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鉄拳の騎士  作者: sui
第二十六話 それでも灰色の未来に挑む
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第二十六話 2

「かかってこいや、バカタレ共!!何度でもぶっ壊してんぞ!!」


「何をしている!!すぐに奴を囲み、連携攻撃を行うのだッ!!」


 一方で、晃とオズヴァルドの戦いは続く。

優位を一瞬で崩されたオズヴァルドと晶獣達は狼狽し、絶え間無い攻撃が止まる。


「お兄さん、つよい……かっこいい……!!」


 神聖騎士団に動揺を与えた力は、千智にとっては希望そのもの。

晃が悪を駆逐する様に魅せられて顔を赤らめ、感嘆の声を上げる。


 しかし晃にその力を与えたのが他でもない千智の声援である事に、本人含め誰も気がついていなかった。


――よし、ようやく俺のペースに戻せた!この勢いで……


 敵の攻撃が止まり、息と思考を整える余裕が生まれる。

そしてようやく、アーマライザーを通じて語りかけるものの存在を認識した。


〈もしもし!?もしもし!!??もしもしもしもし!!??晃くン聞こえてっか!??今キミの剣晶、ヘンな挙動起こしてたけど自覚ある!?ってか応答しろ!して❤︎〉


「うるせえ!そういうのは後にしろ!!」


 晃の耳に聞こえてきたのは、相当繰り返したであろう篝火からの無線。

晃達の身に迫る緊急事態に対する焦りと、晃の剣晶が起こした異常事態に対する期待。

それらが入り混じる声は、けたたましく聞くに堪えない。


〈ウッシ、無事、ヨシ!麗華くンがもう少しでそっちに着くから、それまで持ち堪えてさっきやった防攻一体をもっとやって欲しい!!なンせ急だったもんでデータの取得が不十分――


「後にしろっつってんだ!!!」


 応答する気の失せる騒音への怒りは、晃の頭から冷静な思考を奪う。

未だ苦しい戦況も相まって、有益な情報も混じるそれを全て聞き流してしまった。


「い、今だ!行けーーーーーッ!!!」


 篝火とのやりとりで止まった動きを、オズヴァルドは見逃さない。

再び頭数を揃えた晶獣達が、晃を取り囲み一斉に攻撃を開始した。


――なんとしても、なんとしてもヤツを仕留めねばならんッ……隙を見つけるのだッ……!!オレの攻撃を確実に通す隙をッ!!!


 晶獣の隊列や攻撃は指揮に合わせて動くようにプログラムされたもので、一回目のものと全く同一。

唯一異なるのは、焦りによってようやく驕りが消え始めたオズヴァルドの思考のみ。


〈よっしゃ守れ!GOGO!!〉


「言われるまでもねえ!!」


 晃は一喝と共に守りの構えを取り直し、晶獣の一斉攻撃を迎え撃つ。

見覚えのある動きを防ぎ切る事は容易く、精神的にも優位に立っていた。

  

――よし、今だ!もう一度あの感覚……を……!?


