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『第十九話 予想外ラブ』じゃ

 ※


「次はどんな技を見せてくれる?」


「あいつを倒す方法。思いついた。10秒稼いでくれ」


 あのとき、オレの脳裏にはわずかな反撃の糸口が見えていた。


「頼む」

「心得た」


 ソフィアが駆け出す一方、オレは慎重に封印剣を構えた。

 この方法で実際に上手くいくのか、自分でもまだわからない。


「グラプルトの腹……」


 さっきの攻撃の時、間近で見た。リンゴがなる奇妙な植物に覆われていたが鎧は来ていなかった。

 奴はあのとき、明らかに腹への攻撃を嫌がり、庇おうとした。

 そこが弱点なんだ。


 ということは奴も当然、意識的に守っている。

 その防御をかいくぐり、攻撃を当てるのは、少なくとも近接では難しい。

 なら――。


「《土練》」


 オレは、まず封印剣を剣先に土操作のスキルで二本のレールを生成した。


「《鉄化》」


 それをまだ一度も使っていなかったいま保有する最後のスキルでコーティングする。

 できた金属レールの上に、同じく《土練》と《鉄化》で弾丸を生成。

 昔SFゲームで見た微かな記憶と、高校受験の理科の知識を頼りにそれっぽく再現した。

 あとはここに《帯電》で電流を作れば――。



「――押し潰してくれるッ!!」



 グラプルトはいま、ソフィアとの攻防に痺れを切らし、リンゴをまたひとつ腹からもぎ取ったところだった。

 オレのやっていることには気づいてない。

 奴はリンゴをソフィアに投げた。


「伏せろ!!」


 オレは叫ぶと同時に《帯電》を発動した。

 二本のレールにバチバチと電気が流れる。

 電流で生み出した磁場と、さらにそこに《加速》も加えて放つ。

 即席、合成スキル――。


「《電磁砲》!!」


 超高速で撃ち出された弾丸は、光のビームのように見えた。

 凄まじい反動。オレは弾き飛ばされないようになんとか足をふんばった。

 ビームは中空のリンゴを焼失させ、グラプルトの腹を、貫いた。


「あ……が……」


 あとには焼け焦げた穴が残った。

 レールは一度の発射で粉々に霧散した。グラプルトは、最後の瞬間まで、オレがなにをしたのかわからないという顔をしていた。


 圧倒的強者の自分が、なぜこんな奴らに負ける――。


 そういう顔のまま、死んでいった。



 ※



 グラプルトに操作されていた魔物たちは、奴が死ぬと同時に、唐突にみな気絶した。

 操作の代償らしい。脳に過剰な不可がかかっていたのだ。

 おそらく数時間後には目を覚まし、元の居場所に帰るのだろう。


 オレたちは戦利品としてグラプルトの兜を持ち帰った。鎧は重くてはずせなかったが、売ればそこそこ金になりそうだ。

 冒険者たちの中には、けが人はいたが、死者はいなかった。伊達に魔物だらけのこの土地で生き抜いてきただけのことはある。


 街に戻ると、門の前では当初の依頼主だった鬼親子をはじめ人々が出迎えてくれた。

 鬼親子といえば、ひとつ予想外の幸運があった。


「……ん?」


 帰り道。

 オレが肩をかしてもらっていたソフィアの鎧に、ぽたりと血が落ちた。


「う……ぐ……」


 見ると、木の上で誰かがぐったりしていた。その男は右腕が無く、血はその傷口から垂れていた。

 オレたちは慌てて木から下ろし、手当した。


「《中級治癒》」


 魔術師職の冒険者がスキルをかけると、傷口の出血が止まった。

 男の姿はどこか見覚えがあるものだった。

 赤い肌。額から突き出たツノに、鋭利な牙。


「ああ……助かったよ……いきなり森の中で洞穴蜘蛛に襲われて、なんとか木の上に隠れたんだ。でも怪我のせいで身動きが取れなくなっちまって」


 男はそう説明した。

 オレとソフィアは顔を見合せた。


 街の入口で出迎えてくれたアランとその母親は、オレたちに支えられ歩いてきた彼の姿を見て、目を見開いた。


「父チャン!!」


 息子のアランがまず駆け出し、「アンタ!」母親も続いた。

 男は顔をほころばせ、ふたりと抱き合った。


「すまん……心配かけたな」


 オレたちはその様子を少し離れた場所で見守った。


 ※


 依頼報酬は受け取らなかった。

 既に用意していたらしい親子は驚いたが、

 元はと言えば父親が行方不明になったのもオレのせいだしな。

 そう伝えると、彼らはオレを攻める訳でも無く、ただ「ありがとう」と礼を言った。


 それは魔王を倒した時にも浴びるほど聞いた言葉だった。

 でも、今日ほど言われて嬉しいことは無かった。


 武具屋に行くと、グラプルトの兜はなんと金貨4枚で買い取ってくれた。

