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鉄拳の騎士  作者: sui
第二十六話 それでも灰色の未来に挑む
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第二十六話 3

〈……オズヴァルドの撃破を確認!!〉


〈ッシャァナイスッ!!まさかこのタイミングで敵将一人ぶっ殺せるとは思わなンだ!!〉


 戦場をモニタリングしていた森川さんの口から出る吉報。

通信の向こうにいる篝火とJRICCの職員達は、それを聞いて歓声を上げた。


「ふぅ……どうにか片付いたわね、まだやる事は多いけど……」


 剣晶をアーマライザーから取り外し、鎧の装着を解除する。

ここから中西親子の救助、JRICCやシルバーセキュリティへの引継ぎなど必要な後処理が山ほどある。

それを理解している麗華は今すぐ晃に掴み掛かりたい気分を抑え、冷静であることに努めた。


「あぁ……」


 一方の晃は取り外した自分の剣晶をじっと見つめ、ぼんやりとした返事を返すのみ。

最優先事項は、千智の拘束を解くこと。

それがわかっているはずなのに、今まで自分に力を与え続けてきたエヴァーグリーンの事が今更気になり始めた。


「蘭がシルバーセキュリティと連絡を取ってるはずだから、私達はあの子を……ねぇ、聞いてる?」


――別に興味なんぞなかったけど、さっきみたいな事されちゃなぁ……


 美しく透き通り、驚くほど手に馴染む常緑色の剣晶。

成り行きでこれを使うようになった晃は、その背景や成り立ちなどは何も知らない。

ただ鎧を着せて力を与える為の道具としか考えていなかった。


――俺はなんでこれを使えたんだ?なんでこれは……こんなにも俺に馴染むんだ?


 心臓のように脈動した剣晶。

大地と循環し、一体化したような感覚。

強大さのあまり出入口となる手と足を焼いた、謎の力。

それらを与える剣晶と、使用できる自分の異常に気がついた。

 

[――――――――――――――]


「あ!?なんだ!?今なんつった!?」


 剣晶を覗く晃の視神経から伝わり、脳に直接刻み込むように音が響く。

まるでノイズのように不鮮明なものだったが、晃はそれを〝声〟であると認識した。


「あの子を助けるって言ってるのよ!ボーッとしないで!!」


「おっ!?お、おう。悪ぃ悪ぃ……」


「私からの尋問だってあるんだからね、忘れないで!!」


「え?今尋問っつったか?俺に?なんで?」


 思わず声に出してしまった内心……に、応えるのは脳内ではなく、現実に存在する麗華。

怒りで歪む彼女の顔と最奥のステージに拘束されたままの千智の姿を見て、ようやく自分のすべき事を思い出す。

 

――この剣晶は今、俺に……謝ったのか……?


 エヴァーグリーンから晃の脳裏に届いた声には、確かな感情があるように聞こえた。




「か、勝った……おにいさん、勝ったぁ……!」


 戦いを見つめていた千智の目からも、晃達の勝利は明らかだった。

悪夢の時間が終わった事を確信し、安堵の声を漏らす。


「そうね、ほんとサイアク」

 

 独り言に対して、本来返ってくるはずのない相槌。

不機嫌な女の声をしているそれは、千智を拘束するベッドを設置したステージの裏から聞こえた。


「「「…………!!??」」」


 声の主はゆったりとした足取りで千智の隣まで歩き、その身を晒す。

想定外の新手、場違いな美しさ。

晃と麗華は虚を突かれ、一瞬思考を止めてしまった。

 

 全身甲冑と晶獣の中間のような姿――オズヴァルドとの同一の規格でありながらも、その造形は細部に至るまで全くの別物。

高級感のある緻密な装飾が施された霧の桃色(ミスティピンク)の鎧。

機動性を重視した軽装甲と、ボディラインがはっきりとわかる特異な構造。

色気のある立ち振る舞いに、先に聞こえた声も相まって〝女性型〟である事を強く強調していた。


〈アッ!ヤバイ!!猛烈にイヤな予感がしてきた!!麗華くン!!すぐにオズヴァルドの剣晶を――


「……フン」


 真っ先に声を上げたのは篝火だったが、相手の動きは誰よりも早い。

右手首の装甲が展開し、露出した射出口から格納されていた鞭が伸びる。

まるで身体を一部を操るかのような動きで床に転がるオズヴァルドの剣晶に巻きつき、瞬く間に絡め取った。


〈なンだよぉぉぉぉぉぉ!もぉぉぉ!!!またかよぉぉぉぉぉ!!!この流れ三度目じゃンかよぉぉぉぉぉぉ!!!!!〉


 鞭が縮んで装甲内に格納され、剣晶は女の手元に渡る。

戸成市の戦いで逃したインフェルノオレンジ、帝国ダイヤモンドプリンスホテルで奪われたローズレッド。

そして今回手に入らなかったオズヴァルドのエターナルブラック。

    

