異世界修繕紀行
「おかしいな、桃の木がない」
最初に降り立った場所まで戻ってきた天久手達は、骸骨の残りの骨を探すべく桃の木までやってきた
道は一本道であり、やたら魔物が多い以外は前と変わりない。
目的地に着いたが、代わりに桜の木があるだけだった
「よく調べてないけど、おかしいなこの山」
天久手は、手持ちのタブレットを取り出し、調べ始める。
気にも留めなかった周りの景色は、気づけば禍々しい気配の様子に変貌していた
桜は美しく咲き誇り、花びらを散らせている。
だが、空気は張りつめており、シンドウは銃器を構えて周囲を警戒する。
「ほう、わざわざその骸を持って帰って来るとは殊勝な心がけであるな」
桜が喋った。
いや、木の後ろから人が出てきたのだ。
街の商店にいた老婆、
いや、口調が老婆の幼女である。
「アンタか、ずっと尾けてきた奴は。なんのつもりか
聞いても?」
シンドウは銃口を幼女に向けたまま、周囲の警戒を更に上げる
「それは魔王の幹部だった男の骨だ。朽ちることなく森によって永遠に生かされる業を背負わされた哀れな者の末路。持ち出した所でどうもできんだろうが、
封印したはずのものを持ち出されたとあっては、
賢者をやってたアタシの名が泣くからね」
「さようですか。では差し上げてサヨナラしま」
「待て待て待て待て!せっかく旅の友になったのだ、
私を安らかに寝かせてくれるまでが仕事だぞ?」
骸骨が慌てる
天久手が幼女に向かってアンダースローで投げようとしたからである。
「復活させてくれとか言わないの」
「いやぁ、今更出て行った所で派閥争いに負けた身だ。また誅殺されるに決まってる。ならば静かに森で眠っていた方がマシだ」
賢者を名乗る幼女は、少し驚いた様子だった
「討伐しにきた時、そんなことは言ってなかったぞ」
「まあ、自暴自棄で、倒され待ちだったからな。」
「和解した?じゃああげます」
天久手は骨を幼女に渡した。
シンドウはそれでいいのかという顔をしたが、天久手は面倒そうに視線を返す
「穏やかに余生を過ごせるよう、封印を再度お願いします。じゃあ、私はこれで」
天久手はお辞儀をしてシンドウを促し森から離れようとする
「そうはいかぬ。
あの桃は人には刈り取れない魔法の桃でな。
桃の木自体が封印の楔として機能していた。
それがなくなるなど余程のことがあったに違いない」
「桃ならいくつか収穫しましたが、ダメでしたか」
「刈り取ったぁ?!!!!」
買い取ってもらえなかった桃
ここら辺ではこの桃の木は神聖な物、もしくは畏怖の対象として崇められてきた
市場で売る果物に桃がなかったのは、食べることを忌避されていたからだ
「といってもかなり大きい桃でしたから、数個貰っただけで、まだ残ってましたよ」
「お前、刈り取るだけで魔力を吸い取られ、下手すれば命も持っていかれる桃だぞ?」
「すんごく美味しゅうございました。あ、麓の村の人にも振る舞いましたけど、みんな美味しいって」
「た、食べさせたのか?!毒にな」
「毒ですか?皮をむいて切って味見しましたけどなんともないですよ」
カバンから白く透けた刃物を出す
残っている桃をあっという間に剥き、カットした桃を差し出した
手に取る部分の皮は残してある
「信じられん。この桃は人が食べるには魔力が濃すぎて、文字通り腹が裂けるのに」
シンドウはお腹を押さえた
美味いからと沢山食べてしまった自分、食べ過ぎてお腹が膨らんだのを見て笑っていたが、アレは危険な兆候だったのか
同じ量食べていた天久手は全く平気だったのに
振る舞われた村人も平気だったのに
違うのは桃を自分で剥いて食べた事くらいか
クロが、シンドウの頭にスリスリと体を擦る
「ほう、その黒いやつが男の方の暴発寸前の物を鎮めてくれたんじゃな」
「シンドウさん、クロとそんな関係に・・」
「違いますよ?!桃を食べ過ぎてお腹が裂けそうになったのを助けてもらった話ですよ?!」
「いえ、仲良くなったなと感心しただけです」
天久手は他意はありませんからと、幼女に桃を渡して
手についた桃の果汁を払う
仕草をする前にクロが移動して全て舐めとった
「確かに数個取ったくらいでは木はなくならん。
おそらく誰かが木を消し去ったのだろう」
桜を見上げて溜息一つ零す幼女。
「ワシの名はドリュース。100年前に活動していた
降魔の魔法使いよ」
