がする。それでもチャラ男は呑気に足を動かした。
「あぁぁだっぅるぅいなぁ??」
「…集中しないと……死んじゃうよ…ボクたち」
「あぁん??俺が集中してねぇみてぇな言い方だなぁおい??」
「ち…ちがうよ……ただ…ぅう…」
「チッ、ガキが進言するんじゃあねぇよぉ?」
そして、2階に差し掛かった頃、銃声が止まった。
「ガキ止まれ」
「え……はぃ…」
手を伸ばしてガキを静止させる。夜の廃ビル、銃声が無くなった今、ガキとチャラ男の呼吸だけが音を持っていた。すると、階下から何か聞こえた。かん、かん、と鉄を叩いているような音。その音はよく響き、明確にチャラ男達付近の空気を揺らした。チャラ男は何が来るのかを即座に察し、身をかがめる判断をした。
「ガキ!伏せろ!!」
咄嗟に自分の体を伏せ、隣にいるガキに叫んだ。
「…えっ……」
銃声と共に、何かが数回壁に反射する音。だが、その音が聞こえたのはガキの頭が撃ち抜かれた後だった。階下から跳弾した弾丸が、ガキの頭を正確に撃ち抜いた。ガキは反応することもできず、電池が切れたように倒れ、階段を転げ落ちた。
「クソッ…!なんだこれはっ!!」
すぐさま踵を返し、階段を上った。だが努力虚しく、2発目の弾丸がチャラ男の後頭部に命中し、チャラ男は死んだ。チャラ男の死後数十秒後、コツコツと階段を上る音が 2つ、1階方面から聞こえた。
「おっ!いいじゃんやっぱりやれてんじゃん!!」
ピンク髪の破天荒さ滲む小柄の女が、ヒョコっと頭を出して状況を確認する。スマホのライトをつけ、男二人の死体を目視すると、元気よく飛び出し、姿を表した。
「…ん」
ピンク髪の後ろから、長身の女が静かに現れた。
「あと何人〜??」
「…二人…5階の部屋…階段上がって右の方の部屋に居る…普通のやつとおじさんが」
「ほへ〜、よく分かるね〜」
「…ん…行こっか」
5階に到着し、右へと向かう。隙間から光が漏れている部屋の前で2人は止まった。中から音はしないが、確実に誰か居る。亜美の聴覚は、壁の向こう側に居る人間の微細な呼吸音を捕捉した。
「ねぇ…中にまだ居る…?」
「…ん…一人居なくなってるけど…おじさんはいるよ」
「どうする…?開けてすぐにぶっ殺す…?」
「…そうだね」
亜美は足を上げ、力強く扉を蹴り飛ばした。扉が2、3個に割れ、床に崩れていく。予想通りジジイが1人だけ部屋の中心の椅子に座っていた。こちらの存在を認識すると、ほんの少し口角を上げ、目を細めた。
「ようこそ…我ら秘密けっし───」
「ばきゅーん!」
ジジイが話している途中に、ジジイの額に銃弾をぶち込んだ。
「さらにー!!」
舌を出してマヌケに死んでいるジジイに、勢い良くドロップキックをかます。椅子ごと吹っ飛ばされ、後方の壁にベチャりと叩きつけられた。
「…え…やり過ぎだよ」
「え?このくらいいーじゃんかー!あみちゅもやったらいーじゃんかー!!」
「………ぁ…うん……えいっ」
右手に携えていた金槌を、横たわっているジジイに投げつけた。投擲された金槌がジジイの額へ正確に飛んでいき、皮膚を突き破り前頭骨を粉々に破壊した。額が完全に消滅するほどの大きな穴が空き、内部の物が零れ落ちている。
「うえぇ〜気持ちわる〜…」
「…やれって言ったの柚葉だよ…僕は従っただけ」
「責任はウチに無いですぅ〜!!ウチじゃない〜ウチ悪くない〜ウチ以外の人が悪いんだ〜!!」
「…はいはい…もう帰ろ」
金槌を拾い上げ、亜美は扉に向かって歩いていた。
「んーん、まだ帰んないよ」
柚葉の声を聞き、足を止める。亜美は振り返らずに、ぽつりと言葉を返した。
「…僕嫌だよ…それ」
「嫌とかじゃないじゃん、約束なんだし。ウチとの約束破るの?」
「…今じゃなくてもいいと思う…明日でも…明後日でも…もっと後でも」
柚葉はゆっくり、コツコツと音を鳴らして、亜美へと近付いていく。触れるか触れないかの距離になり、足音が止まった。背中に柚葉の額が当たっていることを感じる。自分とは正反対の温もり、人肌は服越しでも亜美の心臓に届いていた。
「心臓早いね、緊張してる?それとも…怖い?」
「…」
「ウチを殺してくれるんでしょ、やっぱり無しとかウチは許さないからね」
初めて会った頃から、柚葉は死に場所を探していた。初めは冗談だと思っていた。仲が深まるにつれ、本気だと理解出来た。だがもう友人、いや親友まで行っている仲だ。彼女の願いだろうと自らの手で殺めるのは、少し、極わずか心が軋む。
「………ふふ…」
亜美から漏れた小さな笑い声で、柚葉はほんの少し表情筋が緩んだ。安堵ともとれる呼吸を2、3度した後、亜美の体から額を剥がし、跳ねるように数歩後退る。口角を上げて普段と変わらない笑顔を作り、亜美が振り返らないことを願った。
「そ、笑お笑お!今から楽しいことが怒るんだからっ!一大イベントよこれ!人生に一度なのよ!ウチの晴れ舞台なんだから悲しい顔は許しません!」
「……屋上…今日は満月らしいよ」
瞬きを数回、亜美が何を言っているのか理解できなかったが、柚葉はにひっと笑い、強引に手を取った。
「ん!じゃあ屋上行っちゃお!」




