『第二十七話 ストーカーの攻略法』じゃ
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コン様を背負ってオレは商店街の角を曲がった。
道の先にソフィアの姿が見えた。
出店の残骸が散らばる中で、マイを地面に押さえつけ、今まさに突き立てようとしているところだった。
「やばっ……待て!」
「そやつは魔王軍ではない!」
オレとコン様は慌てて止めに入った。
「愛してるから、だと? なんだそれは……そんなことで人を誘拐したのか」
説明を聞き、剣を収めたソフィアは、マイの動機に眉をひそめていた。
「こいつイカレてるぞ」
オレの方を見て言う。
「うん知ってる。……ていうかソフィア、なんでハダカなの?」
ソフィアは、なぜか鎧を着ていなかった。
下着だけを身につけた白い体は、煤みたいなものでちょっと汚れていた。
「あっ」
まさにいま気づいたかのように、慌てて手で身体を隠す。
「見るな!」
「ぶへっ!?」
しゃがみながら顔面に砂を投げつけてきた。
「ぷわっ! 目が! 目に入った!」
「私の固有スキルのデメリットだ。数十秒で鎧が焼け落ちてしまう」
「痛いイタイいたい! コン様とってェ!」
「仕方ないのう……」
やっとの思いで目を開ける。
ソフィアはまだ若干赤い顔で、手近にあった屋台の飾り布を体に巻いていた。
「まったく……恥を知れ。エロ勇者」
「てめーいつか寝込みに顔面砂ぶっかけてやるからな……」
悪態をつきながらオレはマイに目を向ける。彼女はまだそこにへたりこんでいた。
まあ、いまさっき殺されかけたんだ。無理もない。
「大丈夫か?」
オレは彼女に声かけた。ポケットにはモーテルで拾った兄貴の御守りが入っている。
「なあ、君あのときの……」
「た……また……」
マイは俯いたままなにやらブツブツと呟いている。
「また……助けられちゃった」
そのとき、彼女の影がひとりでに動くのが見えた。
モーテルでの出来事がフラッシュバックした。
「大丈夫かい? マイ」
オレとコン様が身構えたとき、影の中から美少年が出てきた。
サラサラの銀髪に、青と白の着物を着た。
「ば、バオちゃん……?」
マイが驚く。「あなた、人前では出てきちゃいけないんじゃ……」
「こいつらは危険だからね。キミを助けるためだ」
冷ややかな笑みを浮かべながら、オレたちを見据えて言う。
こいつ……。
「バオ。その娘、依代として利用しておるだけじゃろう」
「それを言うなら君も同じだろう。コン」
「? ?」ソフィアがオレの隣でクエスチョンマークを浮かべている。
「誰だ?」
「実はあいつがかくかくしかじか……」
「なにっ!? 第二の神!?」
「で……かくかく……」
「転生させた!? あの女を!? では……あいつが黒幕か!」
ソフィアは驚いた顔でバオを睨んだ。
さて、どうする……。
コン様の弟。あのショタ神は、何故かわからんがコン様とオレを目の敵にしている。
魔王軍とは関係ないらしいが、王国に帰るのを邪魔してくる以上、戦うしかない。
だが、単純な力ではたぶん敵わない。
コン様にまた力を使わせるのも、負担が大きそうだしな……。
「……」
なら。
オレはひとつの考えに至った。
「コン様」
「わかっておる」
ロリ女神はオレを見ないまま応えた。
「よく聞けクスロウ。神の力の源は人々の“信仰力”じゃ。
その世界における信仰が強いほど力が増す。逆に信仰が薄ければ、極端に弱くなる」
「だからコン様は、この世界じゃすぐ消耗するのか?」
「そうじゃ。いまのわしの力は特別信仰の強い人間……ヌシを憑代とすることで補っておる。バオも同じことで娘を利用している」
「ようは」と人差し指を立てる。
「あの娘がバオのエネルギー源というわけじゃ」
「……なるほど。じゃーマイをこっちに引き込めば勝機はあるってこったな」
オレがそう言うと、ソフィアが眉をひそめた。
「引き込む?」
バオの隣に立つマイの方に目を向ける。
「あいつをか? どうやって」
「オレが説得する」
「はぁ?」
彼女の顔は途端に非難に染まった。
「何を言ってる、無理に決まってるだろ。いいか、あの女は、言葉の通じるようなやつでは無い。いきなり人混みの中でスキルをぶっぱなしたんだぞ。一般人を平気で巻き込んだ」
「…………」
マイがさりげなく目を逸らしている。
「私は戦ったからわかる。あの女を従わせたいなら制圧するしかない。そういう奴なんだ」
「……いや。違うと思う」
「なぜだ?? なぜそんなことが言える??
