『第三十一話 遭難』じゃ
ああ、もう、なんでいつもいっつも、
オレばかりこんな目に会うんだ。
マトモな勇者として更生するって決めてからこっち、何も上手くいかない。思い通りに進まない。
デカイ落ち武者にボコボコにされたり、
ストーカーに監禁されたり、
「それも、まさかここまで来るとはな……」
オレはため息をついて眼下の大海原を見下ろしていた。
いま、クソショタ神によっていきなり雲の上の空に転移させられ、
物凄いスピードで空中を落下している。
「あぶ、あふ、あば」
強風が叩きつけられて顔面が歪みそうだ。息もろくにできない。
「――ロウ――! クスロウ!! おい!」
風音に紛れて、コン様の声が聞こえた。
「もうダメだ……コレ……もう死ぬや」
「なに諦めとんのじゃ!! 早う手のばぜ!!」
オレと一緒に落下しているコン様が、こちらに手を伸ばしている。
「あ~~?」
オレは身を捩って、それを掴んだ。
すると、ふわりと体が軽くなる。全身にかかっていた凄まじいGが消えた。
「うおおっ、浮いた!! すげえ! コン様浮けたの??」
「そこにおるソフィアとマイも捕まえろ! 早く! 落ちる前に!」
はしゃいでいるとコン様にもう片方の手でペチンと叩かれた。
オレは首をめぐらして二人を探した。
いた。
まずソフィアを見つけた。いつもの騎士鎧ではなく下着姿で、オレの少し上でもがいている。
鎧は『スキルで燃え落ちた』らしいが、なぜ布製の下着が残っているのかはナゾだ。
「ソフィア! こっちに手ェ伸ばせ!」
「クスロウ!? いっ、いまこっち見るな!」
強風で半ば脱げそうになっているブラとパンツを必死に押さえつけている。
「んなこと言ってる場合か! 早くしろって!」
あっ……もうちょっと……
もうちょっとで中身見えそう……。
「おまえっ……なに凝視してる!! 手伸ばすから! 伸ばすからむこう向け!」
ちっ。
そっぽを向く。
数秒後、「ふぐっ」という声が聞こえて、ソフィアの手がオレを掴んだ。
ズン、
「うっ」
重みが腕に伝わる。同時に、浮遊感がやや弱まり、オレたちはまた落下を始めた。
「さすがに……二人分は重いのう」
「頑張って、マイは??」
次はあの子だ。
マイはオレたちよりだいぶ下にいた。
たぶんもう海面まで百メートルくらいしかない所だ。
「クソッ、ゴメン、《加速》!!」
コン様には不可がかかりそうだが、オレはやむを得ずスキルを使った。
二人を両手に繋いだまま加速し、一気に落下する。
「ソフィア! マイを捕まえてくれ!」
「く、わかった!」
ソフィアが身を捩らせ位置を調節する。
マイは泣きそうになりながらこちらに手を伸ばしていた。
「クスロウさ……君!!」
「じっとしてろ!」
ソフィアがそのローブを捕まえた。
「うっ」
ズン、という重み。コン様の声。
よし……!
これでとりあえず全員、海に叩きつけられるのは避けられた。
あとはどこか安全に着地できる場所を探……
「あっ無理じゃ」
そのときコン様の短い呟きがあった。直後、浮遊感が消えた。
「えっ?」
再び急落下する。海面が見る見る迫る。
「ちょちょちょちょちょい」
オレたちは四人まとめて海に落ちた。
「ぶはっがっ!」
着水した瞬間全身が砕けたんじゃないかと思うほどの衝撃に襲われた。
大量の海水が口と鼻に入ってきた。
あぁコレすげえ懐かしい痛みだ。
「…………!」
コン様はすぐ傍らにいた。海の中で四肢を投げ出しぐったりしている。
衝撃でソフィアの方の手を離してしまった。
クソ、ふたりはどこだ??
「……!」
ダメだ、息が続かん。
ひとまずコン様を抱えて、なんとか泳いで海面に浮上した。
「ぷはっ!」
まさか小学校六年間やってたスイミングがこんな所で活きるとは。
「はぁっ、はぁ、はぁ……」
しかしどうする。
辺りを見回しても、ソフィアとマイが浮いてくる気配はない。
もう一回潜って助けに行くか?
いやでも、この状態のコン様を置いてはいけない。
オレ自身も、もう一度潜ってふたりを抱えて上がってこれるか、自身はない。
「うっ……」
急に寒気が襲ってきた。
海水の冷たさが、別の意味で背筋をひやりとさせてくる。
この絶海の真ん中で、オレはどうすりゃいいんだ?
コン様の力も借りられない。
ここからどうやって二人を助ければ?
そもそも、オレは助かるのか?
まさか、死ぬの?
ここで……。
『王女は魔王がさらったよ』
……ありえない。
なんとかして、なんとしてでも、リアーナを取り戻す。
そのために生き残るんだ。
なんとしてでも。
「やるしかねえか」
オレは覚悟を決めて、もう一度深く息を吸った。
「クスロウ……後ろじゃ」
「えっ」
しかしコン様は薄く目を開けて言った。
「オーイ!!」
そのとき背後の頭上から大きな声がした。
振り向くと、そこに船があった。
巨大な木造船だ。
「受け取れ!」
もじゃもじゃとした黒髭をたくわえたワイルドな男がその甲板に立っていた。
オレの目の前に縄が落とされる。
「それで上がってこれるか!!?」
「え、あ……いや、まだ仲間が」
「その二人ならもう助けた!」
しゃがれた声で、「オイ!」と船員に声をかける。
部下らしき数人の船員がソフィアとマイを甲板に引きずりあげていた。
「助かりてェなら早くこっち上がれ! それともオレらがそっちに行かなきゃダメか??」
「あぁ……じゃあスミマセンちょっと、手を貸してほしいんですけど!」
「バカ言え冗談だ! オメエ男だろが! 自力で上がってこい!!」
「えぇ??」
「そっちの嬢ちゃんは助けてやる。オイ!」もじゃ髭の男は船員に指示を出した。
「ヘイ!」彼は縄を伝って器用にオレたちの所まで降りてくると、ぐったりしたコン様を抱えて、
「じゃ、あとは自分で」
「マジすか……」
あっさり先にいってしまった。
「…………」
その後、オレはなんとか自力で縄を登った。




