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『第二十七話 ストーカーの攻略法』じゃ

 ※


 コン様を背負ってオレは商店街の角を曲がった。

 道の先にソフィアの姿が見えた。

 出店の残骸が散らばる中で、マイを地面に押さえつけ、今まさに突き立てようとしているところだった。


「やばっ……待て!」

「そやつは魔王軍ではない!」


 オレとコン様は慌てて止めに入った。



「愛してるから、だと? なんだそれは……そんなことで人を誘拐したのか」


 説明を聞き、剣を収めたソフィアは、マイの動機に眉をひそめていた。


「こいつイカレてるぞ」


 オレの方を見て言う。


「うん知ってる。……ていうかソフィア、なんでハダカなの?」


 ソフィアは、なぜか鎧を着ていなかった。

 下着だけを身につけた白い体は、(すす)みたいなものでちょっと汚れていた。


「あっ」


 まさにいま気づいたかのように、慌てて手で身体を隠す。


「見るな!」

「ぶへっ!?」


 しゃがみながら顔面に砂を投げつけてきた。


「ぷわっ! 目が! 目に入った!」

「私の固有スキルのデメリットだ。数十秒で鎧が焼け落ちてしまう」

「痛いイタイいたい! コン様とってェ!」

「仕方ないのう……」


 やっとの思いで目を開ける。

 ソフィアはまだ若干赤い顔で、手近にあった屋台の飾り布を体に巻いていた。


「まったく……恥を知れ。エロ勇者」

「てめーいつか寝込みに顔面砂ぶっかけてやるからな……」


 悪態をつきながらオレはマイに目を向ける。彼女はまだそこにへたりこんでいた。

 まあ、いまさっき殺されかけたんだ。無理もない。


「大丈夫か?」 


 オレは彼女に声かけた。ポケットにはモーテルで拾った兄貴の御守りが入っている。


「なあ、君あのときの……」

「た……また……」


 マイは俯いたままなにやらブツブツと呟いている。


「また……助けられちゃった」


 そのとき、彼女の影がひとりでに動くのが見えた。

 モーテルでの出来事がフラッシュバックした。


「大丈夫かい? マイ」


 オレとコン様が身構えたとき、影の中から美少年が出てきた。

 サラサラの銀髪に、青と白の着物を着た。


「ば、バオちゃん……?」


 マイが驚く。「あなた、人前では出てきちゃいけないんじゃ……」


「こいつらは危険だからね。キミを助けるためだ」


 冷ややかな笑みを浮かべながら、オレたちを見据えて言う。

 こいつ……。


「バオ。その娘、依代として利用しておるだけじゃろう」

「それを言うなら君も同じだろう。コン」


「? ?」ソフィアがオレの隣でクエスチョンマークを浮かべている。


「誰だ?」

「実はあいつがかくかくしかじか……」

「なにっ!? 第二の神!?」

「で……かくかく……」

「転生させた!? あの女を!? では……あいつが黒幕か!」


 ソフィアは驚いた顔でバオを睨んだ。


 さて、どうする……。

 コン様の弟。あのショタ神は、何故かわからんがコン様とオレを目の敵にしている。

 魔王軍とは関係ないらしいが、王国に帰るのを邪魔してくる以上、戦うしかない。

 だが、単純な力ではたぶん敵わない。

 コン様にまた力を使わせるのも、負担が大きそうだしな……。


「……」


 なら。

 オレはひとつの考えに至った。


「コン様」

「わかっておる」


 ロリ女神はオレを見ないまま応えた。


「よく聞けクスロウ。神の力の源は人々の“信仰力”じゃ。

 その世界における信仰が強いほど力が増す。逆に信仰が薄ければ、極端に弱くなる」

「だからコン様は、この世界じゃすぐ消耗するのか?」

「そうじゃ。いまのわしの力は特別信仰の強い人間……ヌシを憑代とすることで補っておる。バオも同じことで娘を利用している」


「ようは」と人差し指を立てる。


「あの娘がバオのエネルギー源というわけじゃ」

