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『第十八話 閃撃』じゃ

「ぶち殺してやる。――全員でな」


 オレの挑発めいた宣言に対し、グラプルトは斧を正眼に構え応えた。


「よかろう。ならばワガハイも全身全霊で――――」


 その先を言う前に、ソフィアが動いていた。

 彼女も、一目見て奴との戦闘法を理解したらしい。

 奴の攻撃は一撃必殺。

 だが遅い。

 ならば速い動きで翻弄する。


「《脚力強化》《瞬発増大》」


 巨腕をかいくぐり、飛び上がる。

 グラプルトの露出した首を狙う。


「《炎撃》!!」


 炎を纏わせた斬撃をお見舞いした。


「……うっとうしい小娘だな」

「ぐっ……」


 だが、無傷。

 やはり剣のたぐいはまったく刃が通らない。

 鎧の有無は関係なく奴は全身がすさまじく硬い。


 グラプルトが斧を空中のソフィアに叩き込む。

 避けらない――。


「《硬化》――!!」


 スキルを発動し剣で受け止めた。が、衝撃はいなせず吹っ飛ばされる。

 そんな彼女に、コン様が手を伸ばした。


「ふ……ウ……!」


 苦しげにうめきながらも何かの力を行使する。

 するとソフィアは急激に減速し、木に激突する前にふわりと着地した。


「フム」


 グラプルトがオレとコン様の方に近づいてくる。


「その幼女、いったい何者だ? 興味が湧いてきたぞ」


 コン様の調子はすこぶる悪そうだ。いまもオレの後ろで膝を着いている。


「……クスロウよ。わしはこの世界では力の消費が著しく早い。いまはほぼ枯渇寸前じゃ」


 ここまで全員をワープさせ、さらにオレを甦らせるために力を使った。

 《スキル》と同じ原理ならその発動には体内の魔力(MP)を使っている。

 普通に考えれば規格外の消費になるだろう。

 もうあまり協力は望めないか……。


「……わかった。でも、ゼロではないんだな」

「まったく、まだやらせる気か。女神使いが荒いのう」

「オレはそういう人間なんでね」


 コン様には悪いが、使える力は全て使って対処しなければ奴には勝てない。


「ソフィア。援護を頼む」


 オレは地面に封印剣を刺した。


「《土練》!!」


 さっきの戦闘で得たもうひとつのスキルを使う。

 剣を刺した地面が波打つように変形し、グラプルトの足元まで伝わっていく。


「ム」


 土が奴の足を固定した。


「《水砲》」


 続けて、変形した地面にさらに水を流す。


「《帯電》!」


 バリリ、と濡れた地面一帯に紫電が走る。グラプルトの動きが一瞬止まった。


「オレに耐性を!!」


 後ろのソフィアに叫びながらオレは走り出した。


「わかったっ――《電撃耐性》!」


 効果付与系のスキルは自分だけでなく他人にも使える。

 オレは紫電に満ちた中をものともせずグラプルトに近づいた。

 《加速》を発動。

 この10秒の間に弱点を見つけ出す。


 オレは奴の足元に滑り込んで足の健あたりを斬った。

 ――無傷。


「ちっ!」


 股関節を斬り――無傷。

 脇を斬り――無傷。

 そして、奇妙な植物が生い茂っている腹を斬りつけようとした。

 その瞬間、視界の端に巨大な手が映りこんだ。


「ッ――!」


 咄嗟に攻撃を中断。

 しかし《加速》でついた勢いが止まらない。避けられない。


「クスロウ!」


 ソフィアが飛び込んできて、オレにタックルした。

 巨腕がすぐ傍をかすめ、ふたりとも地面に転がる。


 間髪入れず起き上がるが、グラプルトは追撃してこなかった。

 そもそも最初からオレを攻撃したわけではなかったようだ。自分の腹に手を伸ばし――――そこになっていたリンゴを、ひとつもぎ取った。


「なるほど。少しはやるようだな。ワガハイがまさか、人間相手にコレを使わされるとは」


 なんだ?

 と思ったら、奴はそのリンゴを放り投げた。


 ゆるやかな放物線を描き、オレたちの真上に飛んでくる。

 そして、唐突に弾けた。


「《加重(アグラベート)》」


 同時に、オレとソフィアは地面に叩きつけられていた。


「ッ!?」

「ぐッが……!?」


 なんだ……!

 重い!?

