『第十一話 ロリババア式両成敗』じゃ
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「素振り初め! イチ!」
「「「イチ!」」」
「ニ!」
「「「ニ!!」」」
「サン!」
「「「サン!!!」」」
「お~やってるなァ」
オガネス王国。宮廷騎士団の練習場。
騎士たちが訓練をしている時、オレはたまたまその場を通り掛かった。
「これは勇者クスロウ様。オイ! 全員集合!」
「あ~イヤイヤいいよ。気合入ってるね」
「は! 魔王軍討伐作戦は2日後ですから。勇者様をお支えするため、全員こたびの戦いに全身全霊で挑む所存です」
「そう~」
オレはその場にいる騎士たちを見回した。
このときオレは《レベル測定眼》を起動していた。
騎士たちのレベルはせいぜい20~50ほどだった。
全力で戦おうが、数万単位レベルを持つ魔王軍には一瞬で殺されるだろう。
「……いや、やっぱ君ら来なくていいよ」
「は……? な、なぜですか?」
「まあ、君らのレベルじゃ別に来てもそんなに意味ないしさ。足でまといって言うか」
「そんな、戦ってもいないのに……」
訓練指導をしていた男が反論した。その時は知らなかったが、彼は宮廷騎士団の団長だった。
「勇者様、ならばせめてこの場で私たちを試してください。お役に立てることを証明してみせます!」
「……うーん」
めんどくさいなぁ。とオレはこの時思っていた。
「グハッ!!」
「ギャ!」
「ガァッ!!」
「こんなもんでいい?」
練習場に倒れる大量の騎士を見回しオレは言った。
「…………まだだ」
団長一人だけがまだかろうじて立っていた。
「ハァア――――ッ!!」
気合の咆哮とともに斬りかかってくる。
彼が振り下ろす木剣を、オレは体を逸らしただけで難なく避けた。
「まだッ!」
間髪入れず、返す刀を横薙ぎに繰り出してくる。が、それも剣で受け止めた。
「ッ……!」
彼がそのとき感じたのは巨木を切りつけたような感覚だったろう。
オレはそのまま剣を少し押し戻すように動かした。
それだけで、彼は練習場の端まで吹っ飛ばされた。
「がっ……! ぐぅ……」
「そんなに頑張らなくてもいいよ。まあ騎士って、いままでは命懸けで王国を守ってたのかもしれないけどさ。いまはオレ一人いればどんな敵も楽勝なんだから」
「…………う……まだ……」
「じゃ」
オレは木剣を放り捨て、練習場を去った。
そして二日後、魔王を討伐した。
※
「私はあのとき……団長が皆の前でなぶられるのを地に倒れて見ていた。あれ以来、騎士たちは怠けるようになった。
訓練などに勤しまなくても、敵は全て勇者が倒してくれる。そういう考えがどんどん伝染していったのだ」
ソフィアは悔しげに語った。
「おかげでいまの宮廷騎士団は腐敗が進み酷い有り様だ。誰もが騎士としての誇りも責任も失い、堕落しきっている。
それもすべてクスロウ、あのときのキサマのせいだ」
「それは……その……ゴメンなさい」
「謝って済むことか!
キサマを牢屋にぶち込み、騎士たちにもう一度誇りを取り戻す。私はそのためにここに来た。
騎士団を立て直す方法はそれしか無いのだ!」
そう言われると、何も言い返せない……。
オレは助けを求めるようにコン様を見た。
「ふむ。本当にそうかのう……」
するとそれまで黙っていた女神が口を開いた。
「その腐敗とやらを正す道はべつに他にいくらでもあると思うがな」
「なに……?」
「そもそも原因はクスロウだけのせいかの?
クスロウの言った、騎士団が弱いというのは事実であろう。もしそなたらも魔王討伐に加わっておったら、もっと酷い結末をたどっていたのではないか?」
「それは……」
唇を噛むソフィア。彼女は不敵な笑みを浮かべて続ける。
「たしかにヌシの言い分にも一理はあるが、自分たちの力量不足を認めず、責任転嫁で楽をしとるようにしかわしには思えんな~」
「ぐ……う!」
す……すげえ!
幼女がめちゃくちゃ喋ってる!
しかも頭良さそうな委員長タイプの騎士女を言い負かしている!!
いいぞコン様!!!
「そうだオレは悪くねえ! 言ったれ言ったれ!」
「まあとはいえクスロウも最悪じゃがの」
「……へ?」
「力を得ただけで偉くなったわけでもないのにイキリすぎじゃ。おまけに結局は魔王も逃がしておるのじゃから世話ないの。力はあるのに義務を果たせん、ヌシみたいな奴が一番無能なんじゃ」
「むのっ!」
調子に乗ってたら即座に釘をぶっ刺された!
しかもすべて図星。
罵倒でもない正論が一番胸に刺さるんだよなぁ。
「ソフィアよ。わしはクスロウがクズではないと言うつもりは無い」
コン様は神妙な面持ちになって言った。
「じゃが変われないと断ずるのは、まだ早いのではないか? こやつを試してからでも遅くは無い」
「……試す?」
「ヌシら二人で依頼を受けるのじゃ」
オレとソフィアは顔を見合せた。
「ちょうどヌシらが暴れたせいで、こんな紙もあることじゃしな」
コン様が差し出したのはギルドの請求書だった。
「金貨五枚です」
受付嬢のお姉さんはすまし顔でそう言った。
「金貨?? 銀貨じゃなくて??」
カウンターの前でオレは聞き返した。
金貨五枚は日本円で言うと十五万くらいだ。
「高すぎない?」
「いいえ。あなたたちふたりが暴れたせいで、このギルド創立以来大切にされてきたこの銅像が壊れたんですよ」
お姉さんはドン! と茶色いフィギュアみたいなものをカウンターに置いた。
右手に剣を掲げて、左手に裸の女を抱いている……やけに下品な男の像だ。
「……これが?」
「はい」
「……そうすか……」
これが金貨5枚。
ウソくせぇ~と思いながらサイフを開いた。
ダメだ。
銀貨2枚しかない。
「これあの、払えなかったら……」
「払わせますよ? どこに逃げようと」
いつの間にか、屈強な男が両脇に立っていた。
「ウチのギルドの決まりでね」
「払えねえ奴は森の魔物のエサにすることにしてる」
「森の……」
「ここらのヤツらは凶暴だぜ~? 人間だって丸呑みにしちまう」
いかにもヤクザな傷だらけの強面二人は、オレの財布を当然のように取り上げ、肩を掴んで身動きを取れなくした。
「必ず、払ってくださいね♡」
受付のお姉さんがにっこり微笑んだ。
※
同時期。
クスロウたちが滞在する村から数キロ離れた地点。
「クソッ! こんなの聞いてねえぞ!」
数人の冒険者が魔物の群れに囲まれていた。
「なんだこの量は!!」
規格外の大群だった。
景色一面を埋め尽くすほどの魔物たちが続々と集まってくる。
「うわぁあああああ!!」
冒険者たちはあっという間に飲み込まれた。
その群れはまるで何かに導かれるように、クスロウたちのいる街の方角へと急速に移動していた。