「……なるほど。じゃーマイをこっちに引き込めば勝機はあるってこったな」


 オレがそう言うと、ソフィアが眉をひそめた。


「引き込む?」


 バオの隣に立つマイの方に目を向ける。


「あいつをか? どうやって」

「オレが説得する」

「はぁ?」


 彼女の顔は途端に非難に染まった。


「何を言ってる、無理に決まってるだろ。いいか、あの女は、言葉の通じるようなやつでは無い。いきなり人混みの中でスキルをぶっぱなしたんだぞ。一般人を平気で巻き込んだ」


「…………」


 マイがさりげなく目を逸らしている。


「私は戦ったからわかる。あの女を従わせたいなら制圧するしかない。そういう奴なんだ」

「……いや。違うと思う」

「なぜだ?? なぜそんなことが言える??

  お前は誘拐されたんだぞ!」


 たしかに、誘拐され、監禁され、果てには強制◯入させられかけた。

 マイはクソ野郎に違いない。

 ただ……


「勘だよ」


 結局は、なんとなく、というしかない。

 マイと魔王軍の何が違うのかと聞かれたら明確には答えられない。


「一度クソな行いをした奴を、それだけで見限るってことは、どうもできないんだよな~オレは」

「……そんなもの……」


 ソフィアは呆れた顔でため息をついた。


「もう一度聞く。決めたんじゃな」


 コン様がオレの目を見た。


「やるんじゃな」

「おう」


 オレは強く頷いた。

 説得してやる。

 あの子を救わなきゃ、

 オレはきっと真の勇者にはなれない。



「いつまで話してるんだい?」


 痺れを切らしたバオが、声をかけてきた。

 マイの傷もいつの間にか治し、ふたりで立っている。


「マイ。あのクソ女たちから勇者を取り戻そう」

「……うん」


 顔を近づけたバオに耳元で囁かれ、マイはこくりと頷いた。


「……コン様、ソフィア、マイはオレが説得する。時間稼ぎたのむ」

「うむ。心得た」


 直後、コン様がフィンガースナップの手を作った。


「まったく……!」


 バオがこちらに手を向ける。それより早く、コン様は指を鳴らした。

 バオ、コン様、疑問顔のソフィアが、その瞬間消えた。


「……え??」


 オレと、マイだけがその場に取り残された。彼女は慌てて周囲を見回す。

 これで邪魔は入らない。

 オレと、マイ。

 一体一だ。

 オレは背中の剣に手をかけず、代わりにポケットから御守りを取り出した。

 兄貴から貰った合格祈願。 あの日、図書室で落としていたものだ。


「コレ拾っててくれたんだな」


 マイが目を見開いた。

 オレはその反応であらためて確信した。

 やっぱり彼女はあのときの女子だ。


「思い出したよ」



 ※



 コン様が指を鳴らした瞬間、その場の三人がワープした。

 ソフィアの視界は真っ白になった。

 数秒で景色が戻ると、どこかの建物の屋上にいた。


「どういう腹積もりだい?」


 バオか苛立った顔をして立っている。

 ソフィアの隣でコン様が余裕そうにニヤリと笑った。


「あの娘っ子を依り代に選んだのは失敗じゃったなバオ。クスロウが娘をこちらに引き込めば、ヌシは終わりじゃ」

「……コン……キミは……」


 バオは間を置いて口を開く。


「何も分かってないね。マイはボクを裏切らない。あの子の味方はボクしかいないからね」

「それはクスロウの説得が上手くいかなかったらの話じゃろう」

「ああ……上手くいかないよ。勇者クスロウ……彼は、自分ならマイの理解者になれるとでも思っているんだろうが、間違いだ」


 コン様が眉をひそめる。

 苦し紛れの妄言か。

 しかし、バオはなにやら不敵な笑みを浮かべていた。


「あの子は、勇者クスロウとは違う。ただ一点に関して、絶対的にね」


 その言葉は確信めいた悪意をはらんでいた。

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