表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/32

でかけ

カフェ営業では多少のミスはあったものの、魔法で客の記憶を消す事で無かったことにした。亜美には何故か精神魔法が効かなかったが、全て有耶無耶にして許してくれた。客に水をぶちまけようが、飛び散った水気を蒸発させて無かったことにした。転倒し、商品をひっくり返しても魔法で亜空間ゴミ箱に放り込んで無かったことにした。ミスしたストレスで、机を蹴って壊した時も、魔法で接着して元に戻した。そして最後に自分の記憶を消して、この日、ミスは1度も無いということになった。何事も無く、実に平和なバイト初日だった。


亜美は、魔王の怒涛の魔法使用に怒り狂いそうになっていたが、表には出さず、何事も無かったかのように無表情の笑顔で対応した。


「ふぅ、疲れた〜」


午後2時に閉店。客の居なくなった店内には、先程とは想像も付かないほどの静寂が訪れた。エプロンを脱ぎ、近くの机に置く。崩れるように椅子に座り、無気力に天を仰ぎ、1つ息を吐いた。


目を閉じて次の予定を考える。まずは戸村と会い、話を聞く。その後は状況次第だ。自由に旅をしてもいいし、家に帰って寝てもいい。もしかしたら戸村と行動を共にするかもしれない、それも楽しそうだね。


ふふっ、と声が漏れた。スマホを使用しようと目を開けると、目の前に長身の女性が立っていた。照明を遮り、逆光で顔がまともに見れはしないが、その無感情の瞳は、魔王の知っている中で1人しかいなかった。


「…お疲れ様」


亜美は首をちょいと傾げ、照明の光を魔王に届くようにした。急に差し込んだ光に、ビクッと体が反応し、ボヤボヤとした視界が次第におさまっていく。座っているせいで、立っている亜美の顔が途方もなく遠く、他人事のように感じられた。


「お疲れ様ですのです〜」


「…なにそれ……ねぇ…どこか行くの」


そういえば、戸村との約束は誰にも話してはいけないものだったな。亜美が着いてこないように、どうにか言い訳を考えるべきか、それとも素直に着いてこないで、と言うべきか。


「どこか行くー、我の自由時間ー」


「…ふうん……僕に内緒でどこか行くんだ」


どこに行くかなんてとうに知っているし、なぜ話せないのかも知っている。尾行しようか、それとも堂々とついて行こうか、亜美は心の中で堂々を選んだを


「内緒じゃないけど、約束だし…こういうのって我の自由だと思うの、言えないし我は一人で行きたい、ダメ?」


椅子にもたれかかっている魔王の上目遣い。甘えたような声でそのような要求をされては、身を引くしかない。するわけはないが。


「…僕もついて行ってもいいかな」


「んー…良いのかも?」


確か、約束したのはが「話さない」だけだったはずだ。亜美は、我がどこに向かうのか何となく理解していそうだし、2人で向かっても向こうは…いや、話すな、とは誰にもバレなくない、ということ、連れて行ってはいけないのかもな。


「…じゃあ二人で行こ?」


「あ、ごめんなのだ。やっぱり難しいかもしれない」


「………え」


酷く傷ついた様子。選択を失敗した感触がある。だがコチラも引いてはいけない、約束は約束だ。


魔王はピョイと立ち上がり、気まずさからか、目を合わせないように魔法を使用する。


【目的地はあっち】


そう発すると、魔王の体が光り始めた。薄黄色に輝き、頭から下へと、魔王の体は光に変わっていく。


「…ぁ」


亜美は咄嗟に魔王の腕を掴もうとしたが、魔王は砂のように溶け、突然に、跡形もなく消えてしまった。空を切った手のひらは、柔らかな光を掴み、その光さえも、次第に消えて無くなった。


残されたのは椅子のシワと、俯いた亜美だけ。粒子状になって消えた魔王はどこへ行ったのか、戸村の所だろう。だが亜美は戸村の居場所を知らない。消えた魔王を追いかけることは不可能だった。


「……もう」


その声は誰にも届かず。亜美は後片付けに出かけました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