 凄まじい圧力で押さえつけられる。巨大な岩を上から乗せられているように。

 全身が……潰れそうだ……


「ワガハイの固有スキルは“重さ”を操る。もうちょこまかとは動き回れぬ」


「うう……ぐ……!」


 オレは重い体を無理やり動かし、剣を握った。


「《土錬》《水砲》!!」


 水と土をスキルを発動。オレとソフィアの下にある地面を泥化させる、


「ほう」


「《加速!》」


 ソフィアの鎧を掴み、泥で滑りやすくなった地面で加速して、《加重》の効果範囲外に脱出した。

 そのままコン様の所まで一気に下がって距離をとる。


「はぁっ……はっ……!」


「小細工の得意なやつだな。弱者なりの知恵と技巧か」


 グラプルトは悠々と立っている。


「だがそんなものは、圧倒的な力の前には無意味」


「ソフィア……コン様……」


 オレは奴を見上げながら小声で言った。


「あいつを倒す方法。思いついた。10秒稼いでくれ」


 ふたりは顔を見合わせた。



 冒険者たちと魔物は未だそこら中で戦いを繰り広げている。

 魔物の悲鳴、冒険者の怒声。周囲は阿鼻叫喚だった。



 だがオレたち三人と、対峙するグラプルトの間には、静寂が降りていた。


「次はどんな技を見せてくれる。ワガハイをもっと楽しませろ」


 グラプルトは愉悦の顔を貼りつかせ斧を引きずってくる。


「……たのむ」

「心得た」

 

 斧が振り上げられた瞬間、ソフィアが動いた。

 同時に、コン様が彼女に両手のひらを向ける。

 するとソフィアの周囲の空間がぐわんと揺れた。


「これは……」

「よそ見とは!!」


 ソフィアが自分の体を見下ろした直後、斧が振り下ろされた。

 叩き潰される――

 と思いかけた時、予想外のことが起こった。


「ハァッ!!」


 ソフィアが剣を振るい、斧をはじき飛ばしたのだ。信じられない光景だった。

 巨大な鎧武者の斧が、はるかにちっぽけなソフィアに力で押し負けた。


「なにッ!?」


 勢いでよろめいたグラプルトは、瞠目しながらソフィアを見て、それからその後ろにいるコン様を凝視した。


「そちらの――仕業か!」


 狙いを定め、襲いかかろうとする。


「させるか!!」


 そこにソフィアが割って入った。コン様の力で強化された肉体を駆使し、剣で大斧を押し返す。

 ほとんど互角のつばぜり合い。


「く……邪魔……だ!」


 グラプルトは鬱陶しそうにうめき、再び自分の腹に手を伸ばした。

 リンゴをもぎ取る。


「押し潰してくれるッ!!」


 それを投げつけた。

 リンゴはソフィアの頭上へ――。


「伏せろ!!」


 瞬間、準備を終えたオレは彼女に叫んだ。


 そして、リンゴが弾けた。




「………………が……ぁ……?」




 グラプルトは声にならない声を漏らした。その口からは、青黒い血が溢れた。

 奴は自分の腹を見下ろした。


 そこには風穴が空いていた。



「……な…………にを……」



 奴は、シュウウと煙を放つ封印剣を構えているオレを見て、呟いた。

 だが続く言葉を発する前に、巨体は崩れ落ちていた。

 ズズン……。

 グラプルトは、自分の血溜まりに顔の片側を浸して、動かなくなった。


 一帯が静寂に包まれた。


 冒険者と戦っていた大量の魔物たちは硬直し、数秒後、次々と倒れた。

 唐突な事態に呆然とする冒険者たち。


「勝っ……た?」


 誰かが言った。


「勝った……やった……! 勝ったぞぉおお!!」

「うおおおお!!」


 そこら中で歓声が上がった。彼らはお互いの肩を抱き合い、喜んでいた。


「……クスロウ……」

「やったのか」


 ソフィアとコン様がよろよろとオレに近づいてきた。


「は……は……」


 オレは血溜まりに伏せるグラプルトを見下ろしていた。

 兜が脱げた奴の頭は、髪がなく赤ちゃんみたいに真っ白だった。



「プフッ……は……ハーッハハハハ!!!」



 ソフィアとコン様が立ち止まった。


「ざまあみろハゲ野郎ー!! オレたちに勝てるわけねーだろバーカバーカこの落ち武者!!」


 オレが死体を踏み鳴らしてはしゃいでいる間、ふたりはあぜんとした顔で立ち尽くしていた。


「…………」


 しばらくして、どちらからともなく言った。


「やっぱクズじゃな」

「……ああ」

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