『第二十五話 マイVSソフィア』じゃ
「そういえば、どうやってオレの居場所がわかったんだ?」
モーテルを出て、ソフィアの居場所へ向かう途中。オレはコン様に訪ねた。
「……あとなんでオレがおんぶしてんだ?」
「年寄りを楽させるのに理由がいるか?」
コン様はオレの背中で進行方向を指さしながら返してくる。
また力を使いすぎたのか、少し疲れているようだった。
「ヌシの居場所は、こやつに案内してもらったのじゃ」
コン様が言うと、彼女の着物の胸元から金色の鳥が飛び出してきた。
「ドコニイタンヤ!」
「うわっ」
オレの顔の周りを飛びまわる。
前が見えねえ!
「オマエドコホッツイトンネン! マジオマエ! ブッコロスゾ!!」
「はぁ?? んだこの悪口鳥??」
「伝書鳥じゃ。ヌシ宛の手紙を王国から届けに来たのじゃ」
「オレ宛?」聞き返す。
王国から?
「まさか……」
「ヌシの婚約相手からのな」
コン様は前を向いたまま答えた。
「やっぱり!」
リアーナが、オレに手紙を……。
嬉しい~~!
どういう内容だろう。胸が高鳴るぜ。
だが一方で、疑問も浮かんだ。
コン様の表情が、また少し険しくなっていた。
「早く読みてえよ! ソフィアが持ってるのか? ……どしたの?」
「クスロウ。詳しいことは後で説明する。いまは目の前のことに集中するのじゃ」
コン様はなぜか突き放すように言った。
「あ? なんだよ……わかってるけど」
まあ確かに。今する話でもないか。
オレは意識をソフィアとマイの方に向け直した。
なぜか胸騒ぎがしていた。
※
数分前。
クスロウらが滞在する街の市場。
色とりどりの屋台が並び、人で賑わう道を、マイは走っていた。
クスロウにもう一度自分の思いを伝えるために。
気持ちを整理して、モーテルに帰るところだ。
「く、クスロウ様……クスロウ様!」
行き交う人にすれ違うたびぶつかりながら、走っていく。
そんな時。不意に鎧姿の女が立ち塞がった。
「ぃいたっ!!」
ゴチン!
背が高いその女の胸に、思い切り顔をぶつけた。
「いった~……」
「こんな人混みで走るな。危ないぞ」
「ご、ごめんなさい……あの、わ、わたし急いでるので」
顔を俯けたまま頭を下げる。そそくさと脇を通り過ぎようとした。
すると女はマイの肩を掴んだ。
「待て」
「……え?」
「ひとつ聞きたいことがある」
そこで初めて女の顔を見上げた。
ドクン、と心臓が鳴った。
見覚えがある顔。
こいつは、あの時の。クスロウ様の隣にいた騎士の女だ。
確か名前はソフィア。
「キサマ、いまクスロウという名を呼んでいたな」
まずい。
「そいつの所に向かっているのか? 丁度いい。私も、同じ名の男を探していたんだ」
「ちょっと案内してもらえるか」ソフィアはマイを見下ろして言った。
「あ……う……」
こういう強そうな人間と相対したとき、マイは言葉を発することができなくなる。
喉が縮み上がるように、言うことを聞かない。
マイは目を左右に泳がせ、口をパクパクしながら必死に弁明しようとした。
その様子を見たソフィアが疑う顔になる。
「どうした? 顔色が悪いぞ」
ドク、ドク、心臓の鼓動が早くなる。
「少し休んだ方がいいんじゃないか? どこか近くのモーテルで」
「っ!!」
思わず肩を跳ねさせ、後からはっとなった。
だがもう遅い。カマをかけたソフィアは、「なるほど」と呟いた。
「……モーテルか。キサマがクスロウを監禁している場所は」
冷徹な声。
目が合った。
その瞬間、ソフィアはマイの肩を離した。
慌てて後ずさるマイに対して、すらりと抜いた剣を突きつける。
「大人しく案内しろ。誘拐犯」
「ゆっ……!」
誘拐犯??
