表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/40

『第二十四話 第二の神』じゃ

 

「初めまして。勇者クスロウくん」


 青と白の着物を着た、9、10歳くらいのガキ。

 そいつは微笑みながら、床に縛られたオレを見下ろしていた。

 凄まじく美形な顔立ちはやたら大人びていた。


「ボクは犬神バオという。姉のコンが世話になってるね」


 犬神。

 そう。神と言えばあの女神。

 やっぱりこいつは似ている。


「あねぇ?? って、きみ、コン様の弟?」


 オレが聞き返すと、バオと名乗った少年はにっこり笑った。


「そうさ。まあ、歳の差はほんの2千年ほどしかないんだけどね」


 ノンケのオレでも一瞬グッと来そうになる可愛らしさだ。コン様からサディスト要素を抜いた感じというか。

 なんにせよあの女神の親戚ということは、助けに来てくれたに違いない。

 そうだ。緊急事態だから助っ人的なヤツを呼んでくれたんだろう。


「よかった……いやぁ~助かった。ありがとねバオくん……バオくん?」


 オレは安心して、縄を解いてもらえる気マンマンで待っていたが、

 バオは動かない。


「ああ、べつに君を助けに来たわけじゃない」


 彼は手を振った。オレの横をスタスタと歩き、扉を開ける。

 外を覗くと、また閉めて、施錠した。


「君を見張りに来たんだ」

「見張り?」

「悪いけどボクは、君じゃなく、マイの味方なんだ。だから君を奪われるわけにはいかない」

「な、お前っ……」


 マイを知っている。しかもあいつの肩を持っている。

「もうすぐここに君の仲間が来る」バオは続けた。


「狐神コンと、騎士のソフィア。ふたりを阻止するのがボクの役目さ」

「おまえ、まさかこの世界にマイを連れてきたのは……」

「うん。ボクだよ」


 バオは当然のように答えた。

 こいつの目的はなんなんだ。

 オレの邪魔をすること?

 マイの願いを叶えること?

 魔王軍とは、まったく関係ないのか?


「なんでそんなこと……」

「あの子は自殺しようとしていたんだ」


 すると思わぬ言葉が返ってきた。


「君が事故死した、すぐ後にね。目の前で轢かれてしまったのが相当心に来たんだろう」

「目の前……?」

たまたま(・・・・)現場に居合わせていたんだ。轢かれる直前に喋ったはずだよ。

 覚えてないかい?」

「…………」


 そういえば……

 学校に行かなくなって、やることもなく神社に掃除をしに行くようになった頃。

 いつも行きと帰りの道で、誰かに見られているような感じがした。

 それである日声をかけられたんだ。見知らぬ女の子に。

 オレと同じ高校の制服を着ていた。フードを被ってたから顔はわからなかったけど。

 あれがマイだったのか?


「君が死んで、彼女は生きる希望を失ったんだ。だからボクが、君のいる世界に連れてきた」

「……そんなことしてお前になんの得があるんだ」

「ふ、君は知る必要のないことさ」


 そのとき、オレは自分の足元の異変に気づいた。

 オレの足が床に沈み込んでいる。いや、影に沈んでいく。

 バオの影の中に。


「一緒に来てもらおう。悪いようにはしない」

「うっ、ぐ……!」


 引きずり込まれる!

