めしや
活気溢れる商店の数々、様々な時代の建物が肩を並べて建っている。魚や鉄の臭さが人混みに紛れて口の中に入っていき別世界を思わせた。
「…ここ」
「ん?」
亜美が立ち止まり指を差した
インドカレー屋「なんとかれー」。色彩豊かな黄色や緑、取り扱っている商品を、店のドアほどある大きさの看板にでかでかと貼り付けている。扉を閉めた状態でもスパイスの匂いが香り、食欲に誘われ目を向けてしまう。
「…入ろっか」
「うんうん」
連れられるまま店内に入る。なぜだか外よりスパイスの香りが少なくなっており、カレー本体の匂いが店を占めていた。
厨房から1番近い席に足を運んだ。椅子もボロボロに経年劣化が激しいようで、ガムテープなどでの修繕跡が目立っていた。
「…メニュー表」
手渡されたメニュー表には数多くの商品があり、誰も非常に美味しそうなものだった。カレーやナンはもちろんのこと、米や野菜、ジュースからデザートに至るまで、この店は非常に幅広く扱っているらしい。
「ふむふむ」
熱心にメニュー表を読み進めている魔王を、礼儀正しく座り凝視している。メニュー表に遮られ、顔の全体像までは見えないが、喜びの表情なのが見て取れる。
そんな夢見心地な雰囲気でも亜美の表情は変わらず、無な瞳が魔王を覗いている。それに気づいているのかいないのか、一切目を合わせずにメニュー表を熟読している魔王。
「これにする」
数分ほど時間が経った時、魔王はメニュー表を亜美に見えるように倒し、1つの商品を指差した。
魔王が指差した先には、フライドポテト500グラム(ケチャップ付き)があった。
「…それじゃあ頼もうか」
「亜美は頼まないのか?」
魔王が読んですぐの注文。亜美に注文を決める時間はなかった、頼まないつもりなのだろうか、それとも既に頼む商品は決まっていたのだろうか。自分にこの店を紹介した時の口調から、ここは何度も通っている店なのだろうと推測した。
「…頼むよ…僕はもう決まってるから」
「ふーん、そうなのだな。何頼むのだ?」
「…ん…これ」
亜美が指差したのは魔王と全く同じ商品だった。
「同じじゃないか…」
「…ふふ…同じだね」
呼び鈴を鳴らし店員を呼んだ。フライドポテト500グラム(ケチャップ付き)を2つ頼み、プラスで黒烏龍茶を2つ注文した。注文を聞き店員が帰るのを見届けると、魔王はメニュー表を指差した。
「黒うーろん茶とはなんなのだ?」
「…黒烏龍茶は…脂肪の吸収を抑えて体外への排出を促したり…油のある食事…今回で言うフライドポテト…と一緒に摂取することで中性脂肪の増加を防いだりしてくれる物」
「急に饒舌だな…」
「…話を端折った説明は…説明とは言えないと僕は思うの…簡単な説明をって言うなら話は別だけど…なに?…と聞かれて…話を端折って話すべきではないのかなって」
亜美の考え方を脳みそにアップロードし、変な人だなと多少思いながら飯が来るのを待った。
数分後、店員が全て同時に運んできた。
「でかー」
小ぶりなお皿に溢ればかりに盛り付けられたポテト。わざわざ小ぶりなお皿を選ぶ理由は、直感的に量が多く見えるようにだろう。
「…もぐもぐ」
驚きの表情を浮かべる魔王を横目に、黙々とポテトを咀嚼している。無表情に食っている亜美を確認し、自分もポテトに手を伸ばした。
「もぐもぐ…」
油っこい塩の味。舌がひゃっと驚いて拒絶感があった、それは次第に旨味に変わっていき、1つ2つと自然に手が伸びていく。口に入れるたびに口角が上がり目がとろけていった。
「…美味しい?」
「うん!」
「…ふふ…良かったね」
その会話を最後に、二人は黙々と食べた。数十分ほどその店に居座り、チャチャッと会計を済ませて店を出た。




