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第2話 この世界で最も危険な出会い②

「王族を、生徒扱いして説得する」

荒川の職業病ともいえる面談スキルが、まさか異世界の姫相手に発動するとは。

最強の力や魔法ではなく、塾講師として培った「生徒の利害を見抜き、提案する力」が、荒川の異世界生存戦略の武器になります。

さて、姫を丸め込んだ荒川の運命は。

 少女は、こちらを値踏みするように周囲をうろうろしている。

 距離が近い。妙に近い。


 職場でこんな距離で生徒がウロチョロしていたら、反射的にいつもの軽口が出ているところだ。

「おっさんを犯罪者にしたいのか? 半径2メートルは離れろ」

 笑いは取れる。鉄板ネタだ。だが、ここでそれを言っていいのか。そもそも通じるのか。初対面の少女相手に放っていい台詞なのか。頭の中だけが忙しく回っていた。


 遠くから、サイレンのような音が聞こえてくる。


「あなた!」


 突然声をかけられ、思わず背筋が伸びた。

「はい??」

 自分でも情けないほど間抜けな返事だと思う。だが、思考がやっと追いつき始めているのも事実だった。ここは異世界。目の前にいる少女は――おそらく、普通ではない。


「この際、あなたでもいいわ! もうエーテル・レイルは行っちゃったみたいだし、今回も異世界に行けそうにないから、あなたの世界の話を聞かせて!」


「エーテル・レイル? ……それって、あの列車のことか」


「すごい! わかるの!」


「話の流れ的に、列車しかないでしょ……」


 口に出した瞬間、自分でも少し驚いた。状況に慣れ始めている。思考が追いついてきている。つまり、この少女は異世界に強い興味を持っている。そういうことだろう。


 となれば――そういう前提で「初回面談」をしていると思えば――話をうまく持っていけるはずだ。

 そう、これは初体験じゃない。今まで何度とこなしてきた「生徒面談」だと思え! と自分を鼓舞する。


「ふーん……あなた賢そうね。だったら、いろいろ異世界のこと教えてくれる?」


「いいですよ。ちゃんとお城に戻ってからですけどね、お姫様」


「なんで! そこまでわかるのよ!」


 やはり、姫だった。そしてこの驚き方は、生徒たちと変わらない。だったら、後は彼女の利になる提案をすることで、この事態を収束させることも可能なはずだ。あとは提案だ!


「あなたが気絶させた役人の通信が聞こえていたのと、今近づいているサイレンを考えれば、自然な結論です」


 少女は一瞬黙り込む。その隙に言葉を続けた。


「理由は知りませんが、大騒動を起こしてまで動くより、正規の手続きで異世界に行くなり、異世界の人間の話を聞く方が、誰にも邪魔されずに済みますよ。王族ともなれば不自由な面も多いかもしれないですけど、その分、『使えるもの』はあるのですから、上手に使わないと損ですよ」


 少女は目を丸くしたまま固まっていた。


「確かに……そうね。私は自分の目で見ないと気が済まないけど、異世界は無数にあるものね。まずは興味のある世界を知るところからでも……いいかもしれないわね」


「では、追いかけてきた役人の指示に従ってください。堂々とするより、反省したふりをした方がいい。真摯に反省している王族に、臣下は強く出られないはずです」


「そう……かしら?」


「今までにないくらい反省した雰囲気で戻って、涙ながらに“お話だけでも聞ける環境が欲しい”と訴えればいい。脱走劇がなくなるなら、という理由で話は通る可能性が出てくるはずです。実力行使は、それが通じなくなってからで」


 少女はしばらく考え、そして頷いた。

「分かった。やってみる。」


 安堵が胸の奥に広がる。


「あなた、名前は?」


「荒川亮二です」


「覚えておくわ!王族らしくしろではなく、王族の立場を利用しろっていってくれたの、あなたが初めてだから!」


そう言い残し、少女はサイレンの鳴る方へ駆けていった。


 そういうものか?

 人間だれしも自分の利益があるから、努力するし、話を受け入れるんだ……列車に乗れなかった彼女にとって、見ることはできなくても「話を聞くことができる提案」をしただけなのに……。


 ま、いいか……王族なんて立場と話すのはもうないだろ……最後の「覚えておくわ」も、社交辞令の一つのはずだ。


 残されたのは、倒れている役人と静まり返ったホームだけだった。

 しばらくしてから役人を起こし、言われるままに「界所」という場所で手続きを受けることになった。

 

 これが俺の運命の方向をほぼ「決めつけてくる」事態になることも知らずに

第4話をお読みいただきありがとうございました。

「利害の一致」を提示して相手を動かす。荒川の塾講師としての手腕が、異世界の王族という特権階級に対しても有効だったようです。

「覚えておくわ」という少女の言葉を社交辞令と切り捨てた荒川ですが、異世界においてこのコネクションがどう響いてくるのか……。

手続きを終え、ここから本格的に「荒川の異世界での身分と役割」が決まります。

次回、界所での展開にご期待ください。ブックマークも励みになります!

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