「天久手です。修復作業を生業としてます」
「シンドウ、天久手さんの護衛をしてる雇われ者だ」
「元だ、いや、しがない魔族のケンケーンという事にしておいてくれ」
「ケンさんでいいですか」
天久手はそのまま呼ぶのは抵抗がある(笑いそうになる)為、愛称を提案し、受理された
「ここで何をしている」
和やかな雰囲気に水を差す、1人の異形
牛の形をした巨躯の持ち主は、殺意の眼差しで見据えてきた
「いやぁ、森の番に、「違う、奴は魔王軍の上位ミノタウロスだ、何故ここに」牛ですか、ああ最近焼肉食べてませんね」
天久手がのんびり回想の焼肉に頬を緩ませている中
シンドウとドリュースは緊張した面持ちで身構えていた
「奴らは魔王軍の中でも強い力を持つ。普通なら辺境のここなどでなく、王都の方で勢力を伸ばしておるはずだが」
ケンさんが、小声で情報を天久手に伝えるが、当人はデレッとした顔で聞いてない
「人間は全て排除する。そこにあった人間の棲家も今滅ぼしてきた所だ」
シンドウが、慌てて森の木に登り、村の方角を見る
複数の煙が上がっており、何かが焼ける臭いが風に乗ってくる
「我が眷属共は最強と名高い魔王軍直属の一員。
鋭い角で村人は突き殺されておろう」
大きな声で笑うミノタウロス
「いい匂い。焼肉の匂い」
天久手は漂ってきた匂いに涎が出そうになる
「アンタ何言っ、あれマジで焼肉のいい匂いがする」
「人間が襲われておるのに、何を戯けたことを言っておる!!不謹慎じゃぞ!」
ケンさんが怒るが、ドリュースも戸惑っている
「なあ、お主の眷属、本当に村を破壊できておるのか」
「フ、時間稼ぎか。どうやらその目で確かめなければ判らぬようだな、では見るがいい!魔王様より拝謁したこの天鏡に写る、無残な村の姿をな!!」
「焼肉パーリィ、ウエェーーーーイ!!」
映像に映ったのはシンドウの上司と、丸焼きの牛と、お酒で乾杯する村人だった
大量の牛を仕留めたものの、そのままでは腐敗するため、食べる分以外は薫製にして保存する事になり、
総出で薫製に取り組んだ仕事の後の打ち上げである
「いやぁ、牛が群れをなして襲ってきたときにはもう無理かと思いましたが、貴方様のような強い戦士がいてくれて助かりました」
シンドウの上司、ジンは、酒を一口飲んでニッカリと笑う
「いやいや、たまたま現実逃避に遊びにきたら、美味そうな蛋白質が飛び込んでくるから思わず倒してしまっただけですよ。あ、あとで薫製の牛、分けてくださいよ?美味そうな匂いがしてますなぁ」
はーっはっはっはっは!
「なんだあいつは!!!!!」
「俺の上司です」
「会社の同僚です」
「ほっほっほ、さすがウチを直してくれた恩人の上官。只者ではないな」
「見知らぬ流浪の民に上手に焼かれておるのう、
なんというか、
ドンマイじゃな」
白骨死体に同情された序列3位は、激怒して突っ込んできた。
「この人も焼いたら焼肉のいい匂いがするかな」
「天久手さん、知性がある動物を食べるのは抵抗ありませんか」
「牛にだって知性はあるよ、ストレスかかればお乳を出せなくなるし」
「いや、こやつは不味そうだ、食えば食あたりで寝込むぞ」
「骨でなければ私も焼肉に参加したかった」
ミノタウロスは、持っていた棍棒で大地を叩き割る
天久手たちの足場が崩壊し、シンドウが天久手を横抱きにして飛び上がり、ドリュースはふわりと浮き上がる
ケンさんは、割れた大地に飲み込まれて消えた
「いや、私も一緒に持って上がってくれぬかぁぁぁあああっ!!!」
地割れが閉じ、声が聞こえなくなる
天久手を安全な場所へ下ろすと、シンドウは銃器を取り出してミノタウロスに攻撃する
「そんな石粒効かんわぁ!」
シンドウに銃弾を浴びながらも突進してくる
「ならばこれでも喰らえ」
ドリュースの放つ魔法は光の帯となりミノタウロスの身体に突き刺さる
「ガァッ」
思わず足が止まりかけるミノタウロスだったが、シンドウに棍棒を振りかぶり、回避するシンドウに頭の角が飛び出して足を貫いた
抜けた角は再生し、今度はドリュース目掛けて唸り声を上げる
衝撃で浮遊していたドリュースは落とされ、腰を抜かして動けなくなった
「くっそ、ならこれでどうよ!」
シンドウがマグナムを取り出して眉間目掛けて撃つ
命中し、苦悶するミノタウロスだったが、全身にヒビが入り割れると、そこから更に屈強な肉体のミノタウロスが現れる