 なんでも貴重な素材が使われてるらしく、鎧がある場所も教えて計6枚もらった。

 おかげでオレとソフィアは、無事冒険者ギルドの弁償代を払うことができた。


「……さて、色々あったがこれで第二の試練完了じゃな!」


 ギルドを出ると、待ち構えていたコン様が言った。

「試練?」ソフィアが困惑する。

 まさか。やっぱり。


「やっぱそーだったのか! ぜんぶコン様が仕込んでたんだな!」

「なにっ??」

「おかしいと思ったんだ弁償代にしては高すぎるって! あのヤクザみたいな脅しも! やりすぎだろ!!」


 そうまくしたてていると、ソフィアも納得し、ムッとした顔になってきた。


「コン様……私をこいつの《更生プログラム》に利用したのか?」

「まあまあ、過ぎたことはよいではないか~。おかげでふたりとも仲は深まったであろう」

「なっ、深まってるか!」


 ソフィアが否定する。そんなハッキリ言われたら、ちょっと傷つくぞ。


「では、クスロウをまだ拘束する気なのか?」


 コン様は聞き返した。


「それは……」

「わしらは明日にでもこの街を経つ。いつまた魔王軍が襲うてくるかもわからんからの。奴らの標的はクスロウじゃ。同じ街に長居はできん」


 そこでいったん言葉を切る。


「おヌシはどうするのじゃ?」


 そう言われると、ソフィアは俯いた。

 しばし沈黙が流れる。


「…………ぐ…………ええい! 拘束はしない!」


 と叫んだ。


「言う通りにするのは癪だが、やむを得ん。だが王国につくまで徹底的に監視するからな!」

「一緒に来てくれるってコト?」

「勘違いするな! 馴れ合うわけじゃない。キサマを魔王軍に渡さんためだ」


  「フン」ソフィアは腕を組んでそっぽを向いた。

 こうして、旅の一行に新たな仲間が加わった。




 ※



「うっ、おゲロ~~~~」


 その夜、冒険者ギルドでの宴会でまた酒を飲んだオレは、路地裏でひとり吐いていた。


「あ~……気持ちわりい……」


 ソフィアは王国に報告の手紙を書くと言って、宴会には来なかった。

 コン様はまだギルドで野郎共と飲んでいる。「あそれイッキ! イッキ!」という囃子が外からでも聞こえていた。

 とんだ酒豪だあのロリババア。


 オレはさすがにもう限界だったので、フラフラとモーテルに足を向けた。


「うぅ~……」


 受付に入ると深夜だからか親父さんはいなかった。自室に戻り、扉を閉める。


「ふぃ~」


 ベッドに寝転がった。脱力すると、一瞬で眠気がやってくる。



「――――あは……や、やっと帰ってきたぁ……」



 耳元で女の声がした。

 ……ん?


「んん……だれ……?」


「も~、く、くく、クスロウ様ったらぁ。あ、あたしだよ、あ、た、し」


 ベッドの下から、人影が這い出てくるのが視界の端に見えた。

 紫色のショートヘアをしたその少女は、自分の顔を指しながら、オレを見下ろしてくる。


「ええ……まじでダレ……」


 ダメだ、いま頭回らねえ……。なんで部屋にいるの?

 ていうか顔がどんどん近づいてくるんだけど……。


 紫色の髪が視界を覆う。近くで見る少女は清楚系な感じでなかなか可愛かった。

 ただ、なんだ?

 妙になまめかしい表情をしている。


「ほ、ほほ、ほんとに、お覚えてないの?」


 少女がつっかえながら喋るたび、息が顔にあたる。

 荒い鼻息が聞こえる。

 赤らんだ頬が触れ合いそうなほど近くに。

 あれ?

 この状況って――

 


「――むぐっ」



 気づけば少女の唇が、オレの唇に合わさっていた。


 いや。

 ちょっと。

 なにをしてるのこの子は?


「むふ……むふぅ……ん~……」

「む……ぐ……ぐぅ……!?」


 隙間から熱い吐息が入ってくる。舌も。

 抵抗しようにも身体に力が入らない。

 と思っていると、少女は不意にオレの鼻を手で塞いできた。


「ッ……ッ……!」

「んふぅ……」


 それは呼吸が……!

 なんだコイツ……!?

 暴れるオレの頭を押さえつけて、意地でも唇を離そうとしない。


 まじ……で……

 窒息……させ……


「…………」


 目の前が暗転するとき、最後に見たのは少女の目だった。

 瞳孔が開いて、明らかに歪んだ笑みを浮かべていた。


 ホンモノだ……。

 オレだからわかる、

 コイツはホンモノのヤバいやつだ……。



「――ぷはぁ…………あは、これからもっと楽しくなるよ……クスロウ様?」



 そういう確信とともに、オレの意識は暗闇に落ちていった。




《第二章:終》

《現在レベル:25》

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