第2話 君
2026年4月3日
朝起きると元に戻って、いるわけないか。
特に異常がないとの事で次の日の4日には退院出来ることになった。
そして今日は母ちゃんと姉ちゃんと彼女が面会に来た。
母ちゃんは記憶を取り戻させるように昔のことを話してくれた。それにリアクションをとる姉ちゃんと彼女、そんな繰り返しだった。
「にしても姉ちゃんと未来は仕事いいのかよ」
「私は大丈夫だよー、有給余りまくってるし」
「ま、姉ちゃんはいいとしても未来は2年目なんだしそんなねえだろ。大丈夫か?」
「うん。大丈夫だけど」
そう言った未来は驚いたようだった。
「だけど?」
「あ、いやほんとにそれは大丈夫なんだけど、中学の頃の進みたいだなーって、今はそんな細かいこと気にしないから」
「それどうなの!もうそんなやつはいま叩いとく!」
姉ちゃんはそう言って俺をぶっ叩いた。
「いってえ!いってえって!」
「もう一応病人なんだからそのくらいにしときな」
「わかったー」
「おい、一応って」
(こっちの母ちゃんもあんま変わんねえな)
そんな家族のやり取りを見ながら未来は笑っていた。
その日の夜は夢を見なかった。あっちの元の世界にいた時は毎日と言っていいほど見てたのに。
2026年4月4日
退院となり、家へと向かった。
この日も母ちゃんと姉ちゃんが来て、退院やらなんやらを手伝ってくれて、彼女は仕事へ行った。同棲しているなら帰ってくれば会えるからだろう。
「荷物そんななくてよかったね」
「数日入院しただけだからな。母ちゃんありがとう」
「え?あーううん、いいよ」
「昼飯まだだしみんなで食べいこうよ」
「いいけど、珍しいじゃん」
「え、そうだっけ?」
(そうなの?)
「そうよー、さっきも素直にお礼言うなんて」
「あー、まあ一応意識失ってたし、言いたいことは言っとかないと」
「まったく、この子は」
「じゃあファミレスにしよ!昔みたいに!少しは記憶戻るかも!」
隣で聞いてた姉ちゃんが微笑みながら提案をした。
「このチェーン店来るの久しぶりだね!」
「昔は3人ともよく食べてたね」
「私はソフトボールやってたし、あにいちゃんと進は野球やってたからね!進は途中からバスケだったけど」
(そこは同じなのか、しかも姉ちゃんソフトボールやってたのか)
「なにするなにする?進はやっぱハンバーグ?」
「んー、ハンバーグにするー」
(好物は同じなのか)
「いつまで経っても子供だね!」
「うっさいわい!」
「あはは、昔みたいなやりとりしてるね」
「ママ嬉しそうー」
「だってねえ、階段から落ちて頭打ったって聞いた時はもう、、」
「もう無事なんだから、美味しいもん食べよ!ね?ママ」
「ありがとう。果胡がいてくれて助かったよ」
(母ちゃんはやっぱり女の子も欲しかったんだろうか。俺にもあにいちゃんにも愛情を注いでくれたが、やっぱ同じ目線の女の子はほしかったのかな)
朗らかな母親の表情を見て、俺はそう思ってしまった。
会計時、600万も稼いでいるので俺が払おうと思ったが、姉ちゃんが強引に会計を済ませて、店を出た。
「いやー食った食ったー」
「姉ちゃんよく食うな。よくそんなんで太らないな」
「姉ちゃんは運動してるからね!」
「そですか」
再び姉ちゃんの運転で家へと送ってくれた。
「じゃあね、進。また」
「おう。また」
「やっぱちょっとだけギューさせてー」
俺はなされるがままとなり抱きつかれた。
「もうよせって」
「んもー、当分また会えないのにー」
(ここの俺はあんま帰省してねえのか)
「休み取れたら帰るから」
「わかったー」
母ちゃんと姉ちゃんは車に入り、出発しようとしていた。
「じゃあ2人ともありがとう」
「えへへ、どういたしまして」
(世の中の姉ってこんなベタベタなんか?)
