おでかけ
連休は、嫌いだ。
もちろん休みは好きだ。
普通の休みなら。
けど、年末年始とか、お盆とか、ゴールデンウィークとか祝日がくっついた三連休になると、話が変わってくる。
何でかって、貴志が出かけたがるからだ。
「なあ、どっか行こーぜ」
トイレから戻ってきた貴志が、言った。
「やだ」
「何で」
「家でのんびりしたい」
「休みなのに1日も出かけないとかもったいねーじゃん」
「休みなのに家でのんびりしないとかもったいないじゃん」
「家でのんびりはいつでもできるだろ」
「できないよ」
「休みなのに出かけないともったいない」という考えが、あたしには理解できない。
テレビを見てごろごろする、本を読む、ぼーっとする。
家でしかできないことはいっぱいある。
でもいつもつっぱねてると、貴志がすねるから。
持っていたマグカップのコーヒーを一口飲んで、立ったままの貴志に尋ねる。
「……どこ行きたいの」
「買い物でもいいし、ドライブでもいいし。前紅葉見に行った神社、今藤棚がきれいらしいよ。駅前じゃB級グルメ集めたイベントやってる。チラシ見たけど、ハンバーガーうまそうだったんだよなぁ」
「人混みは嫌だな」
「じゃあ藤見に行く? 自然満喫コースで。街中よりは人少ないだろ」
「どれくらいかかったっけ?」
「車で1時間半くらい」
「結構かかるね」
「俺が運転する」
元々任すつもりだったが、それは言わないでおく。
「帰りにあそこで、早めの晩飯食って帰ろう」
「あそこってどこ」
「前に1回だけ行ったじゃん、牛タンの店」
「ああ……」
確かにあれは、なかなかおいしかった。
で、と貴志が言う。
「今日1日出かけたら、明日はのんびりしよう」
「……わかった」
貴志は歩み寄ることを知ってる。
自分の意見を通しつつ、こっちの思いも汲んでくれる。
だからいつも、助けられる。
あたしも少しだけ、優しくなれる。
「……行きたいんなら、行ってもいいよ」
「え?」
「B級グルメ」
「でも、人混み嫌なんだろ?」
「だから、長い時間はいたくないけど。そこでハンバーガーとか、出店2つくらい回って早めのお昼食べて、そっから藤見に行けばいいんじゃない?」
提案すると、貴志がにかっと歯を見せた。
「じゃ、そうしよう」
その顔が、嬉しそうだから。
言ってよかった、と思う。
元々この連休は、泊まりでどこかに行かないかという話も出ていた。
けれどそれを、あたしが退けた。
貴志は基本アウトドアで、あたしはインドアだ。
貴志はかなり未練がありそうだったけど、結局は自分の意見を引き下げた。
「準備するから、待ってて」
「おー」
ソファから腰を上げると、それまであたしが座っていたところに貴志が座った。テレビのチャンネルを変える。
あたしは空になったマグカップを台所に持っていくと、蛇口をひねった。
あの神社は確か駐車場から少し歩くから、動きやすいほうがいいだろうか。
足元がスニーカーで、たまにはスカートでも履く?
日焼け止めは塗ったほうがいいだろうな。
髪は……そのままでもいいか。
「鼻歌」
「え?」
貴志の声に振り返る。
「楽しみ?」
どうやら気付かず鼻歌を歌っていたらしい。
蛇口をひねって水を止めると、カップをシンクに置いた。
「……出るって決めたなら、楽しんだほうがいいでしょ」
「お前のそういうとこ、いいと思うよ」
貴志は言うと、テレビに顔を戻した。
(なんだ……あたし)
結局、楽しんでるじゃない。
まあ大抵、いつもそうだけど。
出るまでは嫌でも、出ると決まったなら、ぐずぐずしてても仕方がない。
楽しまなければ損なのだ。
だから貴志も、あたしが言うほど外出を嫌いじゃないと、思ってしまうんだけど。
それでもまあ、貴志は上機嫌になるし、そんな貴志を見てたら、まあいいかという気持ちにもなるし。
だからたまには、出かけるのも悪くないんだと思う。
タオルで手を拭くと、あたしは着替えるために台所を離れた。




