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『第十四話 反社会パーソナリティ』じゃ

 ※


「クスロウくん、どうしてボールとっちゃったの?」

「…………とってみろって、あいつが言ったから。言われた通りにしただけだよ」

「そっか……でも、翔太くん泣かせちゃったよね。友達を蹴ったり叩いたりするのは、悪いことでしょ?」

「なんで?」

「なんでって……」

「ボクは、あいつの言った通りにしただけだよ」


 昔から。

 気づいたら相手が怒っている。

 ということがよくあった。

 それは大抵、オレが起こした『悪いこと』が原因だった。


 でも、オレにはなぜそれが『悪いこと』なのかイマイチよくわからなかった。

 人に怒られるから。

 ということならわかる。だけど、

 人が悲しむから。

 という感覚があまり理解できなかった。


 だから、もうやらないようにしようと思っても、ふとした時の衝動や欲望で、また同じことをしてしまうのだった。


「いいかクスロウ。お前の心は、他のみんなとちょっと違うんだ」


 親は、オレが小学生のとき、この性質をそう説明した。

 病院みたいなトコにも連れていかれて、オレを矯正しようとしていた。


 親がオレに言いつけたのは『いい人』の真似をすることだった。

 以降、オレは周囲の『いい人』を見よう見まねで真似するようになった。

 現実にいる芸能人や、アニメやゲームの中のキャラクターたち。

 実際それは効果があった。オレは誰に対しても明るく気のいいヤツとして振舞い、昔のように相手を怒らせてしまうことは減った。

 だが、外面は誤魔化せても、根本の部分は変われない。

 親しくなった人ほど、ふとした時、それは感じ取られてしまった。


「お前ってさ、実はサイコパスだよな」


 中学のとき、いつも一緒に下校していた友達に、ふと言われた。

 そいつは半分冗談めかして言っていた。でも、もう半分には、どこかで心の奥底にあった本音も混じっていた気がした。

 オレはその本心を感じてしまった。

 オレが意識してない間に、そいつを傷つけていて、『そういう人間』だと思われていた。そう思うと、もうそいつとはうまく話せなくなった。

 もしかしたら、他のみんなにも同じことを思われてるんじゃないかと、怖くなった。



「欠落してるんだな」



 ソフィアはオレを見て言った。


「…………」


 オレは彼女の目に、友達のことを重ねて思い出した。その言葉はあのときよりも、もっと直接的で、心に刺さった。

 でもそのショックに浸る間もなく、別のことに気づいていた。


「グルゥウウウウ!」

「グガォゥゥ!」


 蜘蛛の魔物の死骸の奥から、さらに魔物が現れていた。

 一匹、二匹……という数じゃない。ウジャウジャと。いずれも浅い森にはいないはずの巨大な魔物。

 マジか。

 どんだけいるんだよ……。


「ッ…………」


 咄嗟に臨戦態勢に入ろうとしたソフィアを、オレもまた反射的に「待って!」と止めた。


「逃げろ」

「なに……?」

「腕輪だけ持って、その子連れて、街に戻れ。でこの事態を報告してくれ」


「はぁ??」ソフィアは驚く。


「お前……」

「オレはこいつら引きつけるから。この状況じゃそれしかねえだろ。早く!」


 不安と喪失感を誤魔化すように、大声を出し、封印剣を構える。


「クスロウ……」


 ソフィアは一瞬ためらった顔をして、だがすぐにキッと顔を引きしめた。


「……しばらく耐えろ。すぐ増援をつれて戻る」

「当たり前だよ。こんなとこで死ぬ気はねえ」


 オレはなんとか平静を装った。

 ソフィアは頷くと、人骨から腕輪を取り、アランを抱えて走り出した。


「グォアアアアアア!!」


 同時に、魔物たちも動いていた。

 ソフィアの行く手を阻まんと回り込もうとする。


「させるか!!」


 オレは、その魔物たちの行く手をまず妨害した。

 《加速》を発動。

 このスキルは最大発動で約10秒間の高速移動を可能にする。

 ただ10秒めいっぱい時間を使うと次の発動までのインターバルが長くなる。


(8、9……)


 そこでオレは《加速》をとめた。

 封印剣を、オオカミのような魔物の頭に突き立てる。


「《帯電》!!」


 このスキルは格上にも効くことはソフィアの件でわかっている。

 急所に最大発動の《帯電》で、意識を奪った。

 だがまだ終わりじゃない。

 ソフィアを追おうとするもう一体が、オレの横を通り抜ける。

 《加速》はまだインターバル中。

 オレは《帯電》を発動したままの剣を投げた。

 魔物の足に刺さり、紫電が走って、体勢が崩れる。

 同時にインターバルが終わる。

 《加速》を再使用し、高速で魔物から剣を引き抜き、頭に突き立てた。


 《帯電》を加えようとしたが、その前に魔物は絶命していた。

 レベル11のオレの腕力で刺した剣など大した威力はなさそうだけど……そうか、この封印剣。

 切れ味もスキルも本来の威力ではないが、それでも並の剣よりは遥かによく切れる。


「はぁっ……はっ……!」


 一連の攻防の間に、ソフィアたちは離脱できたようだった。さすが騎士足が早い。


「ふぅ~……」


 魔物たちに向き直る。奴らはオレをジリジリと囲んでいた。

 完全に囲まれる前に、オレは逃げた。


「オラ捕まえてみろマヌケども!」

「ゴァアアアア!!」


 挑発しながら街と反対方向に走る。こいつら全員真っ向から相手してたら間違いなく死ぬからな。

 魔物たちは一斉にオレを追いかけてきた。

 ソフィアが援軍を連れてくるまで、このまま時間を稼ぐしかない。


「……」


 ソフィアのあの恐れるような目。まだ脳裏に鮮明に残っている。


「……クソ」


 なんでオレは、こんなことしてるんだ。『逃げろ』なんて、普段はそんなこと言う人間じゃないくせに。

 オレはソフィアみたいに強い正義感があるわけでも、勇敢なわけでもないのに。

 いまさら『いい人間』のフリをしたって、もう取り返しはつかない。


 わかりきってたことだ。

 オレはクズだ。どれだけ外面を取り繕っても、根っこがどうしようもない人間なんだ。

 異世界に転生しようが、オレは誰にも好かれない。友達なんてできない。

 ソフィア(あいつ)とちょっと仲良くなれるかもなんて、そんなこと無理だって、最初からわかってた……。


「……クソ……チクショウ…………ッ!」


 なのに、

 なんでこんなに悔しいんだ。


 オレは錆びた封印剣を握りしめて、叫んでいた。

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