「また帰ってきなね」
「はいはーい」
そう言って2人を見送った。
と、こっからが本番だよな。同棲。したことねえよー!どうすんだー!な、な、な、なにをどうすれば。と、とりあえず飯!夕飯!長年1人分しか作ってこなかったけどどうにかなるだろ。あーでも好物も嫌いなもんもわかんねー!なんかスマホにねえかな。
そう思って過去のやりとりなどを探して、唐揚げが好きなことが分かった。そして、冷蔵庫を開けて確認した。
鶏肉も調味料も一通りあるし、いけるな。と、1人なら唐揚げとキャベツ千切りとかでいいけど他の人の分も作るとなるとなー、味噌汁となんか前菜的な、、ほうれん草あるやん、おひたしでいっか。それでいこう。
えっと、包丁まな板ボウルはと、、
不思議なことにそれらがどこにあるかわかった。それにこの同棲している家に初めて来る感じはしなかった。おそらくこの体に、記憶に刻まれているのだろうか。
そんな事を考えつつ、夕飯の下ごしらえを始めた。
でもなにか引っかかる。絶対この俺自身がこの光景を見たことがある。なんでだ、、夢?夢か、たぶんそうだ。
じゃあなんで夢で見たことある光景が今ここにある、、?
夢で入れ替わってる。
だとしたら平行世界じゃない?いや、意識か。意識が入れ替わってんのか。
つまり、こっちの俺が寝ている時に見ている夢はこっちの、あーもうあっちこっちうぜえな。元いたのが現実世界、ここが平行世界としよう。現実世界で寝てる時に見ている夢は平行世界の現実で平行世界で寝ている時の夢が現実世界の現実。
と、すればわりと辻褄が通る。
自分しか人間であり、本人であるということが証明できないし、量子力学のなんだっけ、シュレディンガーの猫だ。のように自分が寝ているときには自分が観測できず、そこに存在していることが証明できない。
夢ってのは、意識が平行世界に飛ばされていることを言うんじゃねえのか。
いやでも平行世界ってのはいくつもあるはず、、だめだ頭の中だけじゃまとまんねえ。書くもん。
俺は夕飯の下ごしらえを途中でやめてノートとペンを取り出し考えを書き出した。
平行世界ってのは何通りもあるはず、今ここにいる俺の意識、現実世界の意識はどこにもいってねえ、夢も見てねえし、、と、すると、、考えたくないが、現実世界と平行世界のこの今いる世界しか俺の今井進の平行世界は存在しない。他の平行世界では俺が死んでいる。
そして、今現在、この平行世界で寝ても現実世界に俺が戻っていないってことは、現実世界の俺の体は死んでいる。もしくは瀕死の状態の寝たきり。
現実世界の俺が意識を取り戻さない限り、俺はこの世界から抜け出せない。
それか元に戻るなにかしらのトリガーがあるか。。。
五分五分ってとこか、、現実世界で意識を取り戻せていても、今現在俺が戻ってねえからどちらにしてもトリガーは探すに越したことはない。
探すにしても平行世界での情報があまり無い以上時間がかかっちまう。家族、には話しずらいのと静岡で遠いし、やっぱ数年近くにいる未来がいいよな。でもなー同棲しているのが同じ形をした別人ってのは嫌だろうしなー。
うーん、、いや、やっぱ言った方がいいか。そうしないと平行世界の俺は戻ってこないし、そっちのが嫌だろ。よし、決めた!
数時間後、未来が帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえりー」
「あ、進はおかえりーか」
「たしかに、ただいまー」
「ね、ギューってして」
「あ、いや、、ちょうど唐揚げあがったし、飯にしようぜ」
(本物の彼氏でもないのにそんなことできるかぁ!)
「唐揚げ!?久しぶり!」
(彼女の好物ぐらい作ってやれよ俺)
「そうなんだ。他にほうれん草のおひたしと豆腐とわかめの味噌汁もあるぜい」
「ええ!そんなに!?ありがとう!なんか同棲始めたときみたい!」
「ま、退院祝いってことにしといてよ」
「進のなのにね」
「いいじゃんいいじゃん!さ、手洗って食うぞ!」
「はーい!」
未来は進が記憶喪失と思っているので、なんとか記憶を取り戻させようと明るくがんばっているようだった。
話題があまり見つからなかったので、テレビをつけながら2人で夕飯を食べて、一息ついた。
「ねね、ほんとは記憶戻ってるでしょ?」
「いや戻ってないよ」
「ほんとにー?」
「そのことなんだけど、話がある」
「なになにー?」
俺は真剣な眼差しで未来を見た。
「なに?どうしたの?ほんとに」
「えっと、信じてほしいんだけど、俺、実はこの世界の俺じゃないんだ」
「え?ちょっと冗談やめてよ」
「冗談なんかじゃない。何言ってんだって話だけど、たぶんこの世界は俺がいた世界と違う」
