第11話 ドワーフとの出会い
どことなく活気のない薄暗い街並みを歩いている。
高く積み上がった石造りの建物は、昼間だというのに日差しを遮り、路地には常に夕方のような影が落ちていた。
鍛冶の音は聞こえるが、作業しているドワーフはみな、覇気がない。
ハンマーを振る動作はどこか投げやりで、響き合う金属音だけがやけに大きく、空虚に反響している。
カン。カン。カン。
その音は、力強さではなく、惰性を感じさせた。
はっきり言ってしまうと、仕事に情熱をかけているように見えない。
どうせ期待通りのはできないが、生きるために仕方なくやっている……そんな音だ。
店に入って商品について話を聞いてみても、どうでもよさげに話すその姿は、ある種の諦観を読み取ることができる。
せっかく一人の午後をドワーフ街という異種族の町で過ごしている俺にとっては、あまりに収穫もなければ楽しみもない。
今日は姫もいない。王命で、怪我が治るまではおとなしくせよとの厳命が出たからだ。
姫は不服そうだったが、事前に両親が「門限を破ることになるかもしれないことを了承していた」という親側の譲歩を知れば、さすがに強くは出なかった。
しかし……娘のことをじゃじゃ馬と言ったりするくせに、あの程度の傷で待機命令とは…あの王と王妃……過保護に過ぎるぞ。
よくまあ、あの過保護な環境下であんなじゃじゃ馬に育ったものだ。絶対、あの姫が生まれて初めてしゃべった言葉は「いや!」だと断言できる。
俺はそんなことを思いながら、活気のない街を歩いては店ごとに顔を出し、何か情報が出ないか話を聞こうと試みたが、どのドワーフもそっけない。
こりゃ収穫ゼロのくたびれもうけか?と思った矢先――
「あんちゃん、人間か?めずらしいな、人間がこんなさびれたドワーフ街に何のようだい?」
やけに明るい声が背後から飛んできた。
振り向くと、煤だらけの街の中で、ひとりだけやけに表情の明るいドワーフが立っていた。
「え、ええ、最近異世界から来たもので、ドワーフ街っていうのを歩いてみたくなったんですよ。」
俺はできる限りの営業スマイルと共にそのドワーフに答えた。
「へー、あんたも異世界人なんだ。最近ってことは家探しか家具探し足りしてないかい?よかったら、俺っちの店で何か買っていかないか?」
「本当ですか?ぜひ拝見させてください」
「いいともよ、こっちだ!あんちゃん!」
案内された店は、火事場がなかった。代わりに入り口に入った瞬間、木を削るときに出る特有の良い匂いと、大量のおがくずが視界に入ってきた。床には細かな木片がふわりと積もり、柔らかい木の香りが満ちている。
そして並べられている商品はどれも一級品だ……ドワーフって本当に器用なんだな……。
美術の彫刻刀の作品が不器用すぎて学校から親の呼び出しを食らったことのある俺からしたら、うらやましい限りの才能だ。
「すごいですね……さすがに手持ちのお金で買えるような商品じゃない……すごい……」
「そうか?すごい出来栄えだろ?だが、あんちゃん……金ないのか?」
「えぇ、まだこちらに来たばかりですからね……給与の振り込みまでまだ無理はできません。でもドワーフって、鍛冶職人っていうイメージが強かったですが、本当に器用な方々なんですね……」
俺はあえてうっとりするような声で感嘆のため息を漏らした。
自覚してこういう行動をとれる自分が本当に嫌だ……だが、効果は抜群だった。
「そうさ!俺たちは器用でモノづくりならなんだってできる!」
「本当にそうですね……特にこのテーブルの滑らかさ……木材に一切のひび割れがない……すごいな……」
「あんちゃんは、俺っちの品々を本当にうれしそうに見てくれるな!でもよ、爺どもはダメだ!ドワーフは鍛冶が命だって、木工なんて邪道だって相手にしやがらねー」
「それは、つらいですね……でも、お兄さんはどうして鍛冶ではなく木工細工を始めたんですか?」
「お兄さんなんてよせやい。俺っちはデニムって言うんだ、デニムって呼んでくれよ、あんちゃん」
「ありがとうございます、デニム。では、私のこともぜひ荒川と呼んでください」
「へへ、あんちゃん、本当にいいやつだな!異種族なのに、同種のドワーフより親しみ持てるぜ」
デニムは少し涙ぐんでいる。
俺にはわかる。これは今までグループからはぶられてきて精神をすり減らしてきた人間の反応だ。
「ありがとう、デニム。でもどうして、デニムは木工細工を?」
「ああ、言い忘れていたな……ドワーフの鍛冶には『良い火』が必要なんだが、この交差界の火じゃ温度が足りねーんだ。だから俺らドワーフは、自分が望む鍛冶ができなくて、どこ行ってもみんな諦めムードなのさ」
――街の空気と金属音が、頭の中で一本の線になる。
「でも、デニムあなたは諦めなかった。自分たちの長所を生かせる案として……木工細工を選んだ。ということなんですね」
「あ、あぁ、そうだ……でも伝統を重んじるドワーフには受け入れられなかった。だから異種族のあんちゃんに声をかけたのさ」
俺は小さく笑った。
「なるほど、でもデニム……ついてるよ……あなたは」
「は?何言ってるんだ?荒川っち?」
荒川っちって。
だが、不思議と嫌じゃない。
「デニム、ドワーフの町に活気を取り戻して、同時に君の選択も間違っていなかったことを証明して見せよう!」
今回は、俺とデニムの物語だ――と意気込んだ瞬間。
脳裏にじゃじゃ馬の顔が浮かぶ。
……やっぱり厳しいかも。




