異世界修繕奇行
市場を抜け、街の北側にある教会らしき建物まで来た
ここは最初から被害がなく、神聖な空気を漂わせている
「お線香臭いですね、ココ。もっとハーブとかバラの匂いがしそうなのに、お寺の蝋燭とお線香の匂いで服に染みこみそうです。早く立ち去りましょう」
天久手は、心底嫌そうに手で払う仕草をする
昔、お寺の修復の時に、お線香の煙の中で作業した時しばらく匂いが取れず、シマラに嫌われたからだ。
あの時は、燃え盛るお寺の中から逃げ遅れた人をこっそり救出した時だ。
「俺もこういうところは苦手です」
「棺桶持ってるのに?」
尾行はまだ続いている。
「仕方ない、見学出来るか聞いてみましょう」
「神は一つの根源なり。
命あるモノ全て神の言葉にて紡がれる
我ら数多の一粒の麦なり
酒は神からの賜り物
肝臓は大事にせねばならぬ」
厳かな教会の司教が、何かおかしなことを言った
いや、健康は大事だけれども。
「肝臓が何かあるのでしょうか?例えば先天的に病が潜んでいるとか、酒を一定量短期間で飲むと肝臓が壊れてしまうとか」
ミサの最中であり、本来なら入場拒否される所だったが、たんまりもらった報償金の一部を寄付した事であっさり入れた。
あまり大量に渡すのもトラブルの元のため、あらかじめ聞いておいた通貨の一般常識範囲内であるが。
参加者は、みな貴族のようだ。
身なりが高級な服しか見当たらない
天久手たちは最後尾の椅子に静かに座る
尾行は途切れたようで、終わる頃には気配が消えていた
「ここの神様は不思議な姿をしてますね」
地球の教会には、張り付けにされた聖人像が神の代行として崇められている。
キリスト教の他にも様々な神が祀られているが
この世界の教会に建立されている像は、
人体模型であった。
厳かに巨大な模型から肝臓を取り出して、酒と肝臓の関係を説く司教。
模型は地球の学校にあるようなものではなく、美術品のような美しい細工でできた単色のものだ。
神の名前は聞かなかったが、少し世界の事が知れた
思わぬ収穫を得て、教会から出ようとする。
「お待ちくださいませ」
司教が、足早にこちらにやってきた。
老齢の司教だが、まるでアスリートのように早い
「多額の寄付をいただきありがとうございます。
失礼ながら、先の魔物を倒された方たちとお見受け致しました。」
なぜ顔まで知られているのか?
シンドウは司教が渡す紙を見てげんなりした。
そこには、タナトスバードを瞬殺した英雄
天久手とシンドウの事が似顔絵を添えて書かれていた
新聞のような物が街に出回り、ここの人たちには自分たちの顔が割れてしまっている
「いえ、たまたま有効な道具を持ち合わせただけの、今はなす術なく命奪われるか弱き旅行者です」
天久手は、困った顔をして大仰にため息をついた
「そうですか。神の導きにより助かったのでしょう。しかし、困りました。近くの村にデーモンが現れたと報せが来て、
」
「はあ、大変ですね、ちなみにどこの」
さっき立ち寄った村だ。
「せっかく直した家をまた壊されるのは私のプライドが許しません、行って成敗してくれますー」
天久手の突然の棒読み宣言に、司教、シンドウ共に呆気にとられる
「是非、加勢してください。たった今兵たちを編成しでられたばかりです。」
教会が用意してくれた馬に乗り込む。
街を出て、少し歩くと天久手は村をチラ見したら離れると言い出した
「助けに行きませんか、お世話になったし」
シンドウは、知り合いが死体になるのは目覚めが悪く
できれば倒してしまいたいと思ったが。
「まあ、人はいつか死にますから、家を直してあとは地元の警備にお任せしましょう。何か押し付けられても困りますから」
天久手は興味なさそうだ。
村に近づいてきた。
煙は上がっていない
鎮圧されたか、