「どういうこと?」
「パラレルワールドって聞いたことある?」
「聞いたことは、ある」
「たぶん俺はそこから来た。だから未来が知ってる俺じゃない」
「なに、言ってるの。だって記憶喪失だって先生が」
「うん、でもほんとに違うんだ。あくまで俺の推測に過ぎないけど、、でも俺が元いた世界には、、姉ちゃんもいないし、バスケもやってない。未来とも、その、会ってはいるけど付き合ってはいない」
「ちょっと待ってよ、じゃああなたは進だけど進じゃないってこと、なの?」
「うん」
「冗談なんかじゃ、ないんだよね」
未来は俺の顔を見て再び聞いた。
「うん。この世界の俺じゃないってのは事実だ」
「ごめん。整理できない」
「だよな」
「じゃ、じゃあもし仮に!仮にね!その話が本当だとしたら私が知ってる私が付き合ってる進はどこに行ったの!?」
「それは、、あくまで俺の推測に過ぎないけど、俺が元いた世界にいる。たぶん」
俺がそう言い放つと未来は立ち上がって涙を流しながら言った。
「たぶんってなに!じゃあ早く変わってよ!私が知ってる進を返してよ!」
「ごめん。その方法はわからない。自然に変わるのか、なにかトリガーがあって変わるのか、分からない」
「そんな、、」
「だから」
「ごめん、ちょっと1人にさせて」
「うん」
未来は自分の部屋に入っていった。
(なに!?なんなの!あいつ!あんな淡々と、そんなの信じられるわけないじゃん!受け入れられるわけないじゃん!違う進ってなに!平行世界って、そんなの、受け入れられるわけないのに、、でもあの目は進が本当の真剣に言っている時の目。昔っから嘘はつけないやつだったし、なんか告白してきた時の顔と同じだった。それに、唐揚げの味も味噌汁も全部味変わんない。私の目が私の全てがあいつを進だと思ってる。。1番引っかかっているのはあいつが昔の進っぽいってこと、おもしろくて優しくて一直線に気持ちを伝えてくれてる。最近はなにかはぐらかしてる感じだったし、優しいけど完璧すぎて近寄り難い、そんなふうになっちゃって、昔より遠い存在な気がする。でもやっぱり私のこといちばんに考えてくれることが好きなんだよね)
この時の私は色々考えて考え抜いて、信じられないことだけど、果胡さんのことを知らなかったり私を知らなかったり辻褄が合っていて、でもそれを受け入れられなくて、でも受け入れなければ進が帰ってこないかもしれない。そんな葛藤して、少し落ち着いて気がついたら3時間経って深夜1時になってた。
喉が乾いてリビングに向かうとあいつが椅子に座っていた。
「寝ないの?」
「未来がこんな状況なのに寝れるわけない」
「あんた他人でしょ!なのになんでそこまで、、」
「うん」
「ごめん、言い過ぎた」
「いや、いいよ。実際そうだし」
(ほんとにもう!)
「聞かせて」
「え?」
「いいから聞かせろって言ってんの!なにか言いたいことあるんでしょ!」
私はあいつに近づいて言ってやった。
「手伝ってほしい。元に戻る方法を」
(ったくやっぱ詳細な方法はわかんねーのかよ、でも)
「いい」
「いいって言ってんの!今日の唐揚げとあんたが進だってことに免じて手伝ってやるって言ってんの!」
「あ、ありがとう」
「きょどんなし」
私がそう言い放つと自称進は立ち上がって言い返してきた。
「あーもう下出に出てりゃうっせーな!俺も知らん世界で動揺してんの!手伝ってほしいけどなんでそんな言い方しかできねーかなー」
「ああ?んだとー!」
「俺はあくまで姉ちゃんと俺自身の平行世界の俺のためにやってんの!未来はあくまで二の次なの!」
「平行世界の俺だとー!お前の方が平行世界だろーが!それになにが姉ちゃんだ!あんたの世界には姉ちゃんいねえんだろ!」
「いねーよ、流産だったからな」
「え、ごめん」
(ああもうばかだ私。余計なこと言っちゃった〜)
「いやいい。とにかく、よろしく」
俺はそう言って手を出した。
「なにこれ」
「握手だろ」
「なにそれー、泥臭」
「うっせえ、俺はこういうの大事にしてんの」
「暑苦し、けどまあ、嫌いじゃねえよ」
未来はそう言って手を握った。
「その口悪いのどうにかした方がいいぞ」
「進の前ではこんなになんねーつの。てか同じ進だとややこしいし、まあ君でいいか」
「はいはいそれでいいよ、未来」
「うわー名前で呼んでるしー」
「あいにくこれからなにかしようって人に君なんて言い方するほど性格悪くないんでね」
「私が性格悪いっていいてえのかー!」
「さあ?」
「うっざ」
「改めてよろしくな、未来」
「よろしく、君」
こうして後藤未来と同棲生活もとい、トリガーを探す生活が始まった。




