第13話 見えていたもの➀
筒の中にあるものを同封し、その中に紹介状を入れしっかり封蝋したあと、封筒に一筆添えた。
「鍛冶の未来にかかわる提案につき、拝読願いたし」
固まりきる前の封蝋は、夕方の冷たい空気の中でゆっくりと艶を失っていく。赤い蝋の表面には王家の認印がくっきりと刻まれていた。重みのある封筒を持った瞬間、わずかな緊張が胸に生まれる。軽い紙切れではない。これは、次の扉を叩くための鍵だ。
そう書かれた筒を専用のポストに丁寧に入れた。金属製の投函口は思ったよりも重く、閉まるときに低い音が響いた。
「どうやら、急ぎにかかわる紹介状は出されていないようだな」
「先生、なんでわかるの?」
「なんでわかるんだ?荒川っち?」
…マジで、生徒が2名になった。。。おかしい、ドワーフ街では俺とデニムが中心に動くことになると思っていたが思ったよりデニムが愛すべきおバカな気がしてきた。。。
いや、ドワーフというのが本来はこういったある裏表のない種族なのかもしれない。そんなことを思いながら俺は答えた。
「伝統を大事にする人間にあってほしいとの紹介状を書くなら、せめて『紹介状に折り目がつかない封筒』で入れるはずだ。だが、みたところ、そういった大きな封筒もなさそうだしな」
「「へー、なるほどー」」
二人は感心したようにうなずく。
その素直さが少しだけ眩しく、そしてほんの少しだけ疲れる。
さ、後は連絡が来ることを祈るだけだ。
翌日には連絡が来て、2日後には面談が行われることになった。
「先生凄い!言ったとおりになった!」
「荒川っち、すげーな!こんな言ったとおりになるなんて思わなかったぞ!」
頭が痛くなってきた。
「そうでもないさ、木工を始めたデニムが鍛冶に関する可能性に言及したうえで、紹介状を出したんだ。ハリード側からしても、無下にはできなかったのさ」
そんな話をしながら俺たち3人はハリードの鍛冶場に到着した。
建物の前に立った瞬間、空気の温度が変わる。
煙と鉄と油の匂いが混ざった、熱のある空気が肌にまとわりつく。遠くから聞こえていた金属音は、ここでは胸の奥に直接響く振動に変わっていた。
この鍛冶場から届く音は周りの鍛冶屋の音と少し違う。
どちらかというと、与えられた環境の中で最善尽くす全力を尽くそうとする心意気が伝わってくる音だ。
なるほど…ハリードは、ハリードだけは鍛冶に対する誇りを失っていない。
でも、同時に…自分の力だけでは届かない現実に苦しんでいるわけか。。。。
響くハンマー音をしばらく俺たち3人は黙って聞きながら待った。
火花が散るたび、姫が小さく目を瞬かせる。デニムは落ち着かない様子で足を揺らしている。
やがて、規則的だった音がゆっくりと途切れた。
ハンマー音が落ち着いてから俺は穏やかに声をかけた。
「お世話になります。本日お話をさせていただく荒川と申します。ハリード様でお間違いないでしょうか?」
鍛冶のゴーグルを外してこちらに近づいてきた男は、無愛想な目をこちらに向けながら言った。
「そうだ。俺がハリードだ。ところであんた…少し前からいただろ?なんで声をかけなかった?」
すでに面談は始まっている。
ハリードの目はこちらを選別する目になっている。ゴンザレスよりなお厳しい目かもしれない。
俺は息を整えてから、ゆっくり話し始めた。
「いえ、ドワーフは鍛冶にこだわりがあるとお聞きしていました。まだ鍛冶の途中だったので、落ち着くまでは待つべきだと判断しました」
「ふん、なるほど…最低限の情報はちゃんと仕入れてからきてるみたいだな。そっちの軟弱者の入れ知恵か?」
「な、ハリードさん、軟弱ものって・・・」
「鍛冶から逃げたやつが、黙ってな。今はこの荒川ってやつと話してるんだ」
「ぐ・・・・」
「ちょっと、今のはさすがに・・・」
デニムは圧にのまれ、姫は食って掛かろうとしている。
どちらの反応も今出すべきものじゃない。
「二人とも、静かに」
俺は片手を上げて二人を制止しつつ言葉を続けた。
「あまり、腹の探り合いはよろしくないでしょう?本題についてお伺いしたいのですが?」
「そうだな…あんたは話が早くて正確そうだ。2階の事務所で待ってってくれ。すぐに行く」
2階の事務所はどちらかというと展示室のような作りをしていた。
だが、展示されている剣も盾も少ない。壁の空白がやけに目立つ。
「本来はもっと多くの剣や盾、武具や鍛冶商品が並ぶものさ。俺たちドワーフは満足できる逸品ができればそれを若者の参考にってことでこうやって代表宅に飾るんだ…」
「なるほど…そういう伝統もあるのか」
(おかしい、ハリードは伝統をだれよりも重んじると言っていた。だが…あそこにあるのは…)
「すごいわー」
俺の疑問をよそに、姫は興味津々で事務所の中を歩いていた。
「姫、万が一にでもその作品に傷でもつけたら、全てご破算ですから、勝手に触らないでくださいね。」
「わかってるわよ!」
そんなやり取りをしていると、ハリードが付き人と一緒に入ってきた。
「こいつは俺の息子で、弟子のトマスって言うんだ。同席させるぞ」
「承知しました」
(なるほど。そういうことか。)
トマスの右手と左耳を見て、俺はさきほど視界に移ったものの理由を理解した。
「で、早速だが竜人の炎が定期的に手に入るってどういうことだ?」
俺は説明した。竜人との間に起きた出来事を。そして彼らはその有り余る力を発散させるために炎を吐く必要があるという事実を。
「なるほどな・・・、で、紹介状に同封していたあの焼けた石が『竜人の炎』で焼けた石ってことでいいのか?」
「ええ、そうです。竜人の宴会で見せてもらった炎を浴びた石です」
「先生!そんなのいつ拾っていたの??」
「ん?あ、あぁ、珍しいもの見せてもらったから、記念にな」
(言えない…感動して拾ったなんて言えない)
「竜人の炎はあなた方ドワーフの求める『鍛冶の炎』になりそうですか?」
「多分大丈夫だろう。やってみないと分からないが、火力を調整して炎を吐いてくれるなら理想の火になるはずだ」
「ほんと!先生やったじゃん!これで本当に解決ね!」
「解決?どういう意味だ?」
ハリードが一瞬目を細めた。
「姫、座ってください。申し訳ありません、ハリード様。我々は…」
そう言って俺は異種族相談センターの取り組みについて説明した。
「なるほどな…新しい取り組みだから炎の真実を知ることができたってわけか…」
「お恥ずかしながらそのとおりです。可能性は往々にして『外』にあることが多いですから。」
デニムと姫の顔色が変わる。
今の言葉は、伝統を重んじるだけではたどり着けないと言い切ってるに等しい。
「ハリード様。俺はここにきてあなたに会うまで、あなたを『鍛冶の発展を願う伝統職人』と決めつけていた」
沈黙。
「ですが、この事務所を見て、そして息子のトマスさんを見て、はっきりした…あなたはデニムの木工細工を新しい可能性として『認めている』んですね…」
「「ええええ!!!!!!」」
「どうしてそう思う?」
ハリードが息をのむ。
なぜなら――




