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『第二十六話 固有スキル』じゃ

 

 昼休みの校舎。

 廊下を歩いていたマイは、ふと騒ぎの声を聞いて、振り返った。


「オラ、どけよっ!!」

「いっ!」


 数人の不良が、一人の男子生徒を囲んでいた。蹴飛ばされたその生徒はつんのめって廊下の床に倒れている。


 周りの生徒や、先生たちは、何も見ていないかのように通り過ぎていく。


 とっさに、マイは不良たちに向かって一歩踏み出した。

 はっと我に返り、自分の足を見下ろす。

 足はそこで固まったように動かなかった。 マイは制服の胸ポケットを握りしめて気合いを入れ直した。

 しかし、やはり動かない。


「もうこの学校にな、お前の味方なんざいねーんだよ!」


 不良の言葉が廊下に響いた。

 結局マイは、何もできなかった。周りの人たちと同じように見て見ぬふりをした。


 あのとき声をかけていれば。


 後悔した頃にはもう遅かった。



 ※



「《炎鎧(ファイアアーマー)》」



 屋台の残骸が散らばる、商店街の一角。

 炎に全身を包んだソフィアが、マイに向き直る。


「……レベル50を越えた人間には、それまでの通常スキルとは異なる特殊なスキルが発現するようになる」


 《植腕》で生み出したツタたちが一瞬で焼き尽くされた。

 マイはチリチリとした熱気を感じながら冷や汗をかいていた。


「これは私の《固有スキル》だ」


 固有スキル。

 そんなものは初耳だった。

 実際は、彼女が犬神バオから与えられた《植腕》も似た性質だが。

 そこまでの説明は受けていない。というか聞かなかった。


「覚悟はできてるんだろうな。魔王軍」


 ソフィアは地面に刺さった剣を抜いた。


「ま……おうぐん……?」


 マイは疑問を感じながらも、すぐさま追撃の手を打った。

 得体の知れない危機感があった。

 再び《植腕》を発動し、呼び出した先程よりもかなり太いツタを、放つ。


 対して、ソフィアはその場で剣を脇に構えた。


「《炎撃》」


 唱えた瞬間、刀身から火炎が噴き出す。

 さながら炎の大剣となったそれで、ツタを真正面から切り抜ぬいた。


 ビチビチビチ――!


 ツタは勢いのまま、横半分に引き裂かれていった。さながら2枚におろされる魚のように。

 裂かれた先は一瞬で焼き尽くされて炭となり、彼女の背後にバラバラと霧散する。


「なっ――」


 マイが驚愕した。

 次の瞬間には、ソフィアの姿はそこから消えた。


「――――あ?」


 と思えば、首筋に冷たい感覚が触れていた。

 なにが起こったのかわからなかった。

 それが剣だと認識した時には、刀身はすでに肌に食いこみーー


 首を切り落される、寸前。


 マイの足元の影がひとりでに後退した。マイ自身も影に引っ張られるように、同じ動きをとる。


 刀身が、ギリギリで空を切った。


「チッ……!」


 すぐ耳元で舌打ちが聞こえる。ソフィアが剣を振り抜いた姿勢で目の前にいた。

 その身体は既に炎に包まれてはいなかった。


「……ぁあ……ぶ……ないよっ!!」


 薄く切られた首をおさえたマイは、とっさに《植腕》で防御しようとする。

 だがソフィアの動きの方が早かった。地面から生えるツタを紙一重で避け、さらに肉薄する。


 マイは、呆気なく地に押さえつけられていた。


「う……くぁ……ああっ!」


 右手に剣を突き刺され、左手は踏みつけられた。

 身動きが取れない。

 スキルを使おうにも痛みでそれどころではなかった。

 リストカットくらいしか経験のないマイには、腕を串刺しされるなど想像を絶する痛みだった。


「ああああ!!」

「さあ、クスロウはどこだ」


 ソフィアは容赦なく刃をねじ込んでくる。


「言わなければこのまま腕を落とすぞ」


  マイは激痛に唇を噛みしめた。

 でも、口は割らない。意地でも。

 ひたすら痛みに堪える。


「…………キサマ……」


 そんなマイの意思の固さは、事情を知らないソフィアからすれば意味不明でしかなかった。


「なんなのだ……キサマは……キサマらは。なんのために、そこまでして人に不幸を振りまく!?」


 めちゃくちゃになった商店街を見回し、言う。


「キサマら魔王軍のせいで、どれだけの人間が、傷ついたか!」

「……ああたし……は……そんなの、じゃない」


 息も絶え絶えになったマイが返す。


「この期に及んでとぼけるか……」


 ソフィアの目が冷たくなった。

 彼女の脳裏には、王国からの手紙で読んだ故郷の惨劇が浮かんでいた。


「……もういい。何も言わないなら」

「ッあっ!?」


 なかば無意識に、剣をマイの手から引き抜いた。


「死ね」


 そのまま喉元を突こうとした、瞬間。



「まて! ソフィア!」



 背後から声がした。


 幼女を背負った、見慣れたクズ勇者がこちらに走ってきていた。



「クスロウ……コン様……」



 二人の姿を見て、一瞬、気が緩みかける。

 と、しまった。

 すぐに引き締め、マイの首に剣を突きつけ直す。


「なにを止める!! こいつは……」

「勘違いだ!」

「その娘は魔王軍ではない!」

「……なに?」


 マイを見下ろした。彼女はびっしょり汗をかいた顔で、小さく頷いた。

 勘違い……?

 それでは、こいつはいったいなんのために……


「なら、なぜクスロウを誘拐した??」


 視界の端でクスロウがコン様を背中から下ろしている。


「あっ、愛してる……から……」


 マイはたどたどしく、しかしはっきり答えた。


「…………はぁあ……??」


 困惑するソフィア。



「やれやれ、世話が焼けるね」



 そのとき、マイの影が大きくうごめいた。

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