 そう思った瞬間、


 壁が吹き飛んだ。



「ずいぶん好き放題してくれたのう」



 外光が部屋を包み、オレの足元にあった影も消える。

 壁に空いた大穴から、赤と白の巫女服を着た幼女――コン様がふわりと降り立った。


「好き勝手するのもそこまでじゃ。犬コロや」

「コン……久しぶりだねぇ」


 バオが笑顔で向き直る。


「数百年ぶりかな。姉様?」

「その呼び方はやめろ……まさかヌシも下界に来ていたとはな。クスロウを放せ」

「おいおい、君~、いまは要求できる立場じゃないだろ」


 オレの肩を掴んだままバオは言った。


「どうして創造主の許可もなく死人を蘇らせているのかな?」

「ヌシには関係のないことじゃ。クスロウを返せ。バオ」


 コン様は語気を強めた。いままで見た事のないコワイ表情をしている。

 眉間に皺を寄せ、心底腹立たしそうだった。


「そういうわけにはいかない。世界の均衡を乱す行為は見過ごせないな」

「ヌシとてあのマイという娘っ子を転生させたであろう」

「いいや、あの子の場合は転移だ。生きている人間を連れてくるのと、死んだ人間に第二の生を与えるのとでは、均衡に及ぼす影響が全く違う」


 つらつら喋るバオ。

 転生はダメで転移はオーケー? よくわからん理屈だ。

 コイツ適当にそれっぽく喋ってるだけじゃねーのか。


「それにマイは元々こちら側に生まれるはずだった人間だしね」

「どうでもよい。はやく、返せと言っておるのじゃ」


 コン様はというと、一歩も引かずにもう一度要求する。


「はぁあ~……」


 するとバオも、すこし苛立つようにため息をついた。

 痛っ。いたたたたっ。

 オレの肩を掴む手に力がこもる。


「コン、相変わらず対話ができないヤツだな。君のそういうところ、昔から嫌いだよ」

「ヌシの見下した物言いにいちいち応える気は無い。ムカツクからの」


 ロリと、ショタが、オレの目の前で睨み合っている。両者の間には火花が激しく散っていた。

 なんだ。こいつらめちゃくちゃ仲悪いぞ。


「あーそうかそうか。じゃもうここで殺っちゃおうか」

「え?」

「そうじゃな。決着をつけるとするかの」

「いやいやちょっと待って待って!」


 両者がおもむろに右手を前に出すと、遂にはモーテルの部屋全体がミシミシと震え出したので、オレは慌ててふたりを静止した。


「ここでやって大丈夫それ!? 人質(オレ)いるよ? 巻き込まれるよ?」

「うるさいな。引っ込んでろよ人間(下等生物)

「下等生物?」


 いまナチュラルに見下された?


「…………いや。そうじゃな。やめじゃ」


 だが、コン様はオレの声を聞いてくれた。冷静な表情に戻り、気配もやわらぐ。


「バオよ。ヌシが創造主の命令でここに来たのなら、わしは大人しく捕まろう」


 え?


「処罰を受ける。その代わりクスロウは解放しろ。そやつにはやるべき事がある」

「お、おい、コン様、何言ってんだよ」


「…………」


 沈黙が流れる。

 バオは神妙な顔で考えていた。

 それから口を開く。


「イヤに決まっ――ごはっ!?」


 答えようとしたバオの顔面に、コン様が拳を叩き込んだ。

 ボクサー顔負けのシンプルなストレートだった。

 爆発のような音と衝撃波が生じ、バオは壁の穴から外に吹っ飛んでいった。


「……フン。隙を見せすぎじゃ」


 コン様は手を払うと、オレに近づき縄を解いてくれた。

 いや、この女神……


「なんだ、騙し討ちかよ。卑怯なことするなァ……」

「なあにクスロウの真似じゃ」


 コン様はニヒルに笑って言った。

 つまりさっきの言葉は嘘ということだ。

 オレはホッと胸をなでおろした。


「あれであいつを倒せたかな?」


 久しぶりに自由になった身体を動かし、オレは尋ねた。


「いや。そもそもアレは奴の本体ではなかったな」

「……どういうこと?」

「殴った時の感触が軽すぎた。恐らく影で作ったただの分身じゃ。本体は……マイという娘っ子のところじゃな」


「そっちはソフィアがおさえておる。加勢に行くぞ」コン様は扉を開いて言う。

 部屋を出ようとして、「おっと」と思い出したように振り向く。

 《封印剣》を取り出した。


「……サンキュー。でも今日は使わないよ」


 オレは受け取った剣を背負う。

 この剣を鞘から抜くことは無い。

 あのストーカー女はイカれてるが、魔王軍ではなかった。ただちょっと、周りの人間と違う性質を持ってるだけ。

 その点ではオレと同じだ。


「マイは倒さない。あの犬神とか言うやつに利用されてるだけだ」

「そうかのう。ヌシを拉致して監禁したのじゃぞ」

「まあね。でもオレにはわかるんだよ。あいつは根っから悪いヤツじゃない……なんとか救わないと」


 オレはなぜかそう思っていた。他人を助けたいなんて本心から思ったことの無いオレが。

 コン様は意外そうにオレの顔を見た。


「あの子は……ちょっと前のオレなんだ」


 いや、だからこそか。もしオレと同じような人間が、自分をコントロールできずに、道を踏み外そうとしているなら。

 止めたい。それは、やっぱり自分が救われたいからだ。

 あの子を見捨てたら自分を見捨てたような気分になるからだ。


「……そうか」

 

 コン様は納得した顔でうなずいた。オレは言葉足らずだったと思うけど、コン様には伝わった。


「そういう事なら、はよう言わぬか。ホレ急ぐぞ♪」


 快活な声とももにオレの背中を叩いた。

 オレはありがてえなと思いながら、頷いた。


 モーテルを出て、マイの元に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