お前は誘拐されたんだぞ!」
たしかに、誘拐され、監禁され、果てには強制◯入させられかけた。
マイはクソ野郎に違いない。
ただ……
「勘だよ」
結局は、なんとなく、というしかない。
マイと魔王軍の何が違うのかと聞かれたら明確には答えられない。
「一度クソな行いをした奴を、それだけで見限るってことは、どうもできないんだよな~オレは」
「……そんなもの……」
ソフィアは呆れた顔でため息をついた。
「もう一度聞く。決めたんじゃな」
コン様がオレの目を見た。
「やるんじゃな」
「おう」
オレは強く頷いた。
説得してやる。
あの子を救わなきゃ、
オレはきっと真の勇者にはなれない。
「いつまで話してるんだい?」
痺れを切らしたバオが、声をかけてきた。
マイの傷もいつの間にか治し、ふたりで立っている。
「マイ。あのクソ女たちから勇者を取り戻そう」
「……うん」
顔を近づけたバオに耳元で囁かれ、マイはこくりと頷いた。
「……コン様、ソフィア、マイはオレが説得する。時間稼ぎたのむ」
「うむ。心得た」
直後、コン様がフィンガースナップの手を作った。
「まったく……!」
バオがこちらに手を向ける。それより早く、コン様は指を鳴らした。
バオ、コン様、疑問顔のソフィアが、その瞬間消えた。
「……え??」
オレと、マイだけがその場に取り残された。彼女は慌てて周囲を見回す。
これで邪魔は入らない。
オレと、マイ。
一体一だ。
オレは背中の剣に手をかけず、代わりにポケットから御守りを取り出した。
兄貴から貰った合格祈願。 あの日、図書室で落としていたものだ。
「コレ拾っててくれたんだな」
マイが目を見開いた。
オレはその反応であらためて確信した。
やっぱり彼女はあのときの女子だ。
「思い出したよ」
※
コン様が指を鳴らした瞬間、その場の三人がワープした。
ソフィアの視界は真っ白になった。
数秒で景色が戻ると、どこかの建物の屋上にいた。
「どういう腹積もりだい?」
バオか苛立った顔をして立っている。
ソフィアの隣でコン様が余裕そうにニヤリと笑った。
「あの娘っ子を依り代に選んだのは失敗じゃったなバオ。クスロウが娘をこちらに引き込めば、ヌシは終わりじゃ」
「……コン……キミは……」
バオは間を置いて口を開く。
「何も分かってないね。マイはボクを裏切らない。あの子の味方はボクしかいないからね」
「それはクスロウの説得が上手くいかなかったらの話じゃろう」
「ああ……上手くいかないよ。勇者クスロウ……彼は、自分ならマイの理解者になれるとでも思っているんだろうが、間違いだ」
コン様が眉をひそめる。
苦し紛れの妄言か。
しかし、バオはなにやら不敵な笑みを浮かべていた。
「あの子は、勇者クスロウとは違う。ただ一点に関して、絶対的にね」
その言葉は確信めいた悪意をはらんでいた。




