第14話 竜人とドワーフの交差点
地獄の木工細工の時間を終えれば、俺はもう自分の不器用さに死にたくなった。
失敗した目玉焼きのごとくいびつなくりぬき部分、細工の部分はそれぞれ太さが違う、挙句の果てははめるべきガラス玉の部分は大きさが合わず、接着剤がはみ出している。
何だこれは…
作った本人が一番わかっているが…
ハリードとデニムはもう、目が点になって言葉を失っている。
デニムは「人には得意不得意が・・・」となんとかフォローしようとしてくれている・・・
その横でエレン姫は遠慮なく大爆笑している。
「あっはっはっは。なにそれ、先生、不器用すぎでしょ!先生のいた世界はみんな不器用なの?」
「あほか!成績が1に近い2っていうのは、『本当は1番ダメな成績を付けたいが、不器用という面を見て、おまけで2にしておいてやる』って意味だ!」
「あはは、そうなんだ!てっきり、1が一番いいかと思ってたけど、ちがうんだ、先生、ごめんごめん。アハハ…だめ、笑いが止まらない…」
「くそっ・・・」
俺は苦虫をつぶした顔をしながら、小学生のころ、不器用すぎて担任が母親を呼び出した日のことを思い出していた。
『不器用だから仕方ないじゃないですか!』
真剣に擁護してくれた母親だが、擁護の仕方が他にないのか?と思ったことは今でも忘れていない。
「姫、笑ってる暇はないですよ、今からなら走っても門限ギリギリです。あとはやっておくので、先にお帰り下さい」
「え・・・でも・・・」
「でも、ではありません。今すぐ行ってください!」
「チェ…わかりましたよーだ。ハリード様、今日は本当にお忙しい時間、ありがとうございました。竜人の方との連携がうまくいくよう、微力を尽くさせていただきます」
そう言って、姫は脱兎のごとく走っていった。
「ほう、急いでいる割には礼儀の正しい姫様だな」
ハリードは感心しつつふと、作業台を見て、つぶやいた。
「先生の個性的なブレスレットがないな…」
「…うそ…」
俺は…あんな黒歴史のものは失敗作としてどこかに封印するか、捨てるかしたいのに…ないだと?
「あのブレスレットなら、姫様が…持っていかれましたよ」
トマスの声に俺は絶望した。
あしたいこう、絶対笑いのネタにされるじゃないか…
そんな絶望を感じながらも、仕事は忘れない。
「ハリード様、改めて本日はありがとうございました。竜人との連携については我々の方から後日竜人の代表、ババルに話を通して、お時間を調整いたします。その時はよろしくお願いします」
「あぁ、先生も気をつけてな。なに、人には得手不得手がある。先生は手先より、口先が芸術品だよ」
ハリード様…それ、慰めになっていない…
俺はそう言いつつ、ドワーフ街を後にした。
後の段取りは驚くほど簡単だった。
ババルも気前よく予定を調整し、幾人かの竜人を連れてハリードの工房に訪れて、実験は行われた。
工房の炉は朝から全開で焚かれていた。炭の爆ぜる音が低く鳴り、赤く揺れる火床が壁に不規則な影を映す。鉄と油の匂いに混じって、どこか乾いた石の粉の匂いが鼻の奥に残った。
竜人たちが炉の前に立つと、空気の質が明らかに変わる。熱は同じはずなのに、肌に触れる温度が一段深く、重くなった気がした。
「火力は段階的に上げる。合図を出すまで吐かないでくれ」
ハリードの声は短く鋭い。
竜人が静かにうなずき、胸の奥で空気を圧縮する低い音が響いた。
「今だ」
次の瞬間、炎が吐き出された。
爆ぜるような轟音とともに、白に近い橙色の炎が炉へと流れ込む。
空気が一瞬で膨張し、頬に押し返すような熱がぶつかった。目の奥が乾き、まばたきが遅れる。炉の中の鉄は、まるで呼吸を始めたかのように赤から橙、そして眩しい黄色へと変化していく。
「……早い」
ハリードが低くつぶやいた。
普段なら時間をかけて温度を上げるはずの鉄が、見る間に柔らかく輝き始めている。
ハンマーが振り下ろされる。
甲高い金属音が工房いっぱいに弾け、床から振動が足裏に伝わった。火花が弧を描き、夜の星のように散る。
竜人の炎は途切れず、だが暴れもしない。まるで呼吸のように安定して炉へ供給されていた。
「温度、安定してやがる…」
別のドワーフが驚いたように言う。
炎の色は揺れているのに、鉄の色はほとんど変わらない。均一な熱が、ゆっくりと全体に染み込んでいく。
槌音が重なり、リズムが生まれる。
その音は、これまで聞いたどの鍛冶の音よりも軽やかで、それでいて力強かった。
やがて、ハリードが槌を止めた。
息を吐き、赤く焼けた鉄を掲げる。
「……いける」
その一言が落ちた瞬間、工房の空気が弾けた。
実験自体は驚くほど順調で、竜人の炎はドワーフの鍛冶に最適だと証明された。
ドワーフ街は歓喜に揺れた。今まであきらめていた自らの技術をもう一度披露できる。そんな熱気に包まれていた。
異種族相談センターは、竜人の炎の問題をドワーフの鍛冶問題と結びつけ、両種族の連携を構築することに成功した立役者。
そのはずだった…しかし、それは「次の問題」を濃くすることをこの時誰も知らないままだった




