『第十四話 反社会パーソナリティ』じゃ
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「クスロウくん、どうしてボールとっちゃったの?」
「…………とってみろって、あいつが言ったから。言われた通りにしただけだよ」
「そっか……でも、翔太くん泣かせちゃったよね。友達を蹴ったり叩いたりするのは、悪いことでしょ?」
「なんで?」
「なんでって……」
「ボクは、あいつの言った通りにしただけだよ」
昔から。
気づいたら相手が怒っている。
ということがよくあった。
それは大抵、オレが起こした『悪いこと』が原因だった。
でも、オレにはなぜそれが『悪いこと』なのかイマイチよくわからなかった。
人に怒られるから。
ということならわかる。だけど、
人が悲しむから。
という感覚があまり理解できなかった。
だから、もうやらないようにしようと思っても、ふとした時の衝動や欲望で、また同じことをしてしまうのだった。
「いいかクスロウ。お前の心は、他のみんなとちょっと違うんだ」
親は、オレが小学生のとき、この性質をそう説明した。
病院みたいなトコにも連れていかれて、オレを矯正しようとしていた。
親がオレに言いつけたのは『いい人』の真似をすることだった。
以降、オレは周囲の『いい人』を見よう見まねで真似するようになった。
現実にいる芸能人や、アニメやゲームの中のキャラクターたち。
実際それは効果があった。オレは誰に対しても明るく気のいいヤツとして振舞い、昔のように相手を怒らせてしまうことは減った。
だが、外面は誤魔化せても、根本の部分は変われない。
親しくなった人ほど、ふとした時、それは感じ取られてしまった。
「お前ってさ、実はサイコパスだよな」
中学のとき、いつも一緒に下校していた友達に、ふと言われた。
そいつは半分冗談めかして言っていた。でも、もう半分には、どこかで心の奥底にあった本音も混じっていた気がした。
オレはその本心を感じてしまった。
オレが意識してない間に、そいつを傷つけていて、『そういう人間』だと思われていた。そう思うと、もうそいつとはうまく話せなくなった。
もしかしたら、他のみんなにも同じことを思われてるんじゃないかと、怖くなった。
「欠落してるんだな」
ソフィアはオレを見て言った。
「…………」
オレは彼女の目に、友達のことを重ねて思い出した。その言葉はあのときよりも、もっと直接的で、心に刺さった。
でもそのショックに浸る間もなく、別のことに気づいていた。
「グルゥウウウウ!」
「グガォゥゥ!」
蜘蛛の魔物の死骸の奥から、さらに魔物が現れていた。
一匹、二匹……という数じゃない。ウジャウジャと。いずれも浅い森にはいないはずの巨大な魔物。
マジか。
どんだけいるんだよ……。
「ッ…………」
咄嗟に臨戦態勢に入ろうとしたソフィアを、オレもまた反射的に「待って!」と止めた。
「逃げろ」
「なに……?」
「腕輪だけ持って、その子連れて、街に戻れ。でこの事態を報告してくれ」
「はぁ??」ソフィアは驚く。
「お前……」
「オレはこいつら引きつけるから。この状況じゃそれしかねえだろ。早く!」
不安と喪失感を誤魔化すように、大声を出し、封印剣を構える。
「クスロウ……」
ソフィアは一瞬ためらった顔をして、だがすぐにキッと顔を引きしめた。
「……しばらく耐えろ。すぐ増援をつれて戻る」
「当たり前だよ。こんなとこで死ぬ気はねえ」
オレはなんとか平静を装った。
ソフィアは頷くと、人骨から腕輪を取り、アランを抱えて走り出した。
「グォアアアアアア!!」
同時に、魔物たちも動いていた。
ソフィアの行く手を阻まんと回り込もうとする。
「させるか!!」
オレは、その魔物たちの行く手をまず妨害した。
《加速》を発動。
このスキルは最大発動で約10秒間の高速移動を可能にする。
ただ10秒めいっぱい時間を使うと次の発動までのインターバルが長くなる。
(8、9……)
そこでオレは《加速》をとめた。
封印剣を、オオカミのような魔物の頭に突き立てる。
「《帯電》!!」
このスキルは格上にも効くことはソフィアの件でわかっている。
急所に最大発動の《帯電》で、意識を奪った。
だがまだ終わりじゃない。
ソフィアを追おうとするもう一体が、オレの横を通り抜ける。
《加速》はまだインターバル中。
オレは《帯電》を発動したままの剣を投げた。
魔物の足に刺さり、紫電が走って、体勢が崩れる。
同時にインターバルが終わる。
《加速》を再使用し、高速で魔物から剣を引き抜き、頭に突き立てた。
《帯電》を加えようとしたが、その前に魔物は絶命していた。
レベル11のオレの腕力で刺した剣など大した威力はなさそうだけど……そうか、この封印剣。
切れ味もスキルも本来の威力ではないが、それでも並の剣よりは遥かによく切れる。
「はぁっ……はっ……!」
一連の攻防の間に、ソフィアたちは離脱できたようだった。さすが騎士足が早い。
「ふぅ~……」
魔物たちに向き直る。奴らはオレをジリジリと囲んでいた。
完全に囲まれる前に、オレは逃げた。
「オラ捕まえてみろマヌケども!」
「ゴァアアアア!!」
挑発しながら街と反対方向に走る。こいつら全員真っ向から相手してたら間違いなく死ぬからな。
魔物たちは一斉にオレを追いかけてきた。
ソフィアが援軍を連れてくるまで、このまま時間を稼ぐしかない。
「……」
ソフィアのあの恐れるような目。まだ脳裏に鮮明に残っている。
「……クソ」
なんでオレは、こんなことしてるんだ。『逃げろ』なんて、普段はそんなこと言う人間じゃないくせに。
オレはソフィアみたいに強い正義感があるわけでも、勇敢なわけでもないのに。
いまさら『いい人間』のフリをしたって、もう取り返しはつかない。
わかりきってたことだ。
オレはクズだ。どれだけ外面を取り繕っても、根っこがどうしようもない人間なんだ。
異世界に転生しようが、オレは誰にも好かれない。友達なんてできない。
ソフィアとちょっと仲良くなれるかもなんて、そんなこと無理だって、最初からわかってた……。
「……クソ……チクショウ…………ッ!」
なのに、
なんでこんなに悔しいんだ。
オレは錆びた封印剣を握りしめて、叫んでいた。




