第4話 職業病①
王族の悩みは、案外「受験生を持つ親」と変わらないのかもしれない。
王と王妃が見せたのは、君臨する支配者の顔ではなく、迷える親としての素顔でした。
異世界の言語崩壊という重大な秘密を知ってしまった荒川は、迷うことなく「四者面談」を提案します。
塾講師の面談スキルが、今、異世界の王家を救うカードになる…かもしれない
わずかな沈黙の後、王は意を決したように口を開いた。
「君が、今日わが娘と接触した異世界人か?」
低く響く声だった。威圧感はあるのに、どこか慎重さが混ざっている。
「はい、そうです。荒川と申します」
「娘を説得してくれてありがとう」
その一言で終わる――そう思った瞬間だった。王は突然、机を両手で叩きつけた。乾いた衝撃音が会議室に響き渡る。
「いったい、あの娘をどう説得したのだ!こめいあこあわっぎあまあい――」
途中から、言葉が崩れた。いや、崩れたというより――変わった。
明らかに「知らない言語」だった。音としては聞こえるのに、意味が脳に届かない。
「あなた、落ち着いてください。結界が乱れてしまっています」
王妃が王の腕にそっと手を添える。その一言だけで、王の肩から力が抜けていくのが分かった。
(結界……?)
(リア充め……)
自分の思考のしょうもなさに、内心でため息をつく。
「すまない、取り乱した。いったいどうやってあのじゃじゃ馬を説得したのだ?」
来た。核心だ。誠実さ一本勝負だ。
俺は、出会いから別れまで、すべてを正直に話した。話を聞き終えた王は、ゆっくり頷く。
「なるほど……あの反省は芝居があったのか。つまり、まだあのじゃじゃ馬を信じてはいけないということだな」
王妃も静かに続く。
「ええ……あの子には王家の役割を理解してもらわないと」
言葉はまっとうだ。だが表情は違う。責めている顔ではない。むしろ――苦しそうだ。
「差し出がましいかもしれませんが、一つ伺っても?」
「構わぬ。何だね」
「王家の役割というのは……『言語』に関することですか?」
空気が凍った。王と王妃が同時に目を見開く。
「なぜ、そう思う?」
「本来なら言葉が通じないはずなのに、到着直後から会話ができていた。ですが先ほど激高された瞬間、言葉が聞いたこともない言語に戻った。つまり王家は、この世界の言語を統一する役割を担っている。姫が戻らなければ、この世界のコミュニケーションは崩壊する」
王が深く息を吐く。
「……その通りだ。王である前に、私は父だ。あの子の望みを止めねばならぬことが苦しい」
王妃も小さく頷く。その表情は、王でも王妃でもない。完全に“保護者”だった。
――やめてくれ。こういう顔は弱い。
「王様。私と姫と王様と王妃様で、四者面談を実施してみませんか?」
「四者面談?」
「私は家族の相談に関わる仕事をしていました。第三者が仲立ちすることで、落としどころが見つかるかもしれません」
口に出した瞬間、後悔が胸を刺す。まただ。困っている保護者を見ると、手を差し伸べてしまう。
「それで……何か解決するのかね?」
王の問いは、縋るような声だった。
「分かりません。ですが、姫に提案できる案が一つあります」
静まり返る会議室。視線が一斉に集まる。
そして俺は――職業病全開で、提案を始めた。
第7話をお読みいただきありがとうございました。
「異世界人」としての荒川が、ついに世界の根幹に関わる秘密(言語統一の役割)に触れました。
「職業病で、困っている保護者を見ると手を差し伸べてしまう」という荒川の性格が、この後彼自身をどんな立場に追い込んでいくのか……。
次回、いよいよ四者面談の開催です。荒川がどんな「落としどころ」を提案するのか、ぜひ期待して見守ってください!




