第16話 交差界初 異種族合同会議!①
あれから1週間、鍛冶の音は町中に響いているが、今日に関しては、その音が鳴らない。
いつもなら朝から空気を震わせているはずの金属音が、今日は不自然なほど静まり返っていた。その静けさが、かえって町の緊張を際立たせている。通りを歩く人々の足取りもどこか早く、皆が同じ不安を共有しているのが伝わってくる。
この1週間、俺たちは竜人のババルやドワーフのハリード、人間代表としてゴンザレスにお願いしてこの地区の住人の代表たちが一堂に会する場を設けるために奔走した。
各種族の居住区を何度も行き来し、時に門前払いを受け、時に長時間の説得を重ねた。寝不足と疲労が積み重なっているのが、自分でもわかる。
とはいっても会場はゴンザレスの管轄するテナントだ。それぞれの種族の境界にある以上、これ以上の物件はない。
誰の領域でもあり、誰の領域でもない中立地帯。だからこそ、ここしかなかった。
もっとも苦労したのは兎人の代表と話を付けることだ…
実際、話はついていない。警戒心が強い兎人は一向にこちらからの連絡に答えなかった。訪ねても門は開かず、使者を出しても返事はない。沈黙という壁が、何よりも厚かった。
仕方なく、開催日時と場所と目的を伝える手紙をしたため、代表を務めるとされる兎人の住所に投函したのだ。封をした瞬間の、あの頼りなさは忘れられない。
兎人は来てくれるかな?と一抹の不安を持ちながらも合同会議の時間は迫ってきていた。
「先生、今日の合同会議ってうまくいくの?」
姫は不安そうに指先を握りしめながら尋ねてきた。
「そんなの、知りませんよ」
肩をすくめて答える。
「な…ちょ、、先生!秘策があるって言ってたじゃん!それってこの会議をまとめる秘策じゃないの?」
姫の声は半分悲鳴だ。
「俺は特別な力のある人間じゃないですよ。こういう場を作ればいいんじゃないか?と提案はできても、会議の流れなんて『出たとこ勝負』ですよ」
「そんな・・・」
姫の肩が目に見えて落ちる。
「先生は正直者か・・・詐欺師のどっちかだな」
ゴンザレスは笑いながら近づいてきた。その笑いは半分冗談、半分本気だ。
騒音問題が発生してから再会した際は、かなりの不信感を持たれていたが、この1週間の俺たちの動きにかなりその不信感も和らいでいるように見える。だが完全に消えたわけではない。視線の端々に残る警戒が、それを物語っている。
(プラマイゼロってところかな)
「それは自分でも思いますよ。でも、今日はどんな手段を使っても話を『ある程度の着地点』までもっていかないとって気合はいれています」
「頼りにしてるぜ、その口先で上手にまとめてくれよ」
この間、姫は話についてこれていない自覚があるようだ。自分の成果・努力が別の問題を引き起こしたことにまだ心を痛めているのかもしれない。
「姫、異種族相談センターなんてものをやるなら、今後このようなことは日常茶飯事です。胸を張って望んでください。罪悪感をにじませる代表者なんて、相手を不安にするだけですから」
「わ、わかったわ…」
小さく深呼吸し、姿勢を正した。
こうして開かれた、異種族合同会議、結局兎人は来なかった。空席が一つ、重く存在感を放っている。
人間、竜人、ドワーフがそれぞれの主張を展開する。
ドワーフは自分たちの鍛冶の価値を誇らしげに主張する
竜人は自分たちの炎を迷惑をかけない形で有効利用されている満足感を唱えながらも、どこか疲れた表情でドワーフの主張に一定の理解を示す
人間は騒音で生活が脅かされていることを訴える。
特に、人間の中には異種族の協力でこのような事態になるなら、協力自体取りやめてほしいと訴える者もいた。
それぞれの種族がそれぞれの主張を展開し、話が平行線をたどる…誰もがそう思った時、
「平行線の話は、お互いの憎悪と反感を高めるだけです」
俺はそういって、この無駄な議論を止めた。
各種族は敵意さながらにこちらを見ながら、「人間の裏切り者!」や「あんたまでそんなことを言うのか?」と口々に罵声を浴びせる。会議場の空気が一瞬で凍りつく。
黙っているのは、ババルとハリード・デニムくらいのものだ。。。
「もう一度言います。これは『話し合いの場』であり、『自己正当化』の場ではありません」
「お互いの主張は既に平行線になりかけている以上、ここからは私の質問に各種族の代表に答えていただきたい」
各種族から異論が上がるが、ババルとハリード、ゴンザレスがそれぞれの種族をなだめた。
しんと静まり返る会議場、俺は各種族を見渡しながら、ババルに問いかけた。
ここからが勝負だ…




