恋愛ゲームの主人公、恋と花とイベント。6
二人で黄色の蝶を手の甲に描いてからギルドへ出勤である。
枯葉を踏みしめながら高い秋の空を見上げると、季節がどんどん移ろっているのを感じる。
「‥あっという間に秋ですねぇ」
「すぐ寒くなるだろうな」
「でも今年はルルクさんがこれでもか!ってくらい薪を用意してくれたから安心です!」
「あれを今までよく一人でやってたな‥」
「すごいでしょう!最初は掌が豆だらけになりましたよ。今は大分ふやふやかも」
「良い傾向だ。もっとふやふやになれ」
「なんで?!」
ルルクさんだけが大変なのも嫌なんだが、何故か私をものすごく甘やかそうとするなぁ‥。不思議に思いつつも私の手をしっかりと握っている手を見れば、キラキラと黄色の蝶が光っていて綺麗だ。うむ、我ながらなかなか上手に描けた!渋いおじさんの紋様士さんに指南を受けたのも良かったな。
「どうした?」
「あ、ああ、ダルゴで会ったおじさん‥えっと、アロンさんって方が色々教えてくれたやり方を今回取り入れてみたんです。今見ても魔力がぐっと伝わっている感じがして、流石は先輩だなぁって思って‥」
「ああ、あの人か。あちこち町を回ってから帰ると言ってたな」
「あれだけの腕前ですからねぇ。どこへ行っても引っ張りだこなんだろうなぁ〜」
「‥‥王族専属紋様士が何を言ってる」
「いや〜〜、あれはあの時限定ですよ!」
あっはっは!と、豪快に笑うと、ルルクさんは「限定ね」と呆れたように私を見た。なんでやねん。
「まだまだ私は一人前とは言い難いですからね‥」
「紋様士としてあれだけ成果を出してて半人前な訳ないだろ」
「ええ!?でも私、料理も薪割りも十分にできてないし‥」
「そこは紋様士としてなんの関係もないだろ。俺も、自分も助けられる技能があるんだ。そこは胸を張っておけ」
「そ、そう、ですか?」
そんな風に思ったことがないので、ルルクさんの言葉にちょっと驚いた。
確かにルルクさんや、町の住民さんや、温泉で出会った人達に少しだけとはいえ役に立てたなら一人前って名乗ってもいいのかな?
「ルルクさんは、どんな時に一人前になったって思ったんですか?」
「鶏の頭を躊躇いなく落とせるようになった時だな」
「ひえっ」
途端に自分の首を抑えた私を誰が責められよう!!
っていうか、なんで鳥!??混乱した顔でルルクさんを見上げると、どこか遠くを見つめ、
「‥‥食うに困って鳥を捕まえたがいいが、うまく絞められなくて最初は随分悩んだ」
「今日は鶏肉のソテーにしましょうね。絞めてあるやつで」
「‥だな」
お互いに顔を見合わせて笑ってしまう。
本当に生きるのに必死だったんだろう。でも今はそれを笑えるんだから良かった。最後の一口を食べ終え、包んでいたナプキンを綺麗に畳むとルルクさんがギルドの方をチラッと見た。
「今日は午後も少し客がいそうだな」
「そうですね〜、一週間いなかったのはやっぱり大きかったな。大工さんも結構いたし、隣の町からも珍しく人が来てましたね」
「そりゃ、ダルゴで散々宣伝したからだろ」
「あ!そういうこと?!」
そういえばあっちでも色々な場所から来たお客さんに紋様を描いてたっけ。とはいえ、それでわざわざこっちに来てまで描いて欲しい、のか?他の町にも紋様士さんがいるけどなぁ‥。そんなことを考えつつギルドへ戻れば、いつも仕事している席の前に数人のお客さんがもう待ってる!
こ、こんなこと初めてなんだけど?!
驚いていると、レトさんがこちらへやって来て、
「お、ユキ!仕事の前にちょっとだけいいか?」
「は、はい」
「悪いな。ルルクも昨日は色々面倒掛けたな。サイズはもうあっちの町に伝えたから、前日に町に来たら試着するそうだ。よろしく頼むな」
「わかった」
「で、ユキ!突然だけどあっちでも紋様を描かないか?」
「え?!」
「‥あっちの領主が「お前の所には王族御用達の紋様士がいるんだろ」って言われてなぁ‥」
「そ、そんな大それた存在じゃないのに!??」
驚きつつ訴えると、ルルクさんが「やっぱりな‥」と、呟いた。ええ、何?もしかして想定内だったの?
「まぁ、そうなるとは思ってた‥。ユキが仕事する場所はどこになる?」
「る、ルルクさん!?」
「そりゃあっちのギルドだな。もちろんちゃんと警護付きだ」
「え、ええ!?」
「攫われたりすりゃまずいだろ」
「攫われる?!!」
なんで?私はただの紋様士だよ?
目を丸くすると、ルルクさんが小さく舌打ちをして、
「お抱えの紋様士を変更しておけって言っておくか‥。面倒が増える」
「面倒っていうか、危険だな。ユキが有名になるのはいいことだが賛成だ。王族ってなぁ、遠くから憧れてるくらいが丁度いい」
「な、なるほど‥?」
そっか‥。名前が売れるってことは、嬉しいこともあるけど反面危険も増えるのか。前世のバズると面倒なのが増える‥を、思い出した。ううむ、祭に行く前から雲行きが怪しいな。
ふやふやって擬音が可愛くて‥。
ふわふわと悩んだけど、ふやふやにしました。




