恋愛ゲームの主人公、お菓子なドタバタイベント。8
深夜になってからルルクさんとタリクさんで鍵付きの書庫まで出かけていくのを、私とアレスさんで見送った。なんだかドキドキしてしまうけど、あの二人なら大丈夫‥だよね。
寝室を出ればリビングがあって、その真ん中にポツンと置いてあるダイニングセットの椅子にアレスさんが緊張した顔で腰掛けていた。
「アレスさん、大丈夫ですか?」
「はい‥。お恥ずかしながら。自分が潜入する分には全然平気なんですが、人にお願いするとなると緊張するものですね」
「そうだった!!潜入捜査してましたね。でも潜入する方が緊張しそうですけど‥」
「もちろん緊張はしますけど、自分だけ気を付ければいい話ですから」
「そう、なのかなぁ??!」
思わず首をひねる私にアレスさんが小さく笑い、隣にあった椅子を勧めてくれたので座らせてもらった。
「‥さっき当時の自分を見て、ユキさんに出会った当初、随分と酷い態度だったと反省してたんです」
「え?そんな態度でしたっけ?」
確かちょっとツンツンしてたような‥。
でもあの時、私はなんとか恋愛を回避せねば!って思ってたし、アレスさんも色々あって悩んでいた時期だったし仕方なくないか?首を傾げる私にアレスさんは頭を下げ、
「あの時‥、本当に申し訳ありませんでした」
「いやいやアレスさんもう終わったことだし私はちっとも怒ってもいないし、傷ついてもいませんよ」
「けれど‥」
「反省はもちろん大事ですけど、大事なのは次をどうしていくか‥ですよ!かくいう私も毎回やらかしますし、反省だらけなんですけどね。でも結構図々しく生きてます」
ニッと笑って、ちょっと胸を張るとアレスさんは小さく微笑んだ。
「‥本当に、学園時代にユキさんがいたら心強かったでしょうね」
「そ、そうですか?でも料理全般焦がしちゃうからなぁ」
「それこそ適材適所です。私がお菓子を作ってプレゼントしますよ」
「それはすごく嬉しいんですけど、ただ私が学生だと紋様を習ってない事になっちゃうので、どうやってお返ししようかなぁ」
「ふふ、ユキさんらしいですねぇ」
可笑しそうに笑うアレスさんの表情を見て、少し緊張が解けたようでホッとする。しかし学生になっていたら、本当にどうなっていたんだろう。紋様も描けないし、誰かを選んで恋愛なんて想像もできない。
と、アレスさんが私をチラッと見て、
「なんだかお菓子を作りたくなりました」
「あはは、アレスさんらしいですねぇ」
「‥‥悪いが、その前に調べ物が先だ」
ガタッと窓が開いて、ヒラリと滑り込むように入ってきたルルクさん。
本をいくつか抱えたままなのに猫のように柔らかい動きにちょっと感動してしまう。うーん、流石元暗殺者‥。真っ黒い格好をしてたら完全にそれだったな。
「ルルクさん、鍵は」
「すぐ開けられたから資料を持ってきた。ある程度調べたらまた同じ場所へ戻してくる」
「流石だ‥」
まさに適材適所だな‥。
ルルクさんから本を受け取って早速私も読もうかと思ったら、クルッとルルクさんに寝室の方へ体を向けられた。
「あれ?」
「お前はもう寝ろ」
「ええ!?でも私も調べ物くらいできますよ」
「適材適所だ。タリクとアレスで調べた方が早い」
ぐうの音も出ない。
そりゃあんまり賢い方ではないですけど‥。むうっと頬を膨らませると、タリクさんが足早に部屋へ戻ってきて興奮した様子で、
「いやぁ、ルルクさんは動きが本当に素早いですねぇ!私もあんな風に屋根をポンポン飛んでみたいです!ちなみにどうやって訓練をしたんですか?」
と、矢継ぎ早に質問をするのでアレスさんが慌ててタリクさんの腕を引っ張った。
「タリク!そういうのは後です。まずは調べ物が先!」
「ああ、そうでしたね。つい興味が湧いて‥。あ、でもあとでコツを教えて下さいね!」
「あ、ああ‥」
ちょっと圧倒されながら頷いたルルクさんに、思わず吹き出してしまった。
リィちゃんの件があって以来、なんだか吹っ切れたように楽しそうにするタリクさんいいなぁ。小さく笑っていると、ルルクさんが私をじとっと睨んで「ユキを先に寝かしてくる」と、私を指差すので私も負けじと睨み返した。人をお子様扱いするでない!
アレスさんとタリクさんに流れるように「おやすみなさい」と挨拶された私は渋々部屋へ戻ってドアを閉めると、ルルクさんに後ろからそっと抱きしめられた。
「る、ルルクさん?」
「‥‥学生だったら、こんな感じだったんだな」
「え?あ、そう、ですねぇ。でももう卒業した年だからちょっと違和感すごいかも」
「似合ってる。‥でも、いつもの姿の方が安心するけどな」
「スカートが長い方?」
ついからかうようにそう言えば、ルルクさんは私をじっと見つめ、
「それ以上短くしたら許さない」
と、暗殺者のような顔になった‥‥。そんなに嫌なのか。
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