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『第十二話 依頼主』じゃ

 ※


 冒険者ギルドのロビーには今日もならず者たちがたむろしている。

 彼らは依頼を受けるワケでも無く、かといって家にいてもヒマなので、こうして仲間たちと昼間から安酒を飲んでいるのだった。

 この小さな街の娯楽はそれくらいしかないのだ。


 彼らの無遠慮な談笑のおかげで、その少し離れた受付の奥でされていた奇妙な会話は、誰も耳にすることは無かった。


「首尾よくいったかの?」


 幼女の声が言った。


「ハイ。二人ともすっかり信じてました」


 女の声が答える。


「こんな彫像で騙せるか心配でしたけど……」

「協力感謝するぞ。ほれ、前金と合わせて銀貨10枚じゃ。受け取れ」

「ウヒョー! ホントにいいのか!?」

「サンキュー女神さま!」


 さらに二人の男の声がして、去っていく。


「して、依頼の方はどうじゃ?」

「いちばん報酬の高い、“人探し”を選んだみたいですよ。でも……あの二人パーティなんですか? めちゃくちゃ仲悪そうでしたよ」


 女性が言うと、幼女は「ふっふっ」と愉快そうに笑った。


「心配いらん。二人とも根はいい子じゃからな。“第二の試練”から戻った時どうなっているか、楽しみじゃ。

 さーてわしは待ってる間美味いもんでも食いに行くかの~♪」



 ※


「ここか……」


 オレたちはいま、町外れの民家の前に立っていた。

 あの後、受付のネーチャンにえげつない脅しをされたオレは掲示板に出されていた依頼を受けた。

 その依頼用紙に書かれていた指定場所がここだ。


「おい。勘違いするなよ」


 隣には、鎧に身を包んだ長身の女、ソフィアがいる。

 ついさっきまでモーテルで縛り付けられていたが、オレがクズ勇者から真の勇者に変われるかどうかを見極めるために、オレと一緒に依頼を受けていた。


「私はあの幼女の言葉にもキサマの言葉にも、納得したわけではないぞ。今の所キサマからは改心した気配など微塵も感じんが、ついてきてやってるだけだからな」

「……一応言っとくけど、弁償代払う羽目になったのお前のせいでもあるんだからな」


 オレは、モーテルを出る時コン様にかけられた言葉を思い出していた。


『いい所を見せようとする必要は無い。ただ誠意を持って依頼を受けるのじゃ。ヌシが本気で変わろうとしている姿を見せてこい』


 ああは言われたものの……

 正直、このソフィアが素のオレのことを認めてくれる未来なんてとても想像できない。完全にアンチだもん。

 しかし、これはオレが真の勇者になるには避けては通れない道だ。なぜならこれからもオレのことを嫌いな人には山ほど会うことになるからだ。

 それだけの事をしてきたんだ。


「……よし」


 いまは、やれることはなんでもやるしかない。


「すみませーん!」


 オレは民家の外から呼びかけた。


「依頼を受けた冒険者です」


 が、返事はない。扉を押すと鍵はかかっていなかった。


「不用心だな~」

「おいっ、勝手に入っては……」


「父チャン!」


「おぐっ!?」


 足を踏み入れると同時に、オレの腰になにかが激突してきた。

 痛ってぇ~と思ったら少年だった。魔族なのか肌がやや赤く、鬼っぽい見た目をしている。


「父チャンじゃない……」


 その少年はオレを見るとガッカリした様子で俯いた。


「君が依頼主か?」


 ソフィアが尋ねると、少年は頷き、後ろを振り返った。


「母チャーン! なんか来たよー!」

「コラ! 失礼でしょアラン」


 すると奥から母親らしき人が慌てて出てきた。

 エプロンをつけてるが、見た目は完全に(ガチ)鬼だった。すべてがデカイ。背も、胸も。

 しかも人妻。いや、じゃなくて。


「息子がすみませぇ~ん、料理してて気づかなくて~……えっと」

「私はソフィア。依頼を受けた冒険者です。こっちの男は、まあ名を覚える価値もないので無視しても」

「うるせえ。ど~も~奥さん、クスロウと言います~」


 この親子が今回の依頼主だった。

 