なんて酷い言いがかりだ。まるで犯罪者みたいに。
私はクスロウ様と二人きりでお話してただけなのに。
「あっ……あなっ……」
「ん?」
「あ、あなたこそ、クスロウ様を、苦しめないでください」
ソフィアが眉をひそめる。
「こっ、これ以上あたしの……あたしたちの、邪魔をするなら……あなたを許さない」
マイの目がすわっていた。ローブからだらんと出した両手を前に向ける。
「ッ!?」
ソフィアは反射的に後ろに飛んだ。
直後、鋭い衝撃が盾にした剣を叩き、彼女を十数メートル弾き飛ばした。
そのまま屋台に突っ込み、売り物を盛大に散らかしながら着地する。
見ると、マイの足下から奇怪な植物が生えていた。
「おいで……《植腕》」
異様に巨大で、無数のトゲが生えた紫色のツタだ。
アレが奴のスキルか。
なんと気色悪い。
「…………」
加えて、さっきの噛み合わない言動に、奇妙な髪色。
やはりこいつは魔王軍に違いない。
そう確信しながらソフィアはちらと周囲に目を向けた。
ここは人が多すぎる。
この女、おそらく魔王軍の手先と、本格的な戦闘をすれば、巻き添えが出てしまう。
「場所を変えるぞ」
ソフィアは剣を構えたまま屋台の屋根に飛び乗り、移動しようとした。
「逃がさ……ない!!」
ただ、マイの頭にそんな配慮は毛頭なかった。目の前の邪魔者を排除することだけを考え、彼女の《植腕》がそれを実行する。
「!? キサマ……」
紫色のツタがうねりながらすさまじいスピードで伸びる。
ソフィアがとっさに避けると、ツタはその先にいた通行人を弾き飛ばした。
「うぎゃっ!」
「クソ……オイやめろ!」
「ツタちゃんたち、捕まえてぇ!!」
さらに二本のツタがソフィアに襲いかかる。今度は避けるわけにもいかず、やむなく剣でさばいた。
折れそうなほど強い衝撃。また数軒の屋台を突き破って吹き飛ばされる。
いきなり始まった戦闘に、通行人たちは逃げ惑っていた。
「ぐ……う……」
彼らにお構いなく、ツタはうなりながら攻撃を繰り返す。
防戦するソフィア。周りを巻き込まないことに必死で、とても反撃できる状況ではなかった。
「なんだ、こいつの力は……!」
本人は大した気迫もないのに、スキルの威力はすさまじい。
能力と技術がつり合っていないようなちぐはぐさだ。
まるでどこかの誰かのように……。
「あなたたち、クスロウ様には、もう近づかせない!!」
ついに一本のツタがソフィアの足を捉えた。
即座に絡みつき、宙吊りにされて、建物の壁に叩きつけられる。
「ぐ……は……!」
剣で切り払おうとすると、さらに二本が襲いかかってきた。剣を持つ腕と、胴体に絡みつく。
すさまじい力で締めあげられる。
「ゥ……ア……!」
息ができない。意識が遠のきかける。
「死ん……で……!!」
マイは激情のままツタに命令した。
私とクスロウ様の邪魔は誰にもさせない。
あのとき助けられなかったクスロウ様を、今度こそ私が、救ってあげるのだ。
そう思ってソフィアを締め続けていた時、ふと異変に気づいた。
「……え?」
ツタから黒い煙が上がっている。
と思った瞬間、三本のツタが一気に燃え上がった。
苦しみ悶えるように暴れ回り、一瞬で黒炭と化していく。
「……これは使いたくなかったんだがな。仕方ない」
解放されたソフィアが呟く。その全身が燃えていた。文字通り炎に包まれていた。
「え? なに、それ……」
チリチリとした熱がマイのところまで伝わってくる。
気づけば周囲に人はいなくなっていた。
「キサマらが私の故郷にした仕打ち、この場で返させてもらうぞ」
ソフィアは鋭くマイを睨んだ。
「覚悟はできてるな」
深い憎悪を宿した目だった。




