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とび

「ん、到着」


魔法による瞬間移動。座標から、1枚の写真から、一度行ったことのある場所、場所さえ頭に入れさえすれば、そこへ瞬間的に移動することができる。景色を楽しみながら移動したい魔王にとって、この移動手段は良いものでは無い。1秒も待たずに目的地へと辿り着くことが出来る、便利だが非常につまらない、友人との時間も減ってしまう。前の世界では、友達と移動することの方が多かったために、魔王は現状に満足出来なかった。


「レチュシ元気かなー」


魔王レベルの魔法制御を持ってしても、未だに複数人同時転送を獲得出来ていない。いつか友人らを全員連れて瞬間移動出来るように、いつか前の世界から友人全員を連れてこれるように、リラックスしている時でも、睡眠時でも、緻密な魔力制御を怠らない。それで複数人同時転送を獲得出来るのかは全く分からないが、多少なりとも日々成長出来ているだろう、成長していないと困る。


「それにしても…ここ、アパート?」


魔王は確実に戸村の事務所へ飛んだ。てっきり厳格な建築物の前に転送されると思っていたのだが、実際に到着した場所は厳格とは程遠い場所だった。


赤く錆びた柵は所々崩れて、そっと触れるだけでも指先が赤茶色い錆の粉で染まってしまう。床の表面が剥げて鉄筋が姿を見せていた。家賃2万でも高いと思えるほどのボロアパート、部屋全てが同じ顔をしており、表札が無ければ自分の部屋も分からなくなってしまう。


「ふむ…」


魔王はとりあえず歩き出した。一つ一つ表札を確認し、1階に居ないことを確認すると、2階へと続く階段を登っていく。踏む度妖音鳴らし、手すりに振動が伝わる。カタカタ震える手すり、魔王の腕よりも細いそれを、離すまいと確かな力で握る。


「かった〜かった〜かったかた〜〜」


呑気に歌いながら2階に上がった。1つ、また1つと表札を確認し、階段から1番遠い角部屋に、それはあった。


「ここか」


一切の迷いなく呼び鈴を鳴らした。びー、という音が鳴り、少しだけ待ったが誰も出てきやしなかった。もう一度鳴らす、また鳴らす、そんなことをしているうちに10分程時間が経ってしまった。


「いないじゃんか…」


とりあえず鍵解除の魔法を使って部屋に入った。中は思ったよりも綺麗にされていた。綺麗好きの一人暮らし一般男性ならこんな感じだろう、を忠実に再現している。


てくてく遠慮なく廊下を進んで行くと、戸村の自室らしき場所を発見した。扉を開けると、いかにもな部屋が広がっていた。


床を埋め尽くす程の資料の数々、壁に貼られた紙には、様々な事件の詳細が書かれていた。戸村が自分で書き足したのか、手書きのような文字で、資料に上書きしている部分もある。


探偵業に邪魔なものを全て排除したような、実際にこの部屋では生活していないのだと分かるような家具の少なさ、1つの机と椅子があるだけで、他は何も無い。


「ふーん」


部屋の中を探索する。扉付近に落ちていた魔王から1番近い紙を1枚拾い上げた。日付は数年ほど前、事件の資料なようだ。いつ捜査が開始されたかのことや、被害者と思わしき人物の、頭部に穴が空いている写真。戸村のと思わしき手書きの文字、雑な字形でナンバーが振ってあり、写真の左上に3と書かれていた。


隣に落ちている紙も拾ってみた。被害者女性の、これまた頭部が損壊している写真。左上には先と同様に数字が書かれており、12と書かれている。写真の下にはおびただしい量の文字が並んでおり、その一つに「頭蓋骨陥没骨折」という項目があった。他にも被害者の死因なども調べているようで、解剖報告書などの情報も載っていた。


ふと、最初に見ていた紙を見直した。この資料にも目が萎むような文字の行列ができており、やはりここにも死因に関することが書いていた。その1つは「頭部穿通創」と書かれている。


「なんだそれ?あ、こういう時こそスマホだな」


ポケットからスマホを取り出し、頭部穿通創、とだけ入力し、検索をかけた。


「ふむふむ……ほー、つまり…頭蓋骨を貫通しているってことか。へぇ〜、死因は別…ん?別って訳でもないのかな…出血…脳組織の破壊………あー…これは面倒くさいな、うん、今はやめておこう」


全てを諦めてスマホをしまうことにした。

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