「お前らと違い攻撃を受ければ受ける程進化する、それがミノタウロス族よ、俺様に平伏すなら家畜として飼ってやってもいいぞ」
「黙れ、牛野郎。大人しくステーキになりやがっ?!」悪態をつきながら新しい武器を出していたシンドウだったが、突然もんどりうって苦しみ始める
「どうした、坊主!、こ、こ、れは」
「そうだ、この世界で一番の猛毒、ペプシュだ。ほんの数滴で何万人と殺せる毒が俺様の角にはある。
無論、解毒など間に合わんぞ?すぐ腐るからな」
高笑いする牛に、ドリュースは目もくれずシンドウへと近寄る
「が、ぎ、うぁっ、」
すでに体が黒く変色し始めている。もってあと数分、いやもう
「待っておれ、ワシがなんとかしてやる」
「クク、そんな暇はないぞ?」
ドリュースに容赦なく棍棒が打ち据えられる
吹っ飛ぶ幼女
「くそっ、うるさいぞ」
ドリュースは間一髪魔法を張って激突死を免れるも、ミノタウロスの攻撃を避けるので手一杯だ
「ならばワシのこの魔法、受けてみよ」
あたりに霜がおり、幹が凍る
冷気がミノタウロスを包み込んでいく
シンドウも同じく包み込み、彼は氷の彫刻と化した
ミノタウロスには、効いていない
「はっ!」
一旦は全身が凍った牛だったが、すぐに亀裂が起きニタニタ笑いながらドリュースに向けて煙を吐く
「ぐぅ?!」
ドリュースの足が震えて、崩れ落ちる
「ひあ、あ、あひゃ、」
座った場所が湿っていく
「神経を麻痺させる毒だ。高濃度ガスで吸うと、感度が100倍になる」
動けないドリュースに、平手打ちをする牛
服をビリビリに破り、全身を打たれる
「いぁぁああっ!」
涙を零しながら苦しむドリュース
「少しの刺激でも痛みに変わる程だからな、次はどんな鳴き声を上げんのかね」
ミノタウロスは下卑た笑いを浮かべながら、幼女の足を持ち振り回す
逆さ吊りのまま、痛みで叫ぶドリュース
シンドウは腐る前に応急処置で凍らされたが、ミノタウロスがドリュースを振り回しながら近づく
「お前が助けたこいつを、自身で砕く羽目になる気分はどうだ?んん?」
「げ、ゲスヤロう、ぁぁぁあっ!!」
足から頭に持ち替えられ、メキメキと音を立てて軋むドリュースの頭
「お前なぞ、焼肉にでもな、え、」
ドリュースごと巨大な火炎柱に包まれる
「ひゃっはっはっはっ!」
だが、燃え終えて現れたのは、焦げたドリュースと、何ともないミノタウロスだった
「つまらん」
ドリュースはシンドウに向かって投げつけられ、無残に砕けるシンドウと、ピクリとも動かないドリュース
「奴は地中か、なら毒沼にしてジワジワ苦しめてやるか」
ミノタウロスは地面に両角を突き刺す
ブクブクと泡立つ大地が真紫に染まり、周辺の木々がみるみる間に枯れ始める
桜の木のみ全く影響を受けずそびえ立つ
「なんだ、この木は?目障りだ、消えろ」
棍棒で根本をえぐる
桜は大きく揺れ、根本から折れた
「さぁてと、これで残るは村だな」
「あーあー、よくもまあこんなにして」
ミノタウロスは動きを止めた
天久手が真後ろに立っていた
足元にはシンドウとドリュースが怪我一つなく衣服も綺麗な状態で横たわっている
ミノタウロスは距離を取ろうとしたが、まったく動けない
「たしかに牛ってモンスターの部類で強いけど、でもやっぱり牛って焼肉が一番いいと思う」
折れた桜は消滅し、毒沼はどんどん縮小されていく
「せっかく綺麗にしたところを壊されるのを見ると気分が悪いし、さっきからあなたの声がキンキンしてて嫌なの、だから」
シンドウとドリュースが目を開けると、静かな森に桜が咲いている
あれだけ激しい戦闘があったのに、森はどこも損壊していなかった
「どうなったんです?」
シンドウが天久手に聞くと、桜の花びらを集めていた天久手は面倒そうに天を仰ぐ
「かえってもらいました、もうきませんよ」
「ワシ、さんじょーーーーーーーーっ!!!」
ケンさんは、なぜか村の焚き火から顕現した
炎に包まれながら飛び出す髑髏に、村人は悲鳴どころか歓喜の声を上げ盛り上がった
「ジンさん面白い余興するじゃないか!しかも喋るなんて!」
「屈強な牛たちが、あっという間に解体されてったのみたら、こんなん驚かねーさ」
「炎に包まれながらも生還?する髑髏、面白いかも」
「うわぁ」
シンドウが村に着くと、高いびきで眠るジンの姿があった




