『第二十三話 マイの正体』じゃ
※
「でさ~」
「ギャハハハハ!!」
人気ない放課後の図書室。
不意に派手な談笑が聞こえて、マイは本から顔を上げた。
入口前の机で数人の男子生徒がたむろしている。
最近ここに入り浸るようになった不良たちだ。このあたりの地域では有名らしい。
「……」
マイにとっては、学校内で唯一の居場所である図書館が、彼らの威圧的な声で満たされている。
「おい……」
無意識に見ていると、一人と目が合ってしまった。
慌てて本に視線を戻したが、彼らはなにやら言葉をかわすと「ねえねえ」と声をかけてきた。
「その髪どーなってんの?」
「校則引っかかってねー? それ」
「やべーよ不良じゃーん」
マイの、なぜか生まれつき紫色の髪を指して話しかけてくる。
「っ、……じっ……げです」
「あ? なに?」
取り囲まれながら、なんとか言葉を絞り出そうとした。
「あっ……あのっ…………だっだだ、から」
「なんだ?? めちゃくちゃどもってんじゃん」
「オイ何言ってっかわかんねーよ。普通に喋れない?」
そう、普通に喋れないのだ。小さな頃からずっと、他人を避けてきたから。
自分は普通じゃないと教えられて育ったから。
「なあ、お前俺たちのことずっとチラチラ見てたよな」
ドカッ、と、彼らのリーダー格らしき人物が机に座った。
「なんか文句あんなら言えよ。ほら」
マイの目をじっと見て、低い声で言う。
「あっ…………あ……」
「俺らべつになんも悪いことしてないよな?」
恐い。
逃げたい。
でも、動けない……。
そう思った時。
「してるだろ」
声がした。
不良たちが振り向くと、一人の男子が立っていた。
マイは、てっきり、図書室には自分と不良たちしかいないと思っていたので驚いた。
「そんなことして、何が楽しいんだ?」
彼はマイの方をちらと見て、それから毅然と言い放った。
「喋りたいなら他所行けよ。ここは本読むとこだぜ」
「はぁ? なにお前、なにイキがってんの?」
鼻で笑ったリーダーは、そんな男子の胸を軽く突き飛ばした。
彼は呆気なくよろけて、尻もちをつく。
リーダーがこちらに向き直った。
「で、なんの話しだっ――ーーげ゛っ!?」
次の瞬間、ゴッと鈍い音が響いた。
「ぅ――――ん」
そいつが、突然ぶっ倒れた。
「リュ、リュウジくん!?」
さっきの男子が百科事典を手にして立っていた。
「言葉で言ってもわかんねえなら、仕方ないな!」
「いやっ、だからってソレで頭殴っていいわけねえだろ! 頭イカれてんのか??」
リーダーを抱きかかえた不良たちが叫ぶ。
「誰に手出したかわかってんだろうな!」
「リュウジくんは校長の息子だぞ!」
「あぁ? 知るかよそんなもん!!」
マイの目の前で殴り合いの喧嘩が始まった。
「抑えろ抑えろ!」
「あっ!? こいつ金的入れやがったッ!」
不良につっかかったその男子は、べつに力が強いわけでも、体格がいいわけでもなかった。数人がかりで抑え込まれボコボコにされていた。
それでも、股間を蹴り、耳を引っぱり、指を噛み、そんな執念がどこから来るのか全くわからないが、とにかく抵抗し続けていた。
その姿を見たマイは、今まで感じたことの無い胸の高鳴りを覚えた。
他人は自分に奇異の視線を向けてくる存在でしかない。だが彼がさっきの一瞬、マイに向けたあの目は、なにかが違った。
その後、飛んできた学年主任によって喧嘩は止められ、全員が職員室に連れていかれた後。
誰もいなくなった図書室で、マイは床に落ちていたものを拾い上げた。
御守りだった。
裏面を見ると、《クスロウガンバレ!》と書かれていた。
「クスロウ…………様……」
彼のことがもっと知りたい。
マイはこの日からそう思うようになった。
※
「これは」
思い出した。
オレは縛られた体をなんとか動かしベッドから転げ落ちると、扉の前に落ちていた御守りを拾った。
裏返してみると、《クスロウガンバレ!》という兄貴の字がそこにあった。
間違いない。受験期に兄貴たちにもらって、あの日に無くしていたものだ。
「そうだ。あのとき……」
オレが高校に行かなくなるキッカケになった日だった。
図書室の奥棚に隠し置かれたエッチ系ラノベを読んでいたら、女の子が不良に囲まれてる場面を目撃した。で、たしかモテたい一心で割って入ったんだ。
結果はボコボコにされて、次の日からオレがターゲットになっただけだったが……。
『あたしが不良に、か、絡まれていたとき……あなたが身代わりになってくれたんだよ』
あのときの変わった髪の女の子。
そう、あれがマイだ。
まさか前世で会っていたなんて。
なんであの子がこの世界にいるんだ……?
オレと同じなら、あの子も前世で死んで、神様に転生させてもらった、とか?
さすがにまたコン様が仕組んでるなんてことはないよな。マイはコン様が女神だって知らないみたいだったし。
いくらあのドS女神でもここまではやらないだろ。
この状況は更生プログラムとかの次元じゃないもんな。
となると……
「……別の神様の仕業か」
ふと、コン様が言っていた《天界》というワードが頭をよぎった。
神が何人いるのかわからんが、もしかしたらあの子も誰かに気に入られて、第二の命を与えられたのかもしれない。
いや、マジでただの想像でしかないけど。
「すごいね。ほぼ正解だよ」
え、ウソ当たり?
我ながら冴えてるぅ~……。
「……ってえ?」
異変が起きていた。
モーテルの部屋の壁に写ったオレの影が、ぐにゃぐにゃと動いている。
犬のような形を作ると、次に人の形になる。
「初めまして。勇者クスロウくん」
そして影から少年が現れた。
白と青の和服を着た、十歳くらいのガキ。にも関わらず、その全身から圧倒的な気配が放たれている。
デジャヴ感のある光景。
こいつは……
「僕は犬神バオという」
笑みをたたえた少年が名乗った。
「姉のコンが世話になってるね」
「……あねぇ??」
コン様の弟。
その突拍子もない自己紹介に、オレは納得感を覚えていた。




