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第3話 なぜ俺が?②

「敵だと思った相手には、取り繕うことすらしない」

そんな荒川の悪癖が、異世界の王城で炸裂します。

待っていたのは威圧的な会議室。現れた王と王妃に対し、荒川が持ち込んだのは「生徒面談」のノウハウでした。

異世界の王族VS塾の教室長。

果たして、保護者面談の結末は……。

 馬車の扉が閉まった瞬間、外界のざわめきが嘘のように遠ざかった。

 柔らかい衝撃とともに車輪が動き出す。サスペンションでも入っているのかと思うほど揺れが少ない。革張りの座席は沈み込みすぎず、背もたれは絶妙な角度で背中を支えてくる。妙に快適だ。無駄に上等な送迎車に乗せられたときの、あの居心地の悪さに似ている。


 向かいには、名前も名乗らない初老の男女。

 無言。重い。空気が重い。


 せめて何か話さないと。

「あの、いったい私に何か問題でありましたか?」

「いえ、特に……」

 男性は短くそれだけ言った。そこで会話は終了した。扉のように、ぴたりと閉じた。

 ダメだ。これは反対側の女性に望みをかけるしかない。

「すみません、お城に向かって何があるんですか?」

 女性は微笑んだ。穏やかで、人当たりのいい声だった。

「そんなびっくりしなくていいですわよ。お話を聞きたいだけですから」


 普通の人なら、安心するのだろう。だが、俺は――

 (こいつは……爺さんより面倒なタイプだな)

 質問に答えない。角を立てない言葉だけを返してくる。こちらが次に何を言っても踏み込めない返答。会社の総務にいた“あの人”と同じだ。

 (こいつとは絶対仲良くなれない)


 そう思った瞬間、口を閉じた。もう何も言わない。憮然と窓の外を見る。

 窓の外では、見慣れない街並みが流れていた。石畳。高い尖塔。空を横切る羽のある影。だがそれらを観察する余裕も、今はなかった。


 やがて馬車は速度を落とし、緩やかに停止した。

 扉が開く。外の空気が流れ込む。


 石の匂い。冷たい空気。広い空間特有の反響。

 城の中は、不思議な造りだった。白い石壁と高い天井、長い廊下は西洋の城そのものなのに、床の一部に木材が使われ、障子のような半透明の仕切りが見える。西洋八割、和風二割。和室が一部屋あるマンションのような違和感。


「気になるところでもあるのかしら?」

 前を歩く女性が振り返った。もうこの人は無理だ、と決めている。

「あ、別に。見られたくないなら目隠しでも持ってきてつけろと言ったらいいでしょう」

 自分でも分かる。悪い癖だ。敵だと思った瞬間、取り繕うことすらしなくなる。会社で敬遠されていた理由が頭の中に浮かび、苦笑した。


 案内されたのは玉座の間ではなかった。

 会議室。そう呼ぶのが一番しっくりくる部屋だった。長い楕円形の机。整然と並ぶ椅子。壁には装飾があるが、豪華というよりは落ち着いた威圧感。

 男が扉の前に立つ。

「王と王妃がお越しになりました」


 扉が開く。

 ここで印象が悪くなったら何が起きるか分からない。営業スマイル。姿勢を正す。丁寧に礼をする。促されるまま席に座る。


 ここからは保護者面談だ。

 あの姫を、この二人がどう思っているのか。それを聞き出し、最善の道を提示できれば――たぶん、俺はこの世界でも食いっぱぐれない。

第6話をお読みいただきありがとうございます。

「洋風の城に障子がある」という少しチグハグな異世界の描写と、相変わらず「仕事モード」で挑もうとする荒川の対比を描きました。

王と王妃が一体どんな人物なのか、そして荒川の「面談」は通じるのか。

次話では、いよいよ王族との対話が始まります。

少しずつ世界観が見えてきた本作、続きも楽しんでいただければ幸いです。応援よろしくお願いします!

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