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『第二十二話 捜索』じゃ

 

「いや、だめだ。見つからねえ」


 コン様とソフィアは冒険者ギルドに来ていた。

 ロビーに集まった男達が口にした言葉は皆、そのようなものだった。


「どこにもいないの?」

「ドコモオランノカ」


 鬼少年アランが聞く。頭にコン様が怪我を治した金鳥を乗せていた。

「ユウシャ、ドコモオランノカ」と言葉を繰り返している。


「ほんとに隅々探した?」

「サガシタンヤロナ?」

「もちろんだぜ。探索スキル持ち総動員で、路地裏から下水道の中までな」

「アア、ダカラソンナクサイノカ」

「あ?」


 彼らはコン様とソフィアの緊急依頼を受けて、姿を消したクスロウを探してくれていた。

 ほとんどは今朝まで酒場で飲んでいたメンバーだ。本来なら全員二日酔いなはずだが、コン様の解毒によっていまはシラフだった。


「もう街から出たんじゃねえのか?」


 男たちの一人が言った。

 グラプルトとの戦いで冒険者たちを指揮してきたここのリーダーらしき人物だ。


「うーむ。そうかもしれんな」


 コン様は唸ると、「おっと」と手を叩いた。


「報酬を忘れておったな」


 懐に手を入れる。

 するとその男は手で制した。


「いや。あんたらからはなにも受け取れねえよ」

「遠慮するでない」

「遠慮じゃない。ケジメだ。勇者だと知らなかったとはいえ、彼には初対面で無礼なことをした。せめてもの補償だと思って、とっといてくれ」


 他の冒険者たちも同意するように頷いた。

「そうか」コン様はふっと笑って、懐から手を抜いた。


「しかし、実際これからどう探す? 手がかりはなにもないぞ」


 そこで静観していたソフィアが話を戻した。

 全員が考え込むように押し黙る。


「なあ」


 そこでまた一人が手を挙げた。臆病そうな冒険者だった。


「そもそも、クスロウはホントに誘拐されたのか?」

「どういうことだ?」

「逃げ出したんじゃねえのか? 魔王と戦うなんて大役にビビってよ……オレだったらそうするぜ……」

「……」


 その推測に、ソフィアは何も返せなかった。というのも彼女自身そちらの疑念も捨てきれていなかったからだ。


「それはないの」


 だが、コン様はキッパリ否定した。


「なぜ言い切れるんだ?」

「女神のカンじゃ」


 身も蓋もない返しに冒険者たちは困惑した顔をする。

 ソフィアも彼らと同感ではあったが、一方で、コン様にも共感していた。

 まさかこの自分が。

 クスロウを信じたい気持ちが芽生えつつあることを自覚させられたのだ。


「馬車だ」


 彼女は本能的に言っていた。


「男一人を街の外に運び出すなら、必ず使うはずだ」

「荷馬車か……たしかに手がかりがあるかもな」


 リーダー冒険者が頷いた。

 クスロウを必ず王国に届ける。自分の信念のためにも、彼のためにも。

 それがいまのソフィアの素直な気持ちだった。


 貸し馬屋に向かうと、一人の男が掃除をしていた。


「早朝に出た荷馬車……? あぁ……いたよ。一台。なんかデケエ荷物を持った女が借りてな」

「本当か!」


 ソフィアは思わず心の中でガッツポーズした。


「それがどこに向かったかわかるか?」

「あー、山の向こうの街だったっけ……もうすぐ乗せてったドルトが戻るよ」


 男はバケツで水を撒きながら、あっけらかんと言った。


「クスロウはそこにいる。間違いない」


 冒険者ギルドに戻るとさっそくコン様に報告した。

 コン様は目を輝かせて出迎えた。


「よく突き止めたのうソフィア~。そなたがいてくれて助かったぞ♪」

「……いや、べつに大したことでは」

「なら、さっさと追いかけたほうがいいんじゃねえか?」


 冒険者のリーダーが言った。

「そうだな」ソフィアは頷き、冒険者たちをいま一度見回した。


「みんな、恩に着る」

「なあにお互い様だぜ」


 リーダーが気前よく笑った。


 ふたりはアランと冒険者たちに見送られ、街を出た。

 森に入ったところで、コン様のワープで山を越える。

 一瞬で目的地の前に来ていた。


「これは……」


 アランたちの街よりはるかに大きい。そして、奇妙な姿をしていた。

 ふたりの目に映ったのは、荒野に佇む城だった。

 城郭都市なのか。オガネス王都に負けず劣らない立派な外壁をしている。


「見とれておる場合か。誘拐犯を見つけ出すぞ!」

 

 一瞬立ち尽くしたソフィアに、コン様は声をかけた。

 物怖じせず門に向かって歩いていく。


「ハヨイカンカイ」


 ソフィアの肩上に乗った金鳥が、急かすように頬をつついてきた。


「…………」


 深呼吸して、気合いを入れ直したソフィアは、女神の背中を追った。


「モットハヤクアルケ」

「お前ずっと口悪いな」



 ※



「はぁ……」


 マイは深いため息をついていた。


「どうしよう……クスロウ様にきらわれちゃった…………」


 彼女はモーテルを飛び出し、いま街の繁華街を歩いていた。

 当てもなくフラフラと。クスロウのいる部屋には、いまは戻る気は起きない。



「なにを悩んでいるんだい? マイ」



 するとどこからともなく声がした。


「勇者クスロウはもう抵抗できない。君のものになったんだよ」


 それは彼女の足元にある影から発されていた。

 ゆらゆらと形を変え、裂けた口を浮かび上がらせる。さながら犬の顔のようだった。

 しかし周りを歩く人間たちは特に気にもとめなていない。


「……それじゃ意味ないの。彼の心はあたしのものじゃないんだもの」


 マイは前を向いたまま返した。


「フム……心か。そんなに重要かね」

「もちろんよ!

 クスロウ様、あたしと最初に会った時とはまるで別人みたいだった。……きっと、結婚したって言う女に変えられてしまったんだわ。それかあのふたりのどっちか」


「許せないっ」と唇を噛む。


「あたしがクスロウ様を元に戻してあげなきゃっ」

「そうだね。では、彼をボクの元へ連れてくるといい。ボクの力で治してあげよう」


 影はやわらかな声音で囁いた。マイはその言葉にふっと笑って、


「……バオちゃんは優しいのね。いつもあたしの手助けをしてくれる。

 クスロウ様の居場所を教えてくれたのだってそう。ここ(・・)に連れてきてくれたのも」


 どうして?

 ふとそんな疑問が浮かんだが、深くは考えなかった。

 “この存在”がマイの影に取り付いたのは、ほんの一週間前ほど。

 そんな短い付き合いでもわかる。


「勇者クスロウに最もふさわしい女は君だよ。マイ? ボクは君と勇者に結ばれて欲しいんだ」

「……ありがとう。バオちゃん」


 “この存在”は自分を勇者様に導いてくれる――それだけは疑いようがない。

 正体なんてわからなくても構わない。

 ただ、あの人と結ばれるためなら。


 マイは意を決して、来た道を引き返した。

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