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第16話 交差界初 異種族合同会議!②

 しんと静まり返る会議場。先ほどまで交わされていた各種族のざわめきが嘘のように消え、重たい沈黙だけが天井の高い空間に張り付いていた。


 俺はゆっくりと視線を巡らせ、竜人、ドワーフ、人間──それぞれの顔に浮かぶ緊張や疲労を確かめながら、ババルに問いかけた。


「ババル様、竜人の方々に疲労が見えます。ひょっとして炎を吐きすぎることは、竜人にとっても負担なのでは?」


 視線を向けられたババルは、一瞬だけ目を伏せ、次いで恥ずかしそうに、そして悔しさを滲ませながら口を開いた。


「あ、あぁ、それはある。協力できることが初めてで、竜人みんながかなり無理をしているな…」


 会議場の空気がわずかに揺れる。竜人たちの間に、言葉にできない感情が広がったのが分かった。俺は続けてハリードへ視線を向ける。


「ハリード様。竜人の炎が安定供給されなければ、鍛冶に差し支えます。また、竜人を疲弊させてまで鍛冶に没頭するのは、ドワーフの矜持でもないでしょう」


 ハリードは腕を組んだまま目を閉じ、ゆっくりとうなずいた。


「そうだな…パートナーである竜人に負担を強いては本末転倒だ」


 俺は一度深く息を吸い、全員に聞こえるよう声を通した。


「つまり、現状の鍛冶のペースは明らかに『行き過ぎ』です。だからこそまず、竜人とドワーフの協力体制は無秩序ではなく、『シフト制』を提案します」


「「シフト制?」」


 各種族が同時に首を傾げる。その反応に小さくうなずきながら続けた。


「簡単なことです。竜人の炎が『最上のレベルを維持』できるペースで各ドワーフとバディを組んで、無理のないスケジュールで鍛冶をする組み合わせのローテーションを作るのです。うまくいけば、鍛冶の騒音をかなり低減させつつ、高品質の鍛冶製品の誕生も期待できます」


「「おお!」」


 ドワーフと竜人は顔を見合わせ、納得したように何度も頷いた。人間側は言葉を失い、驚きの表情でその光景を見つめている。たった一つの問いから空気が変わったことに、誰もが戸惑っているようだった。


「では、竜人の具体的な火を吐く感覚と、ドワーフの鍛冶において一つの作品を作るのにかかる時間はどの程度になっていますか?」


 俺の質問に、ババルとハリードが順に答えていく。俺は手元のメモに走り書きを重ねながら計算を始めた。長年、個別指導塾の教室長として膨大な授業シフトを組み続けてきた経験が、自然と手を動かしていた。


「では、そのペースだと、竜人2に対して、ドワーフの鍛冶1の割合が最適解です。これによりシフトを作成していくと、現在の3分の1~半分まで騒音を減らせるはずです」


「おおお・・・」


 人間側からも驚きの声が漏れた。「半分以下になるなら…今までと変わらないのでは?」という肯定的な声が広がりかけた、その瞬間。


「それでも騒音は騒音だ!今までも我慢してきたんだ!だったらこれを機にゼロにするのが礼儀ってものだろ!」


 真っ赤な顔で叫ぶ男が立ち上がる。荒い呼吸と怒気が会議場に広がった。俺は一瞥し、静かに言葉を返す。


「そう思われるのも納得です。ここであなたの住所を聞いて、騒音が実際どの程度か?なんて聞きません」


 わずかな間を置き、続ける。


「では、竜人の炎を使わない一般鍛冶における商品においては、この町の住人、竜人、人間、兎人はドワーフの商品を2割引きで買えるというのはどうでしょう?」


「ハリード様、了承していただけますか?」


「竜人の炎を使った、一級品でないなら、構わない」


 即答だった。周囲のドワーフも深く頷いている。


「ドワーフの鍛冶商品は一般鍛冶としても高性能です。それがこの地域だけの特典として、2割引きで買えるということであれば、この地域に住むメリットになる」


俺は男をまっすぐ見据えた。


「今回、ことの発端になったドワーフは誠意を見せている。いや、見せすぎている。それでもあなたは拒絶しますか?」


 男は口を閉ざした。周囲の視線に気づいたのか、肩を落としながら椅子に座る。


「ふん!」


 短く吐き捨て、沈黙した。


「それでは、異論もないようですね?」


 空気がゆるやかにほどけていく。


 今日の話はいったん私の方で議事録としてまとめます。後日各種族の代表に議事録をお送りします。各代表は議事録の内容をご確認いただき、各々の街で共有をお願いします。


 こうしてこの交差界で初かもしれない、異種族合同会議は終わった。


「先生!すごいな!こりゃだめだって思ったけど、一気にまとめ上げたじゃないか!」


 ゴンザレスは目を輝かせていた。


「先生・・・すごい」


 姫もまた、驚きと尊敬の入り混じった眼差しを向けてくる。


「大したことじゃない、事前にババルとハリードには根回ししておいたからな」


「「へ??さっきは出たとこ勝負って??え?」」


 二人は同時に間の抜けた声を上げた。


「それはうまく行く自信なんて無かったからな。許してくれ」


 俺は不敵に笑って見せた。


「ださいのに、今回はださいって言えない…」


 姫は悔しそうに呟いた。


 帰路に就こうとしたその時、馬車が目の前に止まった。載っていたのはカミュアとヨシュアだ。


「ヨシュアとカミュアじゃない、どうしたの?」


「姫は先に馬車にお乗りください」


 ヨシュアの低く威厳のある声。


「わ、わかったわ」

 姫は静かに馬車へ乗り込んだ。


「さて、荒川さん」


カミュアがにこやかに話しかけてくる。


「解雇の伝達か?これまでの給与を払ってくれるなら、好きにしたらいい」


「あら・・・まだ何も言ってないのに、よろしいですの?」


「別に構わない。拒絶したところで解雇は変わらんだろし、仮に継続できたとしてもあれこれ制約が多くなるのが目に見えている。あんたらのルールに縛られるなら、適当に路頭に迷う方がましだ」


 こうして、俺は姫の先生役を解雇になった。

 転職経験はあるが、解雇は初めてだな…と自嘲的に笑いながら俺は今後の生活について思案し始める。


 しかし、これが物語を収束ではなく、たった1週間後には異種族相談センター最初の顧客を迎えることになるなんて思ってもいなかった

第一部のお話はいかがでしたか?

今後は火曜日と金曜日の18時20分に第二部を開始します。


解雇と言う状況からたった一週間で異種族相談センター最初の顧客がなんで現れるの?


を想像しながら読んでもらえたら嬉しいです

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