住むところ
「…それじゃあ…入れる曜日や日付…何時から何時までなのか…聞いてもいいかな」
再びペンを持った
「何時でもだな、入れない曜日や時間というのは無い、そちらに全て従おう」
「……ん…そう…なら明日の朝5時にここに来ようか…良いかな」
「了解した!」
「…シフトは追々ということで」
「了解だ」
亜美はカレンダーを持って席を立った
「…仕事終わったら…一緒に行こっか…それまで一人で…あぁ…先に僕の家行く?」
「我はどちらでも構わないぞ」
「…少し待っててね」
カレンダーをカウンターに置き、店長と耳打ちの会話を始めた。店長が無表情に頷くとまたまた戻ってきた
「…それじゃあ…行こっか」
「お…おう分かったぞ」
二人並んで外に出た。街がもう明るくなっている、鳥も目を覚まし、人通りも多くなってるように感じる。
「お家はどこにあるんだ?」
「…ちょっと歩いたところ」
店を出て左に進む。涼しい風がゴミの匂いを運び、つい匂いの発生源を探してしまった。歩くこと10分ほど、時計の針が6時を指した、それと同時に目的地に到着する。
「…着いたよ」
「ここが…」
築2年の新品二階建てアパート。8つの部屋が上下で4つずつに分かれている。新風思わせる扉、全体が同色かのような統一感のある壁面。
「…ついてきて」
「うん」
右端の階段を上がり、1番奥の角部屋。亜美は左のズボンポケットから鍵を取り出し扉を開けた。
「…入っていいよ」
「お邪魔しますー」
質素な玄関、靴は一切無く透明の傘が一つだけ掛けられている。玄関マットも無く、裸足で冷たい廊下を進む。
「…家の中紹介いる?」
「んーうん、してもらおうかな」
「…ここトイレ…向かいが居間」
扉を開けるとまたも質素な部屋があった。2人がけサイズのソファ、クッション等は置かず、カバーも掛けていないためグレー色の素肌が露出している。汚れや使用痕なども無く、未使用のように思えた。
それ以外には何も置いておらず、テレビも机も、実に生活感の無い部屋。だが掃除はしているようで、ホコリや髪の毛等は一切落ちていなかった。
「何も無いんだな…」
「…そうかな」
「そうだぞ…」
「…欲しいのがあったら買ってあげる…いつでも言ってね」
「…」
廊下に戻り奥へ進む
「…ここ僕の部屋…こっちが君の部屋…良いかな?」
自分の部屋を開けた。もちろん何も置かれてはいなかった。だが、ここも掃除はしているらしい。四畳半の部屋にホコリは無い、家主は掃除好きなのだろう。
「ベッドが無いぞ?」
「…今から買いに行こうか…他に欲しいのがあったら…教えてね…買ってあげるから」
「ホントにそんな…自由に買ってもいいのか?」
「…お金はあるから気にしないで」
「ふむ…了解だぞ…」
「…それじゃあ行こうか」
「わ…わかった」
廊下を歩きながら女の顔を覗き見る。無表情の顔からは何も読み取れなかった、彼女が何を考えているのか分からないまま玄関に到達した。
すると、靴箱の上に置いてある物に目が止まった。
「ん?コレなんだ?」
「…金槌だね」
釘打ちや木材の加工など幅広い用途で使用できる工具。木製の靴箱の上に置いてあるのは両口の金槌、釘を抜くことはできないが、釘の打ち込みやノミを叩く作業において最適である。
「かなづちとは…?」
「…ん…叩く道具だよ…釘とか…そういうのをね」
「建築とかに使うということか?」
「…そう…金槌にも色々種類があって…僕はこの形が好き」
「ほおー、趣味ってやつなのだな」
「…ふふ…そう…趣味なの」
靴を履き2人は外に出た。もう朝だ。気温も上がってきており、心地良い日差しが差し込んでいる。
「…お腹空いてる?」
朝はジョッキ水しか飲んでいない。魔力でエネルギーを補充することが可能なため、今はお腹が空いていない、だがこの世界の飯は食べてみたい。
「空いてます!」
「…何が食べたい?」
「んー、美味しいやつ!」
「……ん…了解」
アパートの階段を下り、商店街に向かった。




