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『第十六話 《重鎧》VSクスロウ』じゃ

 《レベルアップ:レベル23》

 《スキル解放:《土練》《水砲》《鉄化》》


 オレの視界には、立て続けにディスプレイが表示された。

 さっきの魔物たちとの戦闘でレベルが一気に10近く上がったらしい。

 コン様の言っていた『強い敵との戦闘ほど経験値も高い』というのは本当みたいだな。


 まあ……ただ、

 強い敵とは言っても限度があるだろ。

 これは、



「ワガハイと決闘していただきたい」



 目の前に突如現れた大武者はオレを見下ろし言った。

 一目見てわかった。

 こいつは今までの魔物とは次元が違う。


 さっき、『《重鎧》のグラプルト』とか名乗ってたが、魔王軍の中でも二つ名を与えられるのはごくひと握りの強者のみだ。

 レベルは数百~数千ってとこか。

 対してオレは、たったいまやっとレベル20を越えたところ。


 ダメだこりゃ。

 絶対に勝てない。


「…………」


 不思議と逃げる気は起きなかった。そもそもそんなことが許される気配じゃないってのもあるけど。

 退路はない。助けもない。対抗する力もない。


「……まっ……たく……」


 詰みじゃねーかよ。クソがよォ……。

 もうこの状況はオレにはどうしようもない。

 諦めて、目の前の絶対的強者が言うことを受け入れるしかない。


 こいつが……決闘をしろというのなら――。



「――――――やってやろうじゃねえか」



 オレは、目の前のデカブツを睨み上げた。


「ほう。話に聞いた通り潔い戦士だ、勇者クスロウ!」

「ごちゃごちゃうるせえ、デカブツ。能書きはいいんだよ。オレはいま最高に気分がワリいんだ」


 手足の震えを押さえつけ、封印剣を構える。

 こうなりゃもうヤケクソだ。

 せめて一分は時間稼ぎ。

 なんてチャチなことはいわねえ。



「ぶち殺してやる」



 すると大武者の兜を被った顔がニヤリと笑った。



「ふっふっふっふっ…………………………。


 ザァアッ!!!」



 直後、巨大な斧がオレに向かって振り下ろされた。


「ッ――――!!」


 咄嗟に《加速》で避ける。

 目の前で地面に斧が叩きつけられ、地震のような揺れと、爆発的な粉塵が巻き起こった。


「ザァァァ!!」


 さらに間髪入れず二連撃。これもなんとかかわした。

 あまりに早い斧さばきに、《加速》の持続タイム中に追撃が来たことが逆に幸をそうした。

 だがスキルを使ってなお回避は紙一重。

 そう何度も避けることはできない。


 短期決戦。それしかない。

 見たところこいつの動きはあまり早くない。そんなに鎧を着込んでちゃー当たり前だ。

 ただ、その分防御力は高いだろう。オレの攻撃はたぶんほぼ通らない。

 となれば、狙うべきは鎧の無い箇所。

 つまり顔面。


 オレはデカブツ――グラプルトの三撃目を避けたタイミングで、懐に飛び込んだ。

 奴の膝を足場にして飛び上がり、《帯電》を付与した封印剣を構える。


剣を(イチモツ)(くわ)えやがれ!!」


 グラプルトの口に突っ込んだ。

 同時に、先ほど覚えたスキルを発動。


「《水砲》!!」


 剣先から大量の水が放出された。「ゴボボ」とグラプルトがうめく。

 水は口内から一気に気道や鼻にまで流れ込み、《帯電》の電気を余すところなく伝えた。


 グラプルトの頭が紫電に包まれた。斧を振りかぶった体勢のまま、巨体は静止した。


「はぁっ……はあ……」


 オレは剣を口に突っ込ませたまま息をついた。顔面は煙に覆われている。

 やったか……。


ふぐ、はがはがらら(フム、なかなかだな)


 口が動いた。


「生きてるんかいっ」


 と思った瞬間には、巨大な手がオレを掴み、顔から引き剥がされた。


「う……ぐ……!」


 顔面を覆っていた煙が晴れる。そこには火傷ひとつついてはいなかった。

 奴はプッと咥えていた封印剣を吐き捨てた。


「だがこの程度では、ワガハイは死なん」


 オレの体を握る手に力が込められた。

 まずい。

 これはまずい。


「おかえしだ」


 直後、グラプルトの姿が大きくブレた。



「――え?」



 なにが起こったのかわからない。

 奴はどんどん遠のいていく。

 遅れて理解した。

 オレは投げ飛ばされていた。

 視界の隅で景色が高速で動いている。

 え?

 ちょっと待って。

 ちょっと待って。

 これオレどこまで飛ばさ――――


「――――ごォッ!?」


 ――――凄まじい衝撃が全身を襲った。


「ォ――――オ゛――――――ばはァ――――!!」


 木々、葉っぱ、枝……視界の端に現れては消えていく。

 とても現実的じゃない光景。だが、オレが何本もの木に衝突しながら、なお飛ばされ続けていることは頭の片隅でわかった。

 あれ、これ、オレの体まだあるのか?

 なんか不思議と痛くはないんだけど。他人事みたいだ。


「――――――――ッごォぇああ!!」


 と思っていたら、あるとき体が止まった。

 背中に甚大な衝撃が走り、ボリバキという破砕音が脳髄に響いた。オレは人が口から出しうるあらゆるものを吐き出していた。

 空気、ヨダレ、血、胃液、吐瀉(としゃ)物――。


「ろ……ぼ……おぉ……」


 あー、もうヤダ……

 視界が真っ赤でなにも見えない。でもたぶん臓物までは出てないと思う。ちょっと安心した。

 手足は感覚がなく、そこにある(・・)のかも定かじゃないが、


 まあべつに、どっちでもいいか。


「これは……いったい、どういうわけだ」


 鎧が擦れる音とともに、重い足音が近づいてくる。


「勇者クスロウがこの程度でダメージを受けるはずがない。なんだその脆さは。説明しろ」


 できるかボケ。

 こっちは喉チンコもげてんだよ。


「…………わけがわからぬ。こんなもの……真の勇者ではない。キサマは偽物だ!」


 そうだよ。

 オレは勇者なんかじゃない。勇者になっていいような人間じゃないんだ。

 今ごろ気づいたか。もうぜんぶ手遅れだぜ。


 封印剣は……きっとコン様が、オレよりもっとふさわしい人間に託すはずだ。そいつがオマエらと、魔王を、全滅させる。


「ケ…………ケ……」


 外れた顎で笑うと、乾いた音が出た。

 何も見えないが、たぶん、グラプルトは憎々しげな顔をしただろう。

 ザマアミロ。

 オレを倒したからって、お前はなにも成し遂げちゃいねえんだよ。

 だってオレは、べつに何者でもねえ、どこにでもいるクズなんだから。

 そいつを殺したからって、いい気になるなよ。

 クソ野郎……。


 視界が暗くなっていく。

 五感全てが闇に包まれる。


 最後の一瞬。

 リアーナと兄貴たちの顔が浮かんだ。

 オレは結局、なにも成し遂げられなかった……。

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