表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/40

『第十三話 破砕』じゃ

 

「キシャアアアアッ!!」

「ハアッ!」


 ソフィアが剣を振るう。同時に、蜘蛛の八本ある足のひとつが切り落とされていた。


「キシャア!!」


 蜘蛛は悲鳴をあげ、後退しようとする。だがソフィアはすかさず追撃した。

 彼女が剣を振るたびまた蜘蛛の足が切り飛ばされ、瞬く間にその数を減らした。

 そのうちの一本が、オレと鬼少年――アランのそばにある木にベチャと当たって跳ね返る。


 強い。

 オレと戦った時は、あれでも手加減してたのか。

 へこむぜ~。


「クスロウ!」

「ぬっ!?」


 蜘蛛は、戦法を変えた。ソフィアを倒すより先に、彼女が守っている後ろの二人を狙うことにしたようだった。

 白い糸が戦いを呆然と眺めていたアランに迫る。

 オレは封印剣を手に走り出していた。


「《加速》!」


 ソフィアと冒険者ギルドで戦った時、オレのレベルは11になった。そのレベルアップにより解放された新スキル。

 文字通りオレの体は瞬間的に加速し、白糸がアランを絡め取る前に、彼を救出した。


「だっし! あぶね~!」

「無事か!? ぐっ!?」


 だがその間、オレたちに気を取られたソフィアが白糸の発射に捕まっていた。

 木にバチャリと叩きつけられる。粘着性の糸はソフィアの全身に絡まり、動きを阻害した。


「ソフィア!」

「くっ……!」


 お待ちかねの「くっ……」タイムだ。いつも偉そうだからこういう姿はそそるねえ……。

 ……って思ってる場合じゃねえバカ助けなきゃ!

 蜘蛛がソフィアに襲いかかる!


「《温熱》」


 だが既にソフィアは自分で対処していた。

 スキルで白糸を溶かし、脱出。そしてそのまま向かってくる蜘蛛を迎え撃ち、


「《炎撃》!」


 その頭部に剣を突き立て唱えた。


「キシャ……! ァ……!」


 頭が内側から炎で吹き飛ばされた。蜘蛛は数秒足をバタつかせていたが、ほどなく動かなくなった。


「大丈夫か!」


 オレはソフィアに駆け寄った。「騎士の姉チャン!」とアランも続く。


「ああ……問題ない」


 ソフィアは息をつき、剣を鞘に収めて答えた。


「早く街に戻るぞ。わかってるな。これは異常事態だ」


 彼女も、もう気づいていたようだ。


「この魔物はこんな浅い森にいる種ではない」

「ああ……それはわかってるけど」


 オレはちらとアランを見た。


「……いちおう、蜘蛛の腹の中は見といたほうがいいんじゃない?」


 ソフィアが厳しい顔になった。少し沈黙し、「そうだな」ときびすを返す。

 アランには離れすぎない所で待ってもらった。

 なにも出てこないといいけど……。

 と思いながら、オレとソフィアで魔物の腹をさばいた。


 すると人骨が出てきた。


「……マジかよ」


 バラバラだが、だいたい一人分の骨。体格的に男性だろう。

 いやだが、まだアランの父親と決まったわけではない。

 鑑定するには、彼に見てもらう必要がある。


「……これ」


 アランに骨を見せると、彼はその腕部分に目をつけた。

 その骨の右腕は金色の腕輪を着けていた。


「これ……父チャンがいつも着けてた……母チャンとおそろいの腕輪……」


 マジかよ。

 え?

 これお父さん?

 死んでるじゃん。マジで。


「…………」


 その場に沈黙が降りた。最初に口を開いたのは、ソフィアだった。


「アランくん」

「……え?」

「骨を持って帰るか?」


 そう尋ねた。

 冒険者が同業遺体を見つけた場合、持って帰るのはだいたい遺品のみらしい。

 が、今回は親族が現場にいるからな。


「…………」


 アランはまだ呆然として、何も言葉が出ないようだった。

 そりゃそうだ。

 いきなりこんな状況になって、そんなことを言われて、受け入れられるはずがない。


「……持って帰ろう」


 オレが言った。ソフィアも、無言で頷いた。

 よし。そうとなれば、……うーんでも、ちょっと量が多すぎるな。

 しかも食われたてなのか、あまり消化されずに大きな形で残りすぎている。

 これは砕いた方が持ち帰りやすいかもな。


「よいしょっと」


 オレはとりあえずあばら骨らしき部位から踏み砕こうとした。


「お、おい!」

「え?」


 ソフィアにいきなり怒鳴られた時には、もう砕いた瞬間だった。

 虚ろな顔をしていたアランが、急に目を見開いた。


「やめて!!」

「え、ゴメン。音びっくりした?」

「クスロウ! なにをやっている!?」

「いや、なにをって……持ち帰るために小さくしたんだけど」


 オレは戸惑いながらも砕いた骨を袋に入れる。


「触るな!」


 するとアランが腕にしがみついて来た。凄まじい形相で睨んでくる。


「父チャンを壊すなッ!!」

「わ……わかったわかった。やめるよ」


 慌てて袋を手放した。

 なにをそんなに怒ってんだ?


「何を考えてる。子どもの目前で“父親”を……配慮が無さすぎるぞ」


 ソフィアが意味がわからないという顔で責める。


「はァ……?」


 父親……?


「何言ってんだよ。父親はもう死んだろ。これはただの骨だろ」


 オレはそう返した。

 すると、一瞬の静寂があった。


「…………う……」


 アランの目から不意に涙が落ちた。同時に、ソフィアが素早く寄り添うようにしゃがみ込んだ。


「う……ああああ~」


 ソフィアに抱きしめられて、彼は大泣きを始めてしまった。


 アレ?

 なんでこんなことになってる。

 なんで泣いてる?

 いまオレが泣かせたのか?


「クスロウ……」


 ソフィアは少年を慰めるように背中をさすりながら、オレを見上げた。


「そうか……キサマは、だから、そう(・・)なんだな」


 納得したように言った。

 その目は、いままでの軽蔑や見下しとは違う。まるで違う生き物を見るような……少し恐れを含んだような目だった。


「欠落してるんだな」


 ソフィアは呟いた。

 なにが、とは言わない。

 でも、オレには意味がわかった。

 そういう事を前にも言われたことがあったからだ。

 ソフィアの声には、さっきまで含まれ始めていた親しみの感情はもう無かった。


『お前ってさ、実はサイコパスだよな』


 ずっと前、誰かに冗談のように言われた言葉が脳裏に蘇った。


「…………」


 そうか、この世界でも、

 またこうなるのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