う
「おい、起きろ」
「ぁぅ…」
声掛けだけでは目を覚まさない魔王。戸村は揺さぶろうかひっくり返そうか悩んだ後、毛布を剥がすことにした。だが、いくら引っ張ろうと剥がれやしない。魔王が全力で抵抗していたのだ。
「くっそ…!剥がれろよぉ…!!」
「むぅ……ぐがーー…」
成人男性が全力で引っ張っても剥がれることはなかった。一旦休憩を挟み、別の方法を模索する。
「…アイマスクか」
アイマスクは簡単に剥がすことができた。ただ取るだけなのだからそりゃそうだろうという感じではあるが、魔王の睡眠への執着を見れば、結果は好ましいことだった。
「ライトライト…」
戸村はスマホを取り出し、ライトをつけた。それを魔王の瞼に近付け、眩しい光作戦を実行する。
「ぐぁ!!」
魔王はブチ切れたように飛び上がった。効果は絶大だったようだ。
「何するのだ!!我が気持ちよく眠っているというのに!!!」
「知らないよ、俺の家で寝てる方が悪い」
「はぁ…!?お前が家にいない方が悪いじゃないか!!」
「君は不法侵入をした。今の僕は君よりも上なんだよ」
「招待したのはそっちだろ!!我悪くないもん!」
「そう怒るな、悪いのは君なんだから。私は「明日来い」と言っただけだ。「勝手に家に入っていい」とは言っていない」
「ぐっ……へ…屁理屈だ!!」
「意味が分からないな。それでも魔王か?3歳児の間違いじゃないのか?」
「むぅ!!お前は悪いやつだ!せっかく協力してやろうと思ったのに!!」
「ふん…」
戸村は踵を返しキッチンへ向かった。そして戻って来た時、両手に2つの皿を持っていた。数分前に完成していたボロネーゼだ。
「置いておく、食いたいなら食え」
机に2つのお皿が置かれた。戸村は魔王の返事を待たずに地面に座り、食事を始めた。
「…なっ………んぅ…酷いやつだ」
返事はなかった。魔王も対面に座って食い始める。
「んっ…」
すっごく美味しい。寝起きの腹にも自然と入っていく。重苦しい見た目をしていながら、口当たりもよく、嚥下が楽々だった。
「…料理上手いんだな」
「あぁ、一人暮らしだからな」
「…?一人暮らしだと料理が上手くなるのか?」
「当たり前だろ、一人暮らしなんだから」
「…そうか…そういうものなのか」
「そういうものだ」
それっきり会話は無くなり、フォークが皿に当たる音だけが響いた。2人共が食い終わり、戸村は両方の皿を持ってキッチンへ向かう。その背中を眺めたまま、魔王はソファに座っていた。
「僕の部屋を確認したか?」
戸村は帰ってくると同時に口を開いた。怒った様子もなく、ただの確認事項の口調だった。
「見た。あれはなんだ?」
机の上に座り、魔王と対面になる。
「俺が探しているものだ」
「?」
探しているもの、犯人についてか、それとも医学的な話か。無難で話の流れ的には犯人なのだろうが、確定していない情報でものを語るべきではない。少しだけアホなふりをすることにした。
「ん…全て確認したか?」
「…まぁ、なるべく目を通したはずだぞ」
「そうか…率直に、あれをどう思った」
「どう…?んー、え?何について言えばいいのだ?」
戸村は表情を変えず、淡々と会話を続ける。
「なんでもいい、ファーストインプレッションを聞きたいだけだ。怖いか?面白いか?凄いか?それとも、自分もやりたい…か?」
「ふむ……多分凄い…かな?我はそういうの怖くないし、あれを面白いと思える感性も持っていない。それに…我は人を殺す趣味を持っていない。強いていえば、凄い、になると思う」
「ふん、そうか」
少し沈黙。戸村は何を考えているのか、チラチラと様子を伺うが、何も分からない。1分ほどの沈黙を破ったのは戸村だった。
「今日の早朝。ここから8km離れた場所で二人の遺体を発見した。男と女、両方共頭蓋を破壊されていた」
「…」
「周囲の防犯カメラには何も写っておらず、警察は今朝から聞き込みを開始しているらしい」
魔王は真剣な面持ちで戸村の話を聞く。
「どうせ何も情報は落ちないだろうな。被害者は増える一方、証拠は何も出てこない、捜査開始から5年、なーんにも無いんだ…アイツの情報が」
少しだけ空気が重くなる。口を開くことが億劫になり、ただ傾聴するだけの人形になった。
「はぁ…まぁつまりさ、私を助けてくれないか?」