 エヴァーグリーンの剣晶が齎し、攻撃の反射を実現した大地との力の循環。

偶然発生したそれを自らの力で再現しようとした時、晃の身体を異変が襲った。


「あっ……ガッッッ……痛ってぇ!!何だこれ!?」


〈なンだなンだどうしたどうした!!??足の裏と拳にダメージ反応、しかも鎧の内側……!?〉


 大地から力を吸い上げる足裏と、放つ拳に激痛が走る。

全く予想が出来ず防ぎようのない内側からの痛みに耐えられず、晃は思わず動きを止めてしまう。


「ムムッ!?今だァァァーーーーーッ!!!」


「ゴハッ……!!!」


 戦いをじっと観察していたオズヴァルドが、好機に向けて突進する。

防御体勢を崩してしまった晃は、大剣による腹部装甲への突きをまともに受けてしまう。

大きなダメージと共に、身体が壁にめり込む程の衝撃を受けた。


「ホァッ!?……おっ、あっ、ハ、ハハハハハッ!!無様だな、アキラよ!!」


 やぶれかぶれの攻撃が、想像を超えた手応えを産む。

オズヴァルドは思わず呆けた声を上げるが、少し間を空けてようやく優勢と劣勢が切り替わった事を理解した。


「先程は少々ビックリしたが、あれは貴様の身の丈にあっていなかったのだろうよ!!惰弱な人間の身体には、過ぎた力だッ!!」


 攻撃反射の能力が消えたとわかった瞬間にオズヴァルドは持ち前の傲慢さを取り戻し、壁に埋まった晃を指差し罵りの言葉を浴びせる。

 

