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鉄拳の騎士  作者: sui
第二十六話 それでも灰色の未来に挑む
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第二十六話 EX

 オズヴァルドは撃破。新たに姿を見せたイルゼは撤退。

蘭の連絡によって到着したシルバーセキュリティが事後処理と情報の辻褄合わせを行い、八石山総合医院での騒動は幕を閉じた。


 運良く無傷で済んだミッチーとヨシりんは保護され、重傷を負い意識を失った中西はすぐに集中治療室に運ばれる。

そして負傷しながらも意識を保った晃、麗華、千智の三人は同じ医療機関で同時に治療を受けることになる。

 


「で?本当に千智さんには何もしてないのね?誑かしたりしてないのね!?下心は!?ない!?ないのね!?えぇ!?あぁ!?」


「アホか!無えよ!!小学生のガキだぞ!?ダメに決まってんだろ、そんなもん!!」


 三人を運ぶJRICCの車両内。

宣言通り尋問を行う麗華と、至極真っ当な反論で戦う晃の大声が響き渡る。


 聞くに耐えない、見るに耐えない醜い争い。

しかしそれは、二人が理不尽な戦いに身を投じる戦士から年頃の高校生に戻った証でもある。

それを理解している周囲の大人は眉を顰めながら、苦笑いで聞き流す事にした。



「べつに……だめじゃないもん」


 千智は少し離れた所に座り、高校生二人よりもずっとおとなしい様子で佇む。

誰に伝えることもできない気持ちは、小さな呟きとなって騒がしい車内に溶けていった。


 


 それからおよそ一週間が経った、日曜日の昼。

また周りと予定の合わない晃は一人、自分の部屋に寝転んでいた。


 イルゼが手の内を見せてこない以上、対策を打つ事もできない。

漫画を読んだり、作りかけのプラモデルを組む気にもなれない。

店休日なので、特に祖母を手伝う用事もない。


「ダッリィ……」


 宿敵・オズヴァルドを倒せはしたが、戦いの終わりはまだ遠い。

灰色で不確定な未来を思い、晃は思いため息をついた。


「晃!ちょっと降りてきな!あんたにお客さんだよ!」


「客……?」


 一階から祖母の紫織が呼ぶ声が聞こえてくる。

賢治や宏、麗華が来た時とは違う、〝客〟という妙な呼び方。

それが気になった晃は、倦怠感を一旦置いて下に降りる事にした。


「おう、客って誰だよ」


「学校の先生だよ。あんた、また何かやったのかい?」


「先公だあ?ちょっと待て、最近は別に怒られるような事してねえぞ」


 翡翠陶子という例外を除いて、家に教師が来る時は決まって学校での喧嘩騒ぎが原因の家庭訪問だった。

しかし今回は晃に心当たりは一切なく、事前に学校からなんらかの通知があったわけでもない。

不可解な状態に、晃は首を傾げた。


「どうもそういうのではないみたいだけど……本当に心当たりないのかい?」


「ねえよ!」


 晃より先に客と顔を合わせた紫織も、状況を掴めていない様子だった。

埒が明かないので晃は考える事をやめ、客人を問いただすめに玄関の戸を開けた。


「突然すまなかったな、芽吹」


「おにいさん!こんにちは!」


 晃を待っていたのは中西と、娘の千智。

怪我のせいで未だ職場復帰できていない中西は松葉杖が手放せないが、きっちりと整えられた背広を着用する。

千智もフォーマルな雰囲気の服装に身を包み、小さな手に洋菓子屋の箱を下げていた。

  

「は……?え?マジでなに?」


 確かに先週の戦いにおいて縁はできた。

しかし全てが終わった今、この親子が自分のところに来る理由がわからない。

真剣な眼差しを負ける中西に対し、晃は素っ頓狂な声をあげた。


「チーちゃんの命を救ってくれた件に、改めて礼を言いに来たのだ……」


「ああ……なんだよ、えらく律儀じゃねえか」


 理由を聞き、ようやく今の状況に合点がいく。

中里とは苦境の中でお互い腹を割った仲だが、それまでに積み重ねてきた敵対は数知れず。

そんな相手が自分に筋を通す事を、晃は想定していなかった。


「あのね、おにいさん……いちご牛乳飲んでたから、これも好きかなって思って……おとうさんと買ってきたの」


「ガキがなに気ィ使ってんだよ。いやでもこれ、マジか……」


 千智が手渡した洋菓子は、晃もよく知る高級店のいちごタルト。

母との記憶の中にあったそれと、似ているようで違う形。

最初は遠慮する素振りを見せた晃だったが、昔からの大好物に対して喜びを隠す事はできない。


「本当にありがとう、芽吹……チーちゃんがこうして今、元気でいられるのは全部お前のおかげだ」


「ち、調子狂うからやめろって!喧嘩した奴に先公が礼言うのありえねえだろ!」


 何度も衝突してきた生活指導の中西が、自分のやった事を認め深々と頭を下げる。

嬉しさでもなければ、不快感でもない。

腹の底をくすぐられたような、不思議な気分にたじろいだ。


「言いたい事や聞きたい事はある。暴力行為そのものは容認しない。ただ……お前の喧嘩が命を救った。それは事実なんだ」


 アーマライザーを手にして戦い、関わった人々から貰い続けた感謝と暖かい言葉。

自分が貰えるなどと思っていなかったそれらは少しずつ晃の心に溜まり続け、灰色の未来へと進む背中を後押しする。


「……ケッ、ガラじゃねえんだよ」


 憎まれ口とは裏腹に、晃の表情は穏やかだった。

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