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『第十一話 ロリババア式両成敗』じゃ

 

 ※


「素振り初め! イチ!」

「「「イチ!」」」

「ニ!」

「「「ニ!!」」」

「サン!」

「「「サン!!!」」」


「お~やってるなァ」


 オガネス王国。宮廷騎士団の練習場。

 騎士たちが訓練をしている時、オレはたまたまその場を通り掛かった。


「これは勇者クスロウ様。オイ! 全員集合!」

「あ~イヤイヤいいよ。気合入ってるね」

「は! 魔王軍討伐作戦は2日後ですから。勇者様をお支えするため、全員こたびの戦いに全身全霊で挑む所存です」

「そう~」


 オレはその場にいる騎士たちを見回した。

 このときオレは《レベル測定眼》を起動していた。

 騎士たちのレベルはせいぜい20~50ほどだった。

 全力で戦おうが、数万単位レベルを持つ魔王軍には一瞬で殺されるだろう。


「……いや、やっぱ君ら来なくていいよ」

「は……? な、なぜですか?」

「まあ、君らのレベルじゃ別に来てもそんなに意味ないしさ。足でまといって言うか」

「そんな、戦ってもいないのに……」


 訓練指導をしていた男が反論した。その時は知らなかったが、彼は宮廷騎士団の団長だった。


「勇者様、ならばせめてこの場で私たちを試してください。お役に立てることを証明してみせます!」

「……うーん」


 めんどくさいなぁ。とオレはこの時思っていた。



「グハッ!!」

「ギャ!」

「ガァッ!!」


「こんなもんでいい?」


 練習場に倒れる大量の騎士を見回しオレは言った。


「…………まだだ」


 団長一人だけがまだかろうじて立っていた。


「ハァア――――ッ!!」


 気合の咆哮とともに斬りかかってくる。

 彼が振り下ろす木剣を、オレは体を逸らしただけで難なく避けた。


「まだッ!」


 間髪入れず、返す刀を横薙ぎに繰り出してくる。が、それも剣で受け止めた。


「ッ……!」


 彼がそのとき感じたのは巨木を切りつけたような感覚だったろう。

 オレはそのまま剣を少し押し戻すように動かした。

 それだけで、彼は練習場の端まで吹っ飛ばされた。


「がっ……! ぐぅ……」


「そんなに頑張らなくてもいいよ。まあ騎士って、いままでは命懸けで王国を守ってたのかもしれないけどさ。いまはオレ一人いればどんな敵も楽勝なんだから」

「…………う……まだ……」

「じゃ」


 オレは木剣を放り捨て、練習場を去った。

 そして二日後、魔王を討伐した。



 ※



「私はあのとき……団長が皆の前でなぶられるのを地に倒れて見ていた。あれ以来、騎士たちは怠けるようになった。

 訓練などに勤しまなくても、敵は全て勇者が倒してくれる。そういう考えがどんどん伝染していったのだ」


 ソフィアは悔しげに語った。


「おかげでいまの宮廷騎士団は腐敗が進み酷い有り様だ。誰もが騎士としての誇りも責任も失い、堕落しきっている。

 それもすべてクスロウ、あのときのキサマのせいだ」

「それは……その……ゴメンなさい」

「謝って済むことか!

 キサマを牢屋にぶち込み、騎士たちにもう一度誇りを取り戻す。私はそのためにここに来た。

 騎士団を立て直す方法はそれしか無いのだ!」


 そう言われると、何も言い返せない……。

 オレは助けを求めるようにコン様を見た。


「ふむ。本当にそうかのう……」


 するとそれまで黙っていた女神が口を開いた。


「その腐敗とやらを正す道はべつに他にいくらでもあると思うがな」

「なに……?」

「そもそも原因はクスロウだけのせいかの?

 クスロウの言った、騎士団が弱いというのは事実であろう。もしそなたらも魔王討伐に加わっておったら、もっと酷い結末をたどっていたのではないか?」

「それは……」


 唇を噛むソフィア。彼女は不敵な笑みを浮かべて続ける。


「たしかにヌシの言い分にも一理はあるが、自分たちの力量不足を認めず、責任転嫁で楽をしとるようにしかわしには思えんな~」

「ぐ……う!」


 す……すげえ!

 幼女がめちゃくちゃ喋ってる!

 しかも頭良さそうな委員長タイプの騎士女を言い負かしている!!

 いいぞコン様!!!


「そうだオレは悪くねえ! 言ったれ言ったれ!」

「まあとはいえクスロウも最悪じゃがの」

「……へ?」

「力を得ただけで偉くなったわけでもないのにイキリすぎじゃ。おまけに結局は魔王も逃がしておるのじゃから世話ないの。力はあるのに義務を果たせん、ヌシみたいな奴が一番無能なんじゃ」

「むのっ!」


 調子に乗ってたら即座に釘をぶっ刺された!

 しかもすべて図星。

 罵倒でもない正論が一番胸に刺さるんだよなぁ。


「ソフィアよ。わしはクスロウがクズではないと言うつもりは無い」


 コン様は神妙な面持ちになって言った。


「じゃが変われないと断ずるのは、まだ早いのではないか? こやつを試してからでも遅くは無い」

「……試す?」

「ヌシら二人で依頼を受けるのじゃ」


 オレとソフィアは顔を見合せた。


「ちょうどヌシらが暴れたせいで、こんな紙もあることじゃしな」


 コン様が差し出したのはギルドの請求書だった。



「金貨五枚です」


 受付嬢のお姉さんはすまし顔でそう言った。


「金貨?? 銀貨じゃなくて??」


 カウンターの前でオレは聞き返した。

 金貨五枚は日本円で言うと十五万くらいだ。


「高すぎない?」

「いいえ。あなたたちふたりが暴れたせいで、このギルド創立以来大切にされてきたこの銅像が壊れたんですよ」


 お姉さんはドン! と茶色いフィギュアみたいなものをカウンターに置いた。

 右手に剣を掲げて、左手に裸の女を抱いている……やけに下品な男の像だ。


「……これが?」

「はい」

「……そうすか……」


 これが金貨5枚。

 ウソくせぇ~と思いながらサイフを開いた。

 ダメだ。

 銀貨2枚しかない。


「これあの、払えなかったら……」

「払わせますよ? どこに逃げようと」


 いつの間にか、屈強な男が両脇に立っていた。


「ウチのギルドの決まりでね」

「払えねえ奴は森の魔物のエサにすることにしてる」

「森の……」

「ここらのヤツらは凶暴だぜ~? 人間だって丸呑みにしちまう」


 いかにもヤクザな傷だらけの強面二人は、オレの財布を当然のように取り上げ、肩を掴んで身動きを取れなくした。


「必ず、払ってくださいね♡」


 受付のお姉さんがにっこり微笑んだ。



 ※



 同時期。

 クスロウたちが滞在する村から数キロ離れた地点。


「クソッ! こんなの聞いてねえぞ!」


 数人の冒険者が魔物の群れに囲まれていた。


「なんだこの量は!!」


 規格外の大群だった。

 景色一面を埋め尽くすほどの魔物たちが続々と集まってくる。


「うわぁあああああ!!」


 冒険者たちはあっという間に飲み込まれた。

 その群れはまるで何かに導かれるように、クスロウたちのいる街の方角へと急速に移動していた。

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