「探して欲しいのはご主人とのことですね?」

「ハイ。主人はBランク冒険者なんです。三日前、魔物狩りで森に行ったきり帰ってこなくて」

「はぁB級が。捜索はしたんですか?」

「もちろん。ギルドで有志を募って……でも見つからなくて。魔物に食われたと結論づけて、捜索は打ち切られてしまって」

「そうですか」

「でも……私は……」


 鬼夫人はそこで牙の突き出た口を噤んだ。

 たしかにこのあたりは魔物が多いとはいえ、ベテラン格のBランクがそう簡単に食われるとは考えにくい。

 もしくはなにか予想外の事態(・・・・・・)が起きたのか。

 するとソフィアが一歩前に出た。


「わかりました。任せてください。ご主人は必ず連れて帰ります」


 と正義感に満ちた面で宣言した。


「よろしくお願いします」


 母親は深々と頭を下げた。その足にしがみついた少年はなにか言いたげにこっちを見ていた。


 その後オレたちは装備を整え、街の出口にきた。


「あ~あ、ソフィア。あんなこと言っちゃってさ」

「なんのことだ?」


 門を抜け、森の中に入る。

 奥に進みながら、オレはソフィアに言った。


「『必ず連れて帰る』ってやつよ。やめとけよ、そんなこと言うの。死んでたらどうすんの」


 今回の報酬がオレたちが受けられる依頼の中で最も高い理由は、難易度と危険が圧倒的に高いからだ。

 魔物が潜む広大な森の中。ましてそこから人一人を探し出すなど、

 失敗する可能性の方がずっと高い。


「……フン。あれは本来お前が言うべきセリフだ」


 だがソフィアはため息をついて言った。


「どゆこと?」

「あの親子は既に大きな不安を抱えていた。それをさらに煽るようなことしてどうする。

 我々は人々を守り助ける立場。できるかわからないことでもできると言って、安心させねばならん。そしてそれを我々の努力で実現するのだ」

「実現できなかったら、どうすんだよ」

「そのときは死ぬ気で謝るしかない」


 当然のことのように答える。

 人々を守る騎士という身分ならではの考え方か。


「謝る……ねえ」


 正直、よくやるわー、と思う。チートを持ってた頃は、騎士とかモブだと思って見下してた。

 でも、王国の騎士たちは、オレなんかよりずっと高潔な心を持っているんだ。

 個々の力は弱くても、人々を守る責任を果たそうとしている。オレなんかよりずっと勇敢なんだな。


「む……」


 ソフィアが唐突に立ち止まった。


「近くにいるぞ。気配がする」

「魔物?」

「いや……」


 周囲を見回す。

 木々の中にある茂みのひとつが、ガサ、と動いた。


「そこだッ!」


「ウワッ!」


 茂みを分けると、そこにいたのはさっきの魔族の少年だった。


「……こんなとこでなにしてんだ??」

「……」

「街からついてきたのか」


 少年は俯き、やがて決意したように顔を上げて、


「俺も父チャンを探す! 一緒に連れてッて!」

「いやいやいや」


 いいわけねえだろ~。そんなこったろうと思ったぜまったく……。


「仕方ねえ……」


 オレはソフィアに声かけた。


「いったん街まで戻ろう」

「…………」

「おい、聞いてんのか」

「クスロウ。その少年を連れて下がっていろ」


 ソフィアは剣を抜いていた。その視線の先を見ると、


「グィシャアアアアアア!!」


 巨大な蜘蛛の形をした魔物がいた。


「うワあああ!」


 少年が悲鳴をあげ尻もちを着いた。

「こい!」怯える少年を引き寄せたオレの脳裏によぎったのは、驚きより違和感だった。


「なんで、コイツが……」


 この蜘蛛の魔物は、最初の試練を受けた時に会った。たしかもっと森奥の洞穴に潜んでいたはずだ。


 なぜこんな街に近い所にきている――?

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