恋愛ゲームの主人公、恋と花とイベント。29
あれからミッツさんに「すぐ花を用意しろ!!」と、せっつかれたダンさん。
赤い顔で急いで花束を用意して、ノイエさんに両腕に抱えきれないほどの花束を渡して「多過ぎる!!」と、クレームを入れられたが、自分の髪に飾っていたピンクの花を取ってダンさんの耳に飾ってあげるのを見て、周囲にいた人達はそれは大歓声を上げた。
横で騎士さん達は泣いていたが、多分嬉し涙ってことにしておこう。
そんな様子を見て安心した私達はギルドに戻ると、花模様の紋様を描いてもらえる!と、更にお客さんが来て目を回した‥。まさかこんなに来るとは思わないじゃないか〜〜!腱鞘炎になっちゃうんじゃないかってくらい紋様を描き、夕方の花馬車の時間が終わる頃にようやく店仕舞いである。
「も、もう一生分、花を描いたかも‥」
「指、指が痛い‥」
「若い奴らが何を言ってやがる。色々あるとなぁそりゃずっと描くことになるんだ。普段から体力をつけておけよ」
「「は〜〜〜い‥」」
60歳でもしゃっきりと背筋を伸ばしているアロンさんに言われると、何も言い返せない私とミッツさん。なんとか体を起こして紋様の道具を片付ければ、紋様を描いてもらった!と喜んでいる人達がいて、暖かい気持ちになると同時にルルクさんのことをふと思い出した。
ルルクさんはあんなに強い戦士なのに紋様を描いてもらったことがないって言ってたけど、もしかして紋様に良い印象がなかったのかな‥。
「どうした嬢ちゃん?」
「あ、ええと、ベラートの紋様のことを思い出して‥」
「ああ、そういやあんまり詳しく話せなかったな。俺も昔、隣のベラートに紋様を学びに行ったことがあるんだ」
「え!?海外留学?!」
「そんな大それたもんじゃないけどな。昔はもう少し国境も緩かったから‥。ただいざ学ぼうとしたら、紋様がこっちと違って随分と戦いに特化しててなぁ。かなり驚いたよ」
「戦う‥‥」
「魔族もいる国だからな。人を兵器にしたり、あんまりいい使われ方をしてなくて、結局こっちへすぐ帰ってきたんだ」
魔族‥。
ルルクさんは魔族のハーフだから怪我をしてもすぐ治るし、体力も桁違いだ。けれど人を兵器にするって聞くと紋様は避けたかった一つなのかもしれない。そう考えると、いきなりルルクさんを拾った初日に紋様を描いちゃって嫌だったかも‥。
つい良かれと思ってやっちゃったけど、これは次回気をつけた方がいいな。そんなことを考えていると、アロンさんが紋様の道具をカバンにしまいながら、
「そう考えたらこっちの国の紋様の使い方ってのは平和でいいな」
そう言って、にっと笑った。
「これからの紋様もそういうもんであって欲しいから、若いの頼んだぞ!」
アロンさんの言葉にミッツさんと顔を見合わせて「はい!!」と、元気よく返事をすると、ギルドの中へシヴォンさん、ウィリアさん、そしてノイエさんとダンさんが戻ってきた。
「皆さん、お疲れ様です!」
「まったくよ!はー、疲れた!ダン、お茶でも飲みましょう」
「え、あ、はい?!」
‥‥すでに尻に敷かれてないか?
でもダンさんは嬉しそうに笑って、「こっちのお茶にする?」と聞けば、ノイエさんもちょっと照れ臭そうにしつつ「そっちがいい」と、話している。うん、雨降って地固まるってよく言ったものだ‥。
シヴォンさんとウィリアさんは、そんなやり取りにはもう慣れてしまったのか、こちらへいつものように笑顔でやってきた。
「やほ〜!ユキちゃんもお疲れ〜」
「は、はい。ウィリアさんもシヴォンさんもお疲れ様です。えっと、ルルクさんは‥?」
「あー、そのうち来るから大丈夫!それよかさ、占いの家に他の騎士に行ってもらったんだけど、そこから違法な輸入品が見つかったんだ」
「え!?」
違法な輸入品?!
目を丸くすると、ウィリアさんとシヴォンさんがその辺にある椅子に座って、少し声を潜めた。
「ベラートでちょっと怪しい動きがあるってタレコミがあってね。どうも祭りに乗じて輸入品を運ぼうとしてたんだ。で、俺達の目を撹乱させたくて、色々起こしてたんだ」
ウィリアさんの言葉にハッとして、「‥もしかして、紋様も?」と、聞けばウィリアさんが静かに頷いた。そして横にいたシヴォンさんが、「他にも何件かボヤがあったそうだ。そちらも既に自警団と騎士達が消し止めた」と、教えてくれてホッと息を吐いた。
「お祭りで大ごとにならなくて良かったですね‥」
「うん。でも報告書山のように書かないと!シヴォン〜〜!まじで手伝い頼む!」
「何を言ってるんだ。僕は魔術師だぞ?」
「そんな〜〜〜!」
泣き崩れるウィリアさんに、申し訳ないけど笑ってしまう。
と、ふんわりと花の香りがして、匂いがどこから来たのか探そうとすると、わさっと後ろから頭の上に何かが置かれた。
「っへ?!」
顔を上げれば、頭の上には花束と、汗だくのルルクさん?!
「ルルクさん?!どうしてそんな汗だく‥?」
思わず聞いてしまうと、ウィリアさんが可笑しそうに笑って、
「花馬車が終わると、花はほとんど売り切れちゃうんだって〜」
「え!?」
シヴォンさんもふっと笑い、
「あちこち探してようやく手に入れたようだな」
「ええ!?」
そ、そうだったの?!それなのに花が欲しいなんて言ってしまったから、ルルクさん探しに行ったってこと?目をまん丸にしてルルクさんを見れば、じとっと私を睨んで、
「‥許さないんだろ」
「いや、事情を知ってればそんなことは‥」
「あと、俺が贈りたかっただけだ」
「ひえっ!?」
なんかすごいことを言われた?!
アロンさんがニヤニヤ笑って、私の肩を突き、
「ほら、最後の客だろ?ちゃんと花を贈ってやれよ」
と、私の紋様道具が入ったカバンをずずいと差し出した。
ちょっと遠くでノイエさんにも「あとで打ち上げするから、早めに描いてやりなさーい!」って声が掛けられると、ドッと笑いが起きて、私は思わず恥ずかしさで身を縮こませてしまうが、どかっと私の前に座ったルルクさんはいつもの涼しい顔である。
うう、こういう時のルルクさんの心臓羨ましい。
早速紋様の筆を取って、ルルクさんを見上げれば得意げに微笑み、
「一番綺麗な花を頼む」
なんて言うので、心臓がやっぱり一瞬止まった‥と、思う。
でもやられっぱなしは悔しいから、それは目を見張るような花を贈ってやるぞ!そう、ずっと描いてて欲しいって思わせるようなもんようね!