だが、建物の壊れる音がして土煙が上がった時点で、
天久手の顔が険しくなった。
「退避、退避ぃぃぃぃ!」
デーモンによる攻撃で、兵たちは家屋にめり込んだり、刺さったりしている
1匹は倒したものの、まだ数十匹以上たむろしている
兵たちの数はすでに半分以下になった。
非常勤の魔法師を連れてきたが、真っ先に喰われてしまい、腕一本しか残っていない
「助けて、助けて」
「なんでこんな魔物が田舎に出るんだ」
「こんな事なかったのに」
「もうおしまいだ、死ぬのは嫌だ」
村人たちの怯えた声が、隠れている家屋に木霊していた
「ちょっと、私が直したモノをまた壊さないでくれるか、綺麗に仕上がったばかりなんだ」
デーモンに向かって文句を言う人間。
天久手である。
「グルるるる、ガァううう」
「なんだ、犬じゃないか」
シンドウは肩透かしを食らった。
悪魔の犬が、やたら大きい牙から血を垂らして威嚇している。
だが、土佐犬でもシェパードでもなく、
ポメラニアンである。
真緑と真紫なので、毒があるのだろう。
「あったあった」
天久手は、骨を出した。
頭蓋骨だ。
ポーンと投げる。
からん、コロコロコロ。
ポメラニアンたちは、血の滴る牙を剥き出しにして唸っていたが、骨が井戸の方へ転がると、何かに気づいたように、群れをなして骨へと走っていく
頭蓋骨は意思を持つかのように転がり、井戸の中へと
入っていった
悪魔の犬たちは躊躇わず井戸へと飛び込んで行く
次々と深い井戸へと落ちていく
断末魔は聞こえないため、生きているのだろう
天久手が井戸を覗くと、頭蓋骨を群がってしゃぶりつく痛々しい色の犬たちがいた。
モップにしか見えない。
天久手は、カバンの中から水筒をだした。
おもむろに井戸に注いでいく。
大量の水が井戸へと落ちる
ギャンギャン鳴き声が聞こえてきたが、全く気にしていない。
それどころか、井戸の中の水が増水し、不思議なことに犬たちは溺れず上にせり上がってきている
「噛まれますよ、天久手さん!退治しないと!」
「いや、後天的に悪魔にされてるみたいなんで、水洗いして綺麗にします。一応、由緒正しい聖水なんですよ、飲めますし、お湯にもなります。便利な聖水なんです。水道代もかかりません。」
シンドウが微妙な表情をするうち、どんどんどんどん
井戸の中の水が上へ、唸り声を上げる魔物も上へ来た
頭蓋骨は、真ん中でプカプカ浮いており、口が動いているのは水流のせいだろう。
最終的に、井戸の滑車を破壊し、湧き出る間欠泉のように吹き上がった。
仕組みはわからない
周りを水浸しにしながら、水と共に降ってくる犬たち。
華麗に着地すると、こちらへ駆け寄ってきた
シンドウは、すぐ武器を構え、射殺やむなしと狙いを定める
「お座りーーーッ」
天久手の一声で犬たちが止まる。
お座りは出来ていないが、だるまさんが転んだ状態のように、各々へんな格好でとまっている
「聞こえなかった?座れ。」
1匹ずつ目線を合わせて命令する。
シンドウに聞こえない小声で何か話しており、
たちまち犬たちが耳を垂れ、這いつくばるように伏せた。
クロはいつのまにかシンドウの頭皮、いや頭に乗っており、キュウキュウ鳴いている。
「お前のご主人はすごいな。なんて言ってるか聞こえないが、盗賊たちといい、屈服させる威圧があるんだよな、見た目は可愛いなのにさ。な?」
「可愛いありがとうございます」
シンドウのすぐそばに天久手が来ていた
気まずい。
「さて、村の家屋を直しましょう!」
「そうっすね!」
天久手が眉間にシワを寄せるほど、家屋はめちゃめちゃだった。
外装はセーフでも中の調度品や生活用品が壊れていたり、気合を入れて直した屋根が吹っ飛んでいたり。
犬たちがどうやったかはわからないが、迷惑極まる
