『第十話 緊縛の騎士』じゃ
「めがみ?」
「そうじゃ。だからわしを敬うのじゃぞ。わしに会えたことは王国に帰ったら自慢しても良いぞ」
混乱するソフィアにコン様は続けた。
オレはその光景を後ろから眺めていた。
「……ん?」
するとコン様がなにやら目配せをしているのに気づいた。
あれは……
……そうか!
こいつがコン様に気を取られている隙に……
「キミはさっきからなにを言っているんだ? まったく意味がわからなあああああ゛あ゛!?」
ソフィアが再び悲鳴を上げた。
背後から、今度は首筋に刀身を当てて《帯電》を浴びせる。
「あ……が……が…………」
ソフィアはガクガク体を震わせたと思うと、糸が切れたようにぶっ倒れた。
当たり所が当たり所なのでスキルを使う間もなく気絶したらしい。
「な……」
コン様は目を見開いた。
「なにをしとるんじゃ!!」
「こうしろってことじゃないの?」
「わしは『任せておけ』と合図したんじゃ!」
「えぇー??」
「えーじゃないわ! それくらいわかるじゃろ!」
どうしよう。
ソフィアは既に白目を向いて泡を吹いている。
「仕方ない……どこかで手当するぞ」
「そ、そうだな」
「あの~」
ソフィアを運び出そうとしているオレたちに、背後から声がかけられた。
受付のお姉さんが立っていた。オレとソフィアの戦いでぐちゃぐちゃになったギルドの中を見回して、一枚の紙を渡してきた。
弁償代の請求書だった。
「クッソ~~! 金稼ぐはずがなんでこんなことに……」
「だからトラブルは起こすなと言うたじゃろう!」
オレたちはひとまずソフィアを宿に連れていった。
オレがコン様と会う前、泊まっていたモーテルだ。
「やー……オヤジさん。ご無沙汰してます」
受付に入ると、本を読んでいたオヤジが顔を上げた。
「…………」
彼は無言で、オレが背負っているソフィアに目を向ける。
「……あ~コイツですか? 今朝まで一緒に飲んでたんすけど、二日酔いでゲロッちゃってね~。一部屋借りて休ませたいんですけど」
と、カウンターに銅貨二枚を置く。
「…………汚すなよ」
オヤジは引き出しから鍵を出すと、興味を失ったように本に目を戻した。
ふう。セーフ。
オレはソフィアを引きずって受付の前を通った。
鍵はカウンターの影からコン様が手を伸ばして取って、オレの後ろに隠れて移動する。
こうして、誰にも怪しまれることなく密室にソフィアを運び込んだ。
※
数十分後。
「う……ぐ……?」
ソフィアが、うめきながら目を覚ました。
瞬きを数回して、目の前に立っているオレを見つけると、
「……キサマッ!」
勢いよく起き上がろうとする。が、それは不可能だった。
「な……!?」
彼女が縄で縛り付けられていたからだ。
鎧を脱がされた上で手足を椅子に固定され、完全に身動きが取れなくなっている。
「くっ……ウ……どういうつもりだ!!」
ソフィアは肌着姿を苦しげにくねらせながら、オレを睨んだ。
動くたび汗ばんだ白い肢体が締め付けられる。縄がくい込んで、より肉感が強調されて……。
「……またいきなり襲いかかられても困るからな。亀甲縛りにしてないだけ感謝しな」
そう答えながらもオレは若干前傾姿勢になっていた。
やばいな。この状況。
あんまり直視するとオレのオレが暴発しそうだ。
「“話を聞いて欲しい”……か?? その手には乗らんぞ! 私はお前には騙されない」
「まあまあ、落ち着け。ソフィアと言ったかの」
隣に立つコン様が言った。
ソフィアはコン様とオレを交互に見た。
「……なぜこんな幼女を連れている! ご主人様とか女神とか言ってたが、まさかキサマ、そんなことにまで手を染めたのか!? 児童売……」
「違うわ! なぜヌシらわしを見るとそのワードを出したがるのじゃ!」
「そうだぞ。勘違いすんなオレはつるぺたは興味ねえ」
「おヌシも話をややこしくするでない! まったく……」
コン様はウホンと一度咳払いした。
「これはイチから説明せねばならんの」
それから、コン様はオレが王国を追放されてから起こったことのあらましを語った。
オレがこの国で堕落していたこと。
コン様と会い力を失ったこと(このくだりはすごく恥ずかしかった)。
そして、復活した魔王を倒すためレベル1からやり直していること。
ソフィアはそのくだりで一度目を見開いたが、後は黙って話を聞いていた。
「――というわけで、勝手な言い分で悪いが、いまこやつにはやるべきことがあるのじゃ。王国に帰ることもその中には含まれておる。そこで提案があっての」
コン様は単刀直入に切り出した。
「今だけこのクスロウの処遇を“拘束”ではなく“監視”にしてはもらえんかの」
つまりオレの刑の執行猶予だ。
「もちろん全てが終わった後は然るべき処罰を受けさせる。ただ、いまは魔王の脅威が迫っているのも事実。討伐のためにはこやつの力は必要不可欠じゃ」
オレが縄を解いてやると、ソフィアは椅子に座ったまま黙り込んでいた。
「…………話は理解した」
最初にそう口にした。
「アッサリじゃな。突拍子もない話じゃろうに」
「……魔王が生きているという噂は王国でも流れていた。
それに、あなたの気配がただ者ではないことは、なんとなく分かる。この世界に勇者を召喚した神だというのなら合点がいく」
ソフィアはそう言って一度言葉を切った。
「あなたは信じられる」
それから、鋭い目でオレの方を見た。
「ただ、こいつは無理だ」
「え?」
「コン様、と言ったか、残念だがこいつは更生などしない。必ず途中で逃げ出す。性根が腐ってる。真の勇者になるなど不可能だ」
なんだとコノヤロウ。
「ずいぶん好き勝手言ってくれるじゃねえか」
「……まあ待て。
ソフィアや。そなたはなにか、クスロウに特別強い敵意を抱いているようじゃな?」
コン様はあくまで冷静に尋ねた。
ソフィアの眉がぴくりと反応する。
「理由を教えては貰えんかの?」
「こいつは騎士団の誇りを踏みにじった」
彼女はオレを睨んで言った。
「忘れたとは言わせんぞ」
「……え~……っと……」
どれのことだ……?
心当たり多すぎてわかんねえ。
「あれは討伐作戦の数日前だった。キサマはいきなりやってきて……」
そうしてソフィアは語り始めた。
オレの忌むべき黒歴史を。




