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『第二十一話 ストーカーの対処法』じゃ

 

「…………は?」


 その瞬間、空気が凍りついたような気配を感じた。


「え? それ、な、ななに? どどど、ど、どういうこと? 結婚?」

「まあ……正確にはする予定……というか、だった……というか、でもオレはまだその人としたいと思ってる」

「いっ意味わかんないよ。クスロウ様がけっ、けけけ……誰と? ああの二人のどっちか??」


 マイは凄まじい形相でオレに詰め寄ってきた。


「ち、違う。……別の子だよ」


 オレはリアーナの名前は出さなかった。


「なんで? きききききっかけは!??」

「魔物に襲われてるところを助けた」

「ああたしとほぼ一緒!」


 マイは頭を抱え、ヒステリックに叫んだ。


「お、おぉ、おかしいよ! そんなの。あたしの方が先にたっ助けられたのに!」

「……申し訳ないけど、それに関しては本当に覚えてないんだよ。君を助けたのはホントにオレだったのか?」

「そうだよ……! 間違いないよ。あのとき……あたしが不良にかっ、か、絡まれていたとき……あなたが身代わりになってくれたんだよ」


 そう言われてもやっぱり思い出せない。でもひとつ引っかかった。


「不良……? 盗賊とかじゃなくて?」

「あ、や、それは……」


 マイはイヤなところを突かれたように押し黙る。


「と……とにかく……! あたしの方がクスロウ様をあああ愛してるの! そその女より!

 だって……だってずっとずっとあなたのことだけを思ってたんだから! ずっとこの時を待ってたの!」

「うおっ!?」


 そう詰め寄ってくる。ローブを脱ぎ捨てると、ベッドの上で縛られたオレの体に勢いよく跨った。


「ねえ……あたしのほっ方がいいでしょ? そうおお思うでしょ??」


 肌着姿のマイがズボンをおろそうとしてくる。

 いよいよ強行手段かよ!

 こっちもキスまではギリ許容できたが、さすがにこれ以上は無理だ。

 話し合いで解決できないとなると……


 ……仕方ないな。


「ねえ、クスロさがッ! っ……フ!?」


 マイが顔を近づけてきたその瞬間。

 オレは思い切り跳ね起きて、頭突きを食らわせた。


「ああ――!」

「ガァアンム゛!!」


 たまらず顔を抑える、マイの喉に、さらに噛み付く。歯で肉を引きちぎると、鮮血が噴き出した。


「か――くあ――!?」


 彼女は自分の首から出た血で天井が赤く染っていくのを眺めながら、ばたりと床に倒れた。

 オレは息を切らしながら亡骸を見下ろして…………



 …………って。

 いやいや、さすがにこれはやりすぎだろ。



「ねえ、クスロウ様……」


「……やめろ」



 妄想から回帰したオレは、跨ってくるマイの目を見て強く言った。


「いいか、警告だぞ。お前がそれ以上やったら、喉笛噛みちぎってでも阻止する」


 なるべく本気だという意志を込めて。

 マイの瞳に緊張が走り、白い肩がびくりと跳ねた。

 もしコイツがオレにそういう行為を強制するなら、徹底的に抵抗する。

 そこは決して譲れない。オレは王国に帰るまでリアーナを裏切る行為だけはできない。


「なっ、なななんで……そんなこと言うの……クスロウ様。ああ、あたしは、ただ……」


 オレの態度に、マイは動揺したようだった。


「お前なんて知らねえっつってんだろ。しつけえな」


 オレは突き放して言った。


「いい加減にしてくれ。マジでお前のこととか、どうでもいいんだ。早く解放してくれ」


 つい勢いでまくしたてた。

 マイは愕然とした顔をした。


「あ……あ……」


 声にならない吐息を漏らすと、オレの上から崩れ落ちた。

 目の端には涙の粒が浮かんでいた。


「……ひどいよ」


 そう一言残して、ローブを羽織り、黙って部屋から出ていってしまった。


 オレを放置したまま。


「…………」


 あれ?

 なんだ、この複雑な気持ちは。

 これはオレが悪いの?

 イカレ女に配慮なんていらねえ!

 ってつもりで突き放したはずなのに。


「…………うーむ」


 たぶんリアーナのことを思い出したからだ。

 異常者だろうとなんだろうと、女の子を泣かせるのは、やっぱり後味悪い。

 もっと傷つけず諦めさせるやり方があったんだろうか……。


「……いやいやいや。反省は後だ!」


 ともかく。いまはあの子が帰ってくる前にこの部屋から脱出しなくてはならない。

 オレは自力で縄を解こうと画策した。

 ベッドの角で擦り付けて切ろうとする。


「……ッ、かっは! ダメだ!」


 体勢がキツくて変なとこがつりそうになった。

 縄はオレの全身を信じられないほど強固に縛り付けている。結び方とかの話ではないだろう。

 たぶんこれが捕縛スキルというやつだ。


 スキルを解除させるには、術者を殺すか、強制解除のスキルを使うしかない。

 だが今のオレは封印剣が無いのでなんのスキルも使えない。

 我ながらマジ大弱点だなこれ……。


「……あのー……! 誰かーー! 助けてくださーい!」


 もはやオレにできるのは叫ぶことだけだった。

 我ながら情けなすぎる。こんなとこ誰かに見られたら死ぬ。

 でもいまは叫ぶしかない。


「監禁されてますーー! 助けてー! ……ん?」


 オレはベッドの上で縛られたまま、部屋の外に向かって助けを求め続けた。

 ……そこでふとある物が目に入った。


「なんで……あれがここに……」


 扉の前に落ちていた。さっきマイが落としていったらしい。

 神社とかによく売っている受験合格祈願の御守りだ。



『お下がりだけどやる。頑張れよ!』



 オレが前世で、兄貴にもらった物だった。

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