 研究対象として価値のある、強力で貴重な剣晶。

それらを悉く入手できなかった篝火は頭を掻きむしり、血の涙を流しながら大音声で嘆き悲しんだ。


「ってか、フロスティホワイトまでいるなんて聞いてないんだけど……指揮がヘタクソなオズヴァルドには不利な戦いだったわけね」


 女は、続いて晃と麗華を睨みつける。

パラライズトーカーを用いた麗華の分断に失敗し、晃が発した未知の力も理解しきれず、二体一の状況に追い込まれて敗北する。

元々オズヴァルドだった手元の剣晶を握りしめ、ため息をついた。

 

「な、なんだ、こいつ……新手かよ!!」


「なんであれ、やるしかないわね……!!」


 品定めするように晃達を見つめる視線。思わず圧倒されてしまう、研ぎ澄まされた造形の美しさ――オズヴァルドとは真逆の性質を持った難敵であることが、二人にもよくわかる。

それでも目の前に敵がいるのなら、痛みと疲労は闘志と使命感で塗りつぶすしかない。

晃と麗華は再び剣晶を手に取り、戦う姿勢を見せた。


「やらない」


 一方の女は、簡潔な一言を返すのみ。

戦闘意志を全く感じさせず、無理に戦闘状態を作ろうとする二人に呆れたジェスチャーを見せた。

 

「こっちにはあんた達に対する用意がない。そもそも今回は想定外の戦闘で、今殺り合う理由もないのよ」


 鬱陶しさや敵意は見えるが、女には今まで相対してきたオズヴァルドやロミルダのような驕りはない。

説き伏せるような言葉には、冷静で知的な印象を感じさせた。


「はいわかりました。で帰るとでも思ってんのか?」


「そちらに用意がなくとも、こちらにはある!」


〈芽吹さん、麗華さん!相手の力量は未知数なんです!連戦は危険で――


 しかし、二人には敵の言葉に従う理由がない。

オズヴァルドを倒した事で自信は無謀の域に達し、森川さんの声も届かなくなってしまう。


「ウザイ、鬱陶しい、気色悪い……アタシがあんたらの要求を飲む理由も無い!!!」


「えっ……きゃぁぁぁぁあっ!!」


 女が聞き分けのない二人に苛立ちを覚えた瞬間、冷静だった態度が憤怒へと変貌する。

まるで別人のようにヒステリックな仕草を見せ、千智を拘束するベッドを乱暴に蹴飛ばしてステージの下へと落下させた。


「ヤベェッ!千智!!」「ちょっと!?一人では無茶よ!!」


 千智を庇う為、咄嗟に飛び出した二人がベッドと激突する。

千智が床とベッドに挟まれる事態は免れたが、下敷きになった二人には相応のダメージが入り動けなくなってしまった。


「騎士らしく、自己紹介くらいはしてあげるわ。アタシは神聖騎士団・上位騎士爵(ハイクラスコマンド)のイルゼ。このバカの後釜で……あんた達の敵」


 二人が愚かさの代償を受ける様を見届けると、女は満足した様子で怒りを収める。

再び鞭を展開したその女――イルゼが名乗りと同時に床を打ち鳴らすと、彼女を中心に桃色の霧が発生した。


「アタシはオズヴァルドほど傲慢でもなければ、母さんほど怠惰でもない……上位騎士爵を一人斃してみせたあんた達を、見くびる事もない」


 霧は大講堂全体に広がり、晃達の視界を奪った。

それでもなんとかのしかかるベッドを動かそうとする中、聞こえてくるのは宣戦布告の捨て台詞。

言葉の通り、傲慢も怠惰もない――騎士団に確かな打撃を与えた敵に対する、静かな憤怒が籠った声。


「いずれ必ず潰してあげる……まともな死に方なんて、出来ると思わないでね?」


 霧が晴れると同時に、イルゼの姿も消える。

残されたのは満身創痍の身体と、それでもどうにか助ける事の出来た千智。

そして勝利の余韻を取り上げられたあとの、屈辱の感情。


 必死に対策を講じ、技を磨いた。

駆けつけてくれた麗華と、剣晶が発する神秘の力も借りた。

そうしてようやくオズヴァルドを倒した先に、待っていたのは更なる難敵。


「畜生……まだ続くのかよ」


 戦いの日々はまだ終わらず、苦難は次々と降り注ぐ。

ようやくベッドをどかした晃の身体に、より強い倦怠感がのしかかった。

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