「材料揃えていたら日が暮れる、仕方ない」
天久手は、突如村の一角に体育館サイズの家屋を建てた
シンドウが、クロに顔を覆われていたほんの数分である。
「どうやって、え?わかったよ」
シンドウはすぐさま村人たちを新設した家屋へ誘導した。
そして、山で採った桃を振る舞って、みなを慰めている
窓がないため、みな外は見れない
その隙に、天久手はスマホを出して、一気に村の建築物を直した。
まるで時が戻るかのように、壊れたところが塞がっていく
「はい、終わりましたっと。」
体育館のドアを開けると、桃を食べた村人たちが昏睡状態に陥り、シンドウが頭を抱えていた
「良く効いたようですね、導入剤。あと30分で起きます。気分爽快で良かったですねと」
シンドウさん。いきましょう、と促す天久手
「いや待ってくれ、こんな事しなくてもここで待ってれば外は見れないからよかっただろう?!」
「ダメですよ。何かあったときにそういえばあの時的回想されて、たまたま悪者が、聞いてたなんてベタは経験済みです。殺さず生かしただけで充分でしょう」
容赦がない。
「アンタは人のために復元しているんだろ?もっと優しくした方が」
「優しくして、結果裏切られ仕事が増えた事があるので、割り切って仕事してます」
なんとも言えない空気。
「はぁいっ!この間に室内のタンスなどもきれいにしますねっ」
そう言うと、一軒ずつ侵入し、ピカピカにして出てくる
この間デーモンだった犬たちは、伏せたままだ
興味を引いた頭蓋骨が、井戸の中に沈んでいる
村人たちが起きた時、家屋はまるでリフォームされたように新築だった
中のベッドはきれいに新調され、シーツも新しい
台所の窯はきれいに組み直され、料理道具はピカピカだ。
衣服はそのままだったが、老朽化してきた家も含め村が全て生まれ変わり、村人たちは驚くばかりだった
「いやあ、どうやら神様が来たみたいですね、よかったですね、本当に。デーモンは倒したので、貰っていきますね、ほら来い、イヌども」
天久手のキツイ物言いに、犬がビクビクしている
全匹首輪とリードをつけられて、ドナドナの牛のように目が死んでいる。
「これまた報奨金か、あそこへ戻りたくないなぁ」
村人に任せるか
「おい待て!」
呼び止められる方向を、振り向く
兵士だ。
討伐隊の兵たちが直す際についでに治療されていた
意識のあった者も全員気絶させてから作業していたのだが。
「なぜ我らを、攻撃した!お前も魔王の手下か!」
「うるさく騒ぐと邪魔で足手まといだから寝ててもらっただけですよ。永眠の方がよろしかったですか」
そう言うと、兵の落とした剣を、ブンブン振る。
「おっと、手が滑った」
怒鳴った兵に一直線に、
頭を越えた上に飛んでいき、
何かに刺さる
隠れて様子を見ていたローブを着た魔物に当たった
呻き声をあげて倒れる魔物
「飼い主がいると思ってたけど、適当に投げたら当たった、わーいラッキー」
またもや棒読みのセリフを吐くと、天久手は兵を起き上がらせた
「お早く帰って報告した方がいいですよ、街ではあなた達を心配する家族がいるんでしょ?」
天久手は、また何か呟いた。
兵達はどうやって倒したのかなど一切聞かず、頭を下げて犬たちを連れて帰っていった
怪我の治療は最低限してある
「今度こそ、次の街へ行きましょう」
村人たちに別れを告げ、英雄扱いになる前に逃亡する
「いやですもう夕方ですよ、今夜はここに泊まりましょう、野宿だと俺の棺桶で「わかりました、泊めてもらいましょう!」天久手さんもこう言ってますので、
どなたか一晩泊めてください」
恩人に礼をしたいとみな立候補したが、ベッドの数が一番多い村長宅に泊めてもらうこととなった
夜更、シンドウは飲み過ぎて外の空気を吸いに出た
カタカタ、カタカタと何か乾いた音が聞こえて来る