 不安定な性格に紐づいたオズヴァルドの傲慢は、僅かに芽生えた反省と成長の芽を自ら踏み潰す。

しかし戦いの現地に立つ戦士として推察したものは、ロミルダや篝火がまだ辿り着いていない答えの一部を言い当てていた。


「おにいさん!?だ、だいじょうぶ……?」


「ピンピンしてらぁ……ッ!!」


 難局を目の当たりにして不安に駆られながら、それでも晃を気遣う千智の声。

それを耳にした晃は埋まった身体をすぐに動かし、気丈な態度を返して見せた。


「まだだ……こんなもん喰らったうちにも入らねえよ!!」


「フハハハハハ!無理せず降伏した方がいいぞ、アキラッ!!」


 再び構えを取り相対するが、乱れた呼吸は整わず体幹も安定しない。

オズヴァルドから受けた攻撃は晃にとって大した問題ではなかったが、内側からくる手と足への痛みが戦いを困難なものにしていた。


「次はしくじらねえぞ……次は……!!」


 剣晶を通じて手助けしてくれた未知の力を、自分の至らない身体が拒絶してしまったような感覚。

そこから来る不安を掻き消すために、晃は強い言葉を吐き続けるしかない。


「所詮、キサマ一人がどれだけ足掻こうともオレ達にとっては取るに足らん存在なのだ!!」


『ETERNALBLACK』


 気合いに身体がついていかない晃を見て、オズヴァルドは勝利を確信する。

啖呵と共に胸の剣晶を押し込むと、内側から漆黒の光が溢れ出した。


力の奔流と化したそれが胸から右腕まで伝わり、大剣の刃を包み込む事で剣戟を最大威力まで高める。

それがオズヴァルドの持つ、至ってシンプルな必殺技。


「せめて必殺技で殺してやろうッ!!シュバルツァー・シュラァァァァク!!」


〈ギャワー!ヤバイヤバイヤバイ!!恵くン!麗華くン今何処ォ!!??〉


 ゆっくりと必殺の刃を降り上げるオズヴァルドに対し、手足の痛みに苦しみながらなんとか防御姿勢を取る晃。

ぶつかればどちらが勝つかは、篝火でなくとも予測ができる。


〈……まさに真上、間に合った!今です、麗華さんっ!!〉


「――ヤァァァァァァァッ!!!」


 麗華の誘導を担当していた森川さんから、篝火の耳に届いた朗報。

真上の四階から回り込んでいた麗華が、天井の破壊を伴

いオズヴァルドへ降下攻撃を仕掛ける。


「なッ……なぁぁにぃぃぃぃぃッ!!!??」


 パラライズトーカーも行い、麗華には回避できた直上からの奇襲。

晃との決着に拘り、麗華の存在を失念していたオズヴァルドには予測する事ができず驚きのあまり構えを解いてしまった。


「ドフゥーーーーーーーーッ!!?」


 上空からの蹴りが、ガラ空きの顔面に突き刺さる。

オズヴァルドの必殺技シュバルツァー・シュラークは不発に終わり、無様に倒れ伏した。


「バカなッ!!き、貴様はトーカーが始末しているはずッ……!?」


「あの程度の相手に私が倒せるとでも?舐められたものね……」


 空中で一回転して麗華が着地した地点は、オズヴァルドと晃の間。

麗華の力を見誤ったオズヴァルドに対し、怒りと侮蔑の言葉を吐き捨てた。


「……ねぇ、私のこと舐めてるわよね?ねぇ?ん?」


「は!?え、俺!?」


 振り返った麗華の視界には、呆気に取られた様子の晃が映る。

怒りの圧はオズヴァルドにかけたものより明らかに強く、ふつふつと湧き上がるように言葉のボルテージが上がっていく。


「今・日・は!!本当に言いたい事が多すぎるのよ!!!どこから怒っていいかわからないくらいにね!!どれだけ話を面倒にすれば気が済むのあなたは!!!ふざけてるの!!?ねぇ!ねぇ!!ねぇねぇねぇ!!!」


 どれだけ不機嫌を露わにしても、原因である本人はその理由を全く察する様子がない。

ついに怒りの限界が訪れた麗華は顔面を晃の間近まで持っていき、両肩を掴んで激しく揺さぶり早口で怒鳴り捲し立てた。


「お前もそういうの後にしろマジで!!ウダウダ話してる場合じゃねえのはわかんだろ!!!」


 晃は今回も麗華が怒る原因をまったく想像できていないため、困惑して激怒に返す激怒を産む事ができない。

 珍しく冷静な晃の指摘する通りオズヴァルドはまだ健在で、晶獣の第二陣も倒し切ったわけではない。


「囲めッ……今一度奴らを囲むのだッ!!」


 ようやく起き上がったオズヴァルドの号令に従い、晶獣達が動き出す。

最後の総攻撃を仕掛けるべく手負の第二陣に少数の予備兵が加わり、晃との麗華を取り囲んだ。


「……フンッ!」


 ようやく危機を察した麗華は気持ちを切り替え、鼻を鳴らして晃の胸部を叩いた。

叩いた箇所を起点にして、晃の鎧全体を氷が包み込む――戸成市の戦いで見せた強制凍結(フォーストフリーズ)による氷の二重装甲を、再び作り上げた。


「これが終わったら、全部きっちり説明してもらうから」


「うるせえなあ、わかったよ!」


 背中合わせの態勢を作り、今まさに襲い掛からんとする敵の群れを二人で睨みつける。

 

 まだまだ相互理解に欠け、些細なすれ違いで衝突を繰り返す晃と麗華。

しかし同じ志を持って同じ敵に挑み、お互いに背中を預け合った時。

言葉を用いずともどう連携し、どう戦うべきか通じ合う事が出来る。


 


