撮ろっ!
廊下に出て屋上へと繋がる階段を上がる。
「ねぇ、亜美は人を殺して後悔したことある?」
「……無いかな」
「だよねー、あみちゅちゅってそういう子だもん」
「…でも…今日は後悔するかも」
その声は弱々しく、泣いているようにも感じ取れた。実際には泣いていないし、心拍数も上がっていない。柚葉がそれを知ることは、絶対に無い。
「……。ウチは人殺しを後悔してるよ、初めて殺ったのが…高校?懐いよね、もう4年前だよ4年前。あの時ついカッとなって殺しちゃったけど、あそこで冷静になってた世界線もあったのかなって」
「…急になに」
「ウチは亜美ちゃんと違って、悪い人しか殺してないの。殺人犯のような重い罪…まぁそーいうクソな奴らとか軽犯罪者とか、つまり犯罪者だけ。最初の1人以外は全員が悪人なわけなのよ。つまり正義側ってこと」
「…」
それは事実だ。今回のような極悪非道な組織や、貧困が原因で窃盗を起こす奴、罪を犯せば誰彼構わず犯罪者。なら殺してもいい。なぜそこまで犯罪者にこだわるのか、亜美には一切理解できなかった。
「ウチは正義側だけど、国に追われる立場にある。おかしいよね、犯罪者は死んだ方がいいのに、法律の手が届かない場所を、ウチが助けてあげてるのに。みーんな、誰も褒めてくれない」
「……ネットだと有名だよ…崇拝者もいる」
「なんでネットのカス共に褒められなきゃいけないの?ウチは直接会って真正面から褒められたいの。ネットの社会に適合出来なかったはぐれ者、人間として…ウチのみたいな殺人犯じゃなく、ただ性格だけが終わっている人間。そんな奴らに褒められたってこれっぽっちも嬉しくない」
少しの沈黙。屋上までは残り2階程。柚葉の階段を上るペースが下がった気がした。
「…結局…この話で僕に何を伝えたいの」
「ふひっ………何って、ウチがさ、最初の1人で殺しの楽しさを覚えていなければ、ただの人間として…一人の女として生きていけたのかなって」
「…知らない…でも…多分だけど…僕らにそんな世界線は無いと思う」
「ふーん、まぁそうだろうね〜」
あっさりとした返事。最初から返事なんて求めていなかったかのように。
「…褒めて欲しい?」
「要らないよ。亜美ちゃんに褒められたっていい気しないし、というかもう会いたくないもん。亜美ちゃんのせいで人生狂ったと言っても過言じゃないんじゃない?」
「……それは違うと思うけど」
「へへ、そ、悪いのは全部ウチだね」
亜美がいなければ、柚葉は今頃牢屋の中だった。人間離れした感覚を持つ亜美が一緒にいたからこそ、柚葉は正体不明を貫けた。その力に柚葉自身も、無意識に頼っていた。亜美はこれまで、殺人を強要したことはない。柚葉の誘いに乗っていただけ、結局、全て柚葉が悪いのだ。共犯者云々は置いといて、やると決めたのは自分、最初から最後まで全てが柚葉の責任だ。それを亜美に丸投げしている、自分でも分かっているそれはふざけた責任転嫁だと。
「…よし!もう屋上だよ!!」
重い鉄製の扉を開ける。夜空にきらめいた星々、その中心を飾っているお月様。美しい星空が、自分達を歓迎しているように思えた。
「うっは〜!綺麗じゃんか!!星!すっご!!いやてか月でっか〜〜!!」
両手を上げ、屋上を走り回る。
「…走らない…落ちたら危ないよ」
「大丈夫だって〜!ってうわっっ!」
ビルの縁から上半身を乗り出し、一瞬落ちそうになった。体勢を立て直し、縁から数歩離れ、地面に腰を下ろした。
「ふう、ねえ…座んない?隣」
「…座る」
亜美が隣に座ると、柚葉は肩をくっ付け、亜美に少し体重を預けた。
「ね!一緒に写真撮ろうよ!こんな綺麗なんだしさ!」
「…え…あぁ……そうだね」
亜美はズボンのポケットからスマホを取り出し、左手を伸ばして2人を画角に収めた。
「あ、もうちょっと下、そそ、そこそこ」
「…ん…じゃあ撮るよ」
「はい!ちーず!!」
「…ん」
パシャ、っと1回音が鳴った。その後も数回、数十回と撮影会は行われた。
「…ふふ…良いね」
「はぁ…もうそろ時間だね。ウチ、閻魔様に会ったら何話そうかな。今の内に考えておかないと」
「…やっぱり…気持ちは変わらない?」
「全く変わんないよ。ウチの夢は死ぬ事だもん、簡単に変わるわけないじゃんか」
「…」
「なに怖い?離れたくない?それかただ殺したくないだけ?気分全く乗らない?」
「…うん……全部」
「そっか」
横目で亜美の顔を確認する。全ての光を吸収していたはずの瞳、深淵の如き瞳、それが星空を映してしていた。柚葉は初めて見る亜美の顔に、少し目を見開いたが、何事も無かったかのように目線を星空に戻した。誰にも気付かれないよう実に自然体に、腰に装着していたホルスターから、拳銃を1つ取り出し、自分の口の中に突っ込んだ。
「んぁねえ」
「…?」
亜美が星空から柚葉の方に目線を向けると、銃口を口の中に収めている柚葉が、銃声と共に倒れる瞬間を目にする。腕が重力に従って地面に落ち、体が後方へと勢い良く倒れていった。
「…え?……あ…え……な…なんで」
隣で白目をむいて倒れている柚葉。拳銃を咥えながら、頭部周辺に血溜まりが広がっていく。
その時、自分のスマホに通知が届いた。親友の死で、混乱状態だった脳みそは、注意をスマホに向けることを選んだ。
「…先に見させてもらうね」
画面を見ると、魔王からの連絡だった。最後の連絡は2時間前、最終的に決着がついたはずの会話だった。もう一度連絡をとる意味はないはず、なにか忘れ物か、仕事等での確認事項か、なんにしろ今やるべきではないことだった。
「……ふふ」
亜美は無意識的に画面を開いていた。メールを開くと、魔王から「今どこ?写真頂戴!」という内容のものが届いていた。
「…写真……さっきのでいいかな」
星空を背景にしたツーショット。写真を添付し、「遠い所」とだけ書いて魔王に送った。
「…よし」




