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断る理由は無い、自分の住んでいる場所付近に殺人鬼が居る。それはこれからの人生で障害になるだろう。どちらかといえば協力する方が魔王にとって利益がある、断らない理由の方が少ない状況なのだ。
「どうだ?」
「ふむ…前に手伝うとは言ったが、全面協力ってのは難しいかもしれない。ある程度の協力はするが、それはこれからの話次第だ。まずは内容の共有だ、我に何をして欲しい、そしてお前は我に何を渡す」
(交渉か、そりゃ無条件に協力するほど馬鹿じゃないよな。俺が渡せるのはせいぜい金だけだ、魔王は金にがめついようには見えない、何か…そう、飯とかで釣った方が成功率は上がるだろうな。だがこちらの私の出方次第では交渉が終わる、最大限譲歩したと思わせることが大事だ)
「僕が君にして欲しいことは3つ。1つ、調査の協力。1つ、魔法の使用。1つ、俺を守ること。理解したか?」
「ふむ…1と2は何が違うんだ?我に協力を仰いだのも、魔法に目をつけたからだろう?ならば、調査に魔法を使いたいってことのはずだ。違うか?」
「君が資料に目を通す時、魔法を使うか?」
「…使わないな」
「そういうことだ。調査と魔法は別の位置にある、まあ一緒くたにしても良かったが、そこは適当だ」
「ふむ…お前を守ることに関しては何も言うところは無い。適当に不死の加護を付けておくぞ」
「そう…それはありがたいな」
平気で「不死」を扱う魔王に、少しだけ恐怖を覚えたが、言及しても意味がないだろう。そういうものだと受け入れる方が楽なはずだ。
「で、調査と魔法に関してだが、どこまでの協力を必要としているのだ?まさか、死地に向かえなんて言わないよな?」
「死地に向かう可能性がある、というのが正解だな。なんせ相手は連続殺人犯だ、調査の途中で死ぬ可能性もあるわけだ。だから君に「俺を守る」って要求を出したんだよ私は」
「ふむ…こちらから出向くわけではないと?あくまで偶然、そういうことだな?」
「……あぁ、そういうことだ」
「ん、魔法に関しては申し訳ないです、我にも制限があるのだ。この世界の魔力濃度は薄くて、正常な魔力回復が出来ないのだ。日に3回程度…重めの魔法なら1回…頑張れば2回、そんな感じだ」
「制限ね。まぁ、魔法に関しては「使用回数に限りはあるが、出来る限りの協力をする」ってことで合ってるかな?」
「うん、そういうこと。それじゃあ次は、お前が我に渡すものを聞こう」
「僕が君に渡せるものは無い」
「…理由を聞こう」
「魔王、君は何も欲していないんじゃないか?金だって、名声だって、君が真に欲しているものは、基本的に自分で手に入れることができるのだろう?今、私に要求しているこの行為も、形式上のものでしかないと私は推測している」
「ふむ」
「相手がどう出るのか、それを見極めるためだけの行為。無意味だ、そこに信頼は生まれない。そうだろ」
(なにそれ…意味が分からない…何言ってるのこの人……?)
「ん…契約は成立した」
魔王が手を横に振ると、1枚の紙が現れた。ひらりと掴み取り、それを机に置いた。
「先程の内容が書かれている、ちょっとした契約書だ。前の「約束」と同様に裏切りが出来なくなる。前のより厳格になったと思ってくれればいいぞ」
「ふん、不要だと思うがね」
そう言いつつも胸ポケットからペンを取り出し、手馴れた様子で署名した。すると契約書は燃えるように消えた。燃えカスも残らない、完全魔法由来の紙。実際に燃えていたのかすら怪しい。
「どうする、今日から調査を始めるか?それとも日を改めるか?」
「んー、どうしようね。我は今からやってもいいけど、一度亜美に連絡を入れなきゃかも」
「そうか、なら連絡を入れ次第始めよう」
「了解ですぅ!」
戸村は珈琲を淹れるためにキッチンへ向かった。珈琲片手にリビングに戻ると、メールで連絡を取る魔王が居た。その顔から、だいぶ難航しているらしい事を察する。
戸村は珈琲を机に置き、魔王の前にはオレンジジュースを置いた。スマホを凝視している魔王を横目に、戸村は何も言わずに隣に座る。結局話がつくまでに1時間もかかってしまった。




