楽しみ
星を眺めていると、ポンッ、とチープな音が鳴った。それと同時に視界がボヤけた。頭の回転が急激に遅くなり、頭痛が激しくなった。
「え………なに…」
痛みがある部分を手で触ると、生温かい液体の様なものが手についた。何が付いているか予想はついているはずなのに、その手を視界に入れた。
血液、純粋な血液だけではなく油のような物も付いていた。手にベッタリとくっつかれ、振り払おうにも剥がれない
「あぁ……あぇ……??」
困惑しているうちに、ポンッ、と2度目の音が鳴った。視界が赤く染まり、立ち上がろうにも力が入らなかった。足から力が抜けて前屈みになり、ポタポタと血液が溢れ落ちるのを見ているしか無かった。
「…ふふ……痛い?」
「えぁ……?」
転がるように仰向けになり、自分を見下ろす存在を見つける。高身長の女、先程助けようとしていた人間だ。消えゆく意識の中、月明かりを反射させる物にピントがあった。
亜美は血液の滴る金槌を握りしめていた。ニヤリと不気味な笑みを浮かべており、更にもう1発男の頭部に金槌を振り下ろした。
「やめっ………」
3度目の音。3回ともなるとチープさは無くなり、血肉を叩く不快音が路地に響いた。男の意識はもう無い、頭蓋が割れ、中のものが滴り落ちていた。
「…ふふ……」
男を見下ろして死に姿を記憶に焼き付けていく。すると、亜美の後方で足音がした。振り向くと酔っ払っている様子の女がコチラに歩いてきていた。
「ぅい…なぁによぉ……私のなにぃ?…悪いって訳ない…もうさぁ……」
焦点の合わない目でフラフラと死体に近付いていく女。30代程のおちゃらけた雰囲気の女が、目の前の光景をやっと見つけた。
「あぇ…なぁにこぉれ?……あんたぁ……だれぇ???こぉこ…でなにしてるのぉ…?」
死体と亜美、そして女。ちょうど三角に位置し、亜美は酔っ払らいに至近距離で問い詰められた。
「…ん……なにも」
「いやぁ…ぜーったい…もうぅ……」
面倒で嫌いなタイプだ。左手に持った隠す事もなく、星空を眺めながら女が去るのを待った。
「んでぇ…それでさぁ……あんたぁ……んぅ?……なにこれ…え?…なに?え??」
女はクルクルと体を回転させ、楽しそうに亜美と話していたが、視界に不思議なものを捉え、足が止まった。長い酔いもこれで終わり、視界が鮮明になり、亜美と死体を交互に見ては、手で口を塞いだ。
「いや……ちが……え…」
「…ごめんね」
絶句していた女に金槌を振り下ろした。今回は苦しめないように1回で終わらせた。女はドサッと横に倒れ、荷物を巻き散らかした。
亜美は金槌を女の開いた口に突っ込み引っ張った。ズリズリと移動させていき、女の死体を男の死体に重ねた。
「…よし」
二人一緒には久しぶりだ。基本的に1回1人と決めていた…いや決めてはいないが、まぁ何となく1人にしていただけだ。
数分ほどその光景を眺めた後、何事も無かったかのように帰路についた。人を殺した後の街はいつもより鮮やかに見え、胸の高鳴りが未だに鳴り止まない。
「…ふふ……ふふふ…」
服に付いた返り血さえも柄として使用し、注目を向けられたとしても、高身長である事が返り血を隠してくれた。身長もだが圧倒的な美貌を持っている亜美は、皆の視線が顔や胸にしか行かない事を知っている。だから返り血を浴びても堂々と街を闊歩できるのだ。
何事もなく家に帰ってきた。すぐに風呂場へ向かい、返り血を落としながら風呂に入った。疲労自体は感じていないが、胸がバクバクと振動し、肺が焼けるように温かかった。
「……ふふ」
笑みがこぼれても返り血を洗う手は止めない。浴槽が洗剤の色に染まっていき、換気扇の音が静かな夜を騒がしくした。金槌の血は比較的簡単に落ちる、それでも完璧を求める心で入念に洗った。
次は戸村だ。アイツを殺してしまいたい。魔王に手を掛けるクズだ、次会った時にでもすぐ殺そう。朝でも昼でも、人前だろうがぶっ殺そう。
「…あぁ…楽し……」