「おにい……さん……」


 囚われの身にあり、戦いに縁がなく、聡明だがまだまだ幼い。

そんな千智であっても、戦況が好転した事はすぐにわかる。


 天井をぶち破って現れた白い鎧が晃の仲間である事。

声からして、女性である事。

激しく口論しているようでも、二人は心の通じ合う仲である事。

それが晃にとっての〝幸事〟であると、すぐにわかる。


「………………っ」


 晃の戦場は間近であるはずなのに、何故だか急に遠く感じる。

か弱き部外者の千智は目を見開き、小さく下唇を噛んでただ見守る事しかできない。




「FROSTYWHITE」 「RE-IGNITION」


 主武装である剣は、あえてホルスターに収めたまま。

麗華が左腕の剣晶を押し込むと、起動音と共に氷柱(ブライニクル)が右足を包み込む。


「晃くん!!」


「よっしゃ!!」


 背中越しに声をかけ、麗華の左腕が晃の右手に組まれる。

ただそれだけで晃には、この後どうすべきかすぐにわかった。


「「いっ………けぇ!!!」」


 その場で晃がジャイアントスイングの要領で回転し、力任せに麗華を振り回す。

伸びた麗華の右足に遠心力が乗り、氷の連節棍(フレイル)と化す。

二人分の力を込めた衝撃が、近づいてきた晶獣を片っ端から粉砕していった。


「これが……ヒエヒエタケコプ「うるさい!ブライニクルフレイル!!」


 晃のセンスで考案された技名はその場で却下され、すぐに麗華が適切なものへと訂正した。


「何ッ!?一瞬で――


「まだだ、マヌケ!!」「これで終わりよ!!」


 またも大袈裟な身振りで驚くオズヴァルドに、二人の攻撃が続く。

晃は回転の勢いを維持し、麗華をそのまま傷が残るオズヴァルドの腹部へと投げつけた。


「バカ共めッ!!ゴミが二匹に増えたところで、なんだというのだッ!!」


 麗華の両脚がオズヴァルドに命中し、飛び蹴りが決まったかのように思えた。

それでもオズヴァルドの堅牢な装甲を崩すには至らず、右足を包んでいた氷柱は力負けして砕け散った。


「終わるのは貴様だ!女ッ!!」


「……任せたわ!」


 着地した麗華に向けて、オズヴァルドの大剣が力任せに振り下ろされる。

命中は免れない距離だったが、麗華のとった行動は回避や防御ではなく信頼の掛け声を上げる事だった。


「他所見してんじゃねえ!!テメェが喧嘩売ったのは俺だろうが!!」


 間髪入れずに晃が割り込み、オズヴァルドの斬撃を全力で受け止めた。

氷の鎧の優しい冷気が、手と足の痛みと火照りを和らげる。

機能不全を起こしかけていた晃の身体は、戦う力を完全に取り戻していた。

 

「クソッ!クソッ!!鬱陶しい!!貴様もすぐに殺してやる……!!」


 激昂と共に繰り出される乱撃は、晃が全て防ぎ受け流す。

攻撃の反射する不思議な力は使えない。あるのは己の技量のみ。

オズヴァルドを打倒する為に磨いた防攻一体が、ようやく形となって目を出した。


――バ、バカな……刃が通らん……ッ!!


 足りない力量は、麗華が補う。

滑らかな曲線で造形された氷の鎧の表面が、オズヴァルドの刃先を逸らす。

今のオズヴァルドには、晃へ傷を負わせる事が出来ない。


「おい、今だ!!」「ええ!!」


 大振りの一撃を外したオズヴァルドの腹部を狙い、晃のカウンターパンチが響く。

今度は麗華が晃に応えて間に入り、自らの剣を抜いて同じ箇所に突きを入れる。


「がァッ………!?な……んだ……!!??」


 何度も集中的に攻撃を受けた腹部装甲に再び亀裂が走り、致命的な破損が生じる。

オズヴァルドからすればあり得ない事態、新造人類の敗北。

初めて心に湧き出た絶望に慄き、攻撃を止めて後ずさるしか出来なくなった。


「二体一など……この……卑怯者めがッ……!!」


「もう突っ込むのもアホらしいぜ」


「では、トドメよ」


「EVERGREEN」「FROSTYWHITE」


「「RE-IGNITION」」


 自らの所業を棚に上げた、オズヴァルドの泣き言。

聞くに値しないそれを呆れた気分で聞き流し、並んだ二人がトドメを差すべく剣晶を再起動させた。


「ウルトラドラゴン……」「ブライニクル……」


「負けるはずが無い……このオレが……神聖騎士団上位騎士爵たる……このオレが……!!!」


 装甲の展開と拡大によって、巨大化する晃の拳。

刀身を氷が覆い、鋭い氷柱へと姿を変える麗華の剣。

間近に迫るそれらに、もうオズヴァルドは立ち向かう事も回避する事も出来ない。


「ダイナマイトパンチ!!!」「ランチャー!!!」


「ガァァァァァァァァァ…………ッ!!!」


 それぞれが最も得意とするシンプルな必殺技が、ついに宿敵の一人に届く。

抱えたまま捨てることのできなかった傲慢と共に、オズヴァルドの身体は崩壊した。


 


「母……上…………」

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