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第12話 理想と段取り➁

「荒川っちよう?俺っち、紹介状って書くの初めてなんだ」

「先生…私、作文とか字を書くのが本当に嫌いなの…体で覚えるタイプっていうか…」


机の上に置いた紙とペンを前に、二人はまるで処刑台を見ているような顔をしていた。


さっきまでの空気はどこへ行ったのか、と突っ込みたくなる気持ちを飲み込み、俺はできるだけ明るく言う。


「大丈夫!作文なら俺が『指導』してやる。自慢じゃないが、中堅大学までなら『いくらでも指導経験ある』からな!」


「「だいがく?何それ?」」


ぴたりと声が揃う。俺は小さくため息をついた。


「その話は今度だ。まずはデニム、ドワーフの代表の性格的な特徴と、種族の価値観、紹介状を出す用の書式があれば教えてくれ」


デニムは腕を組み、少し天井を見上げてから答えた。


「あぁ、書式は別にない、自由に書いてくれたらいい。だが、俺っちたちドワーフは伝統を重んじるから、熱い想いの伝わる紹介状が優先されやすい。特に代表のハリードは伝統を守る!という点においてはこの町のドワーフのだれよりも熱心だから、その傾向は群を抜いて強いんだ」


「お父様以上の頑固おやじそうね・・・」


姫のつぶやきを聞きながら、俺は頭の中で文章の骨子を組み立てていく。


「だったら、一発で通る紹介状は作れる。ただし、デニム、お前さんに『プライドをまげてもらう』必要がある」


「へ?俺っちがプライドを曲げる?どういうこった?」


俺は紙を引き寄せ、ペン先で空白を軽く叩いた。


「つまりだ・・・」


鍛冶から木工細工に手を付けたが、鍛冶の日々を忘れられない後悔。

偶然出会った人間から、竜人と仲が良いという情報。

竜人たちが定期的に炎を吐く必要があること。

その炎が鍛冶に活かせるかもしれない可能性。

木工を選んだ自分でも、鍛冶を守る先達を尊敬していること。

だから話だけでも聞いてほしい——。


流れを説明し終えると、二人は口を開けたまま固まっていた。


静かな沈黙のあと、俺はデニムに向き直る。


「ハリード、お前が木工細工に真剣に取り組んでいるのは分かっている。そんなおまえに、まるで鍛冶の方が価値があると見える文章を書かせることになって申し訳ない」


そう言って頭を下げる。


「ただ、俺はこの異種族相談センターと、ドワーフ街、竜人街がすべて利益を得られる形を作りたい。そのためにどうか、この流れの文章になることを許してくれ!」


「あ、あらかわっち・・・」

「デニム・・」


「いや、すごいな、荒川っちは・・・こんな文章の流れを即作って見せるなんて・・・それに、そんな謝らんでくれ。紹介状の流れは嘘じゃねー」


「ありがとう、デニム」


姫がじっとこちらを見る。


「先生って・・・先生より…詐欺師が向いてるかも・・・・」

「それは、元居た世界で言われたことがある・・・」

「やっぱり・・・悪い道に行かないよう、私とデニムで見張ってあげるね!」

「そいつぁ良いな!エレン姫!」


二人は顔を見合わせて笑い出す。店の空気が一気に軽くなった。


俺はパンパンと手を叩いた。


「では、まず下書きから始めるぞ。姫も今後こういった文章を書く機会があるかもしれませんから、横で一緒に練習してください」


「え・・えええ!うそ!」

「嘘じゃありません」


言葉を遮るように、ゆっくり区切って言う。


「書・く・ん・で・す」

「は・・・はい・・・」


そこからの時間は、静かな戦場だった。


紙が増えていく。

ペン先の音が続く。

姫は何度も肩を回し、デニムは額を机に近づけながら必死に文字を追う。


後数時間で門限になるなと焦りだしたころ、ようやく清書が終わった。


二人は椅子にもたれ、ぐったりと息を吐く。

指先が震えているのが見えた。


だが俺だけは、久々の作文指導という「塾らしい仕事」に妙な高揚感が残っていた。


「で、デニムこれをどこに出せば、いつ頃面会の通知が届くんだ?」


「代表のハリードの家に投函しておけば良い。ちょうど明日には帰ってくるだろうから、直接渡すってのもありだぞ。」


「直接渡す…」


姫の身体がわずかに前に出る。だがすぐに足を止め、理性で押し戻すように問いかけた。


「直接渡すドワーフってどれくらいいるの?」

「あんまりいないな…よほど緊急の時だ」


「だとしたら、ちゃんと投函がよさそうね…先生」


「よく考えているな。そうだな、投函がいい。だが、ちょっと工夫をして、できるだけハリードって代表の興味を引けるようにしておこう」


「「どうやって?」」


声が重なる。


「われに秘策ありってやつだ」


決め顔で言った直後。


「やっぱり・・・ださい」


胸の奥が静かに崩れた。

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