どこかの窓が開いたままなのかもしれない
「はあ、これからどこへ行くのやら」
村長に地図をもらった天久手たちは、ご馳走を食べ終わると、客室で次の目的地を検討した
王都は東にあるらしいが、そんな人の多い場所には行かない
シンドウは、完全にタナトスバードを駆逐する為、巣がある西の海の森に行きたい所だが、天久手は嫌がるだろう。
シンドウは護衛として銃火器や刃物を所持しており、
先のカラスも葬る事ができるが、規格外のカラスには驚かされ、咄嗟に逃げる選択をしてしまった
なんとか興味を持たせて、西に行きたいが。
回想している中、ずっとカタカタ音がする
村長の家かよと上を見上げるが窓は閉まっており、
あたりの家もみな戸締りされている
「あのう、すみません、お尋ねしてもよろしいでしょうか」
どこから声がするのか
下だ、と気づき視線を向けなければよかった
「私の体、知りませんか?」
頭蓋骨が、喋っている
さっきの骨だ。
冷静さを保つため、タバコに火をつけた
火は着いたが、煙は出ず、どんどん燃える
細い芦で作られたストローだった
ポケットに何入れたんだとツッコミを入れる間に、口先まで燃えてきたため慌てて捨てる
「あっ」
「あっ」
頭蓋骨に、火が落ちた。
「悪い!大丈夫か?!」
すぐに土をかけ消火する。
頭蓋骨に損傷はない。ただの土まみれだ。
「風呂か、なければお湯を貰って綺麗にするから、
待ってろよ」
頭蓋骨がはにかんでありがとう、と呟くのをシンドウは聞き流した。
「あ、骨だ」
「き、貴様!よくも私を犬の餌にしてくれたな!」
綺麗さっぱりした頭蓋骨とシンドウが部屋に帰ると、
天久手が忘れ物を見つけた顔で頭蓋骨を指差し、
頭蓋骨が指さすんじゃない!とカタカタ震えながら怒った。
「天久手さん、この方どなたですか」
地球の者だったら殺人事件の被害者としか
「あ、あー。桃の木のすぐ近くに埋まってて、体が見当たらなかったので、旅のついでに探して埋葬しようと思ってんです。でも、手頃な骨がなくて、とりあえず頭蓋骨でもいっかなー?って」
「よくない!噛み付かれて痛かったぞ!もっと死者を敬え!」
さっきから頭蓋骨が浮いている。
まあ、魔法がある世界だから浮遊もありか。
シンドウは、2人の言い合いをスルーして、部屋で眠りについた。
(明日は、いったん桃の木の場所へ行って、胴体が無いか探してみよう。)
ジンさんは、元気だろうか。
トリップ課 室長室
誰もいない
宿直室は灯りがついている
中では男性がおぼつかない様子でキーボードを打っている。
「まだ終わらないの?」
宿直室のドアが開き、女性が顔を覗かせた
「終わるわけないだろ、俺紙派だぜ?万年筆でなら、
原稿用紙100枚もあっという間に仕上げる自信がある!」
「今はデジタルですから。はよ終わらせて下さい」
「つれないなぁ、ミルカちゃん」
「社長秘書の竹田ミルカです。ちゃん付けしないで下さる?」
「昔は一緒にお風呂にはいっ「幼児期の思い出を今でも鮮明に思い出すのは構いませんが、セクハラですからコンセント引っこ抜かせてもら」ごめんごめん、
ジンくんのお願い、やめてください」
今ジンは、やっと3行目が終わったところであるが、
すでに何故かBSのボタンを押しかけている。
「消えますよ」
「物騒な事言わないで、優しくしてよ、お、おーーー?!」
優しくのところで、リズミカルに文字が消えていく
とりあえず、口頭で聴取した結果を社長に報告するべく、ミルカは筆記の準備をした。
朝、頭蓋骨は驚かせないように村で買った籠に入れ、
ワインとパンと豆の塩漬けも購入して入れる。
桃のあったところは覚えているが、骨はどうだったか
天久手は、総出で見送る村人に会釈だけして、馬を駆り走り出した。




