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第五十二章

 年末のファミレス『ロイヤルホスト』で、僕――高藤隆治は呆気に取られていた。

 町田街道沿いにある、ちょっと高級感のあるこの店は、バブル崩壊後も価格を下げなかったせいか、客足もまばらだろうと思っていた。ところが、昼前だというのに店内は家族連れでいっぱいだった。年末の影響だろうか。

 そんな中、僕、おふくろ、妻の恵美、息子の哲治の友人である川上直樹と唐沢隆――五人で、奥まった角のテーブルにコの字型に座ってランチを食べていたときのことだ。

 おふくろが、十二年前に家出をした哲治の行方を、ずっと前から把握していたと、ぽつりと告白したのだった。


 「おふくろ、どうして今まで黙ってたんだよ?」


 僕が思わず声を荒らげると、おふくろはハンバーグをおいしそうに口に運びながら、あっけらかんと答えた。


 「そりゃあねえ、哲治に口止めされてたんだもの。仕方がないわよお」


 「仕方がない? 冗談じゃない! 僕らは哲治の親だよ。知る権利くらいあるだろ? 十一年も前に知ってたなんて……。僕らがどれだけ心配してたと思ってるんだ!」


 おふくろはナプキンで口をぬぐい、ナイフとフォークを丁寧に置いて、きょとんと僕を見た。


 「心配してた……かしらねえ? 哲治を探すのは私に任せっきりで、進捗を聞いてきたこともなかったような……?」


 「そんなはずないって! おふくろが忘れてるだけだよ!」


 「それに、探偵を雇うのをやめたときだって、お前たち反対しなかったじゃない。『お金の無駄だから、やめてくれてよかった』って」


 「それは、哲治の行方が全くわからなかったからだろ! あのときは、闇雲に探しても意味がないと思ったから……」


 僕は意地の悪いことを言うおふくろに、つい語気を荒げてしまった。


 「あの探偵だって、金ばかりかさんで成果が出なかったから、やめるしかなかったんだ!」


 「……あのう」


 目の前ににゅっと伸びてきた大きな手が、空気を変えた。メニューを持った唐沢が、声を上げる。


 「プリンアラモード、頼んでもいいですかあ?」


 おふくろはにっこり笑って答える。


 「いいわよお。直樹君も一緒にお食べなさいな」


 「「ありがとうございます!」」


 唐沢と川上直樹が揃って礼を言い、ウエイトレスを呼び寄せた。


 「……で、何の話だったかしらねえ?」


 話をさえぎられたおふくろは、すっかり話の続きを忘れてしまったらしい。僕は小さくため息をつき、改めておふくろから話を聞き出すことにした。



 そんなこんなで三時間。ようやく、おふくろの話を最後まで聞き終えた。

 時間がかかったのは、おふくろの話があちこち脱線して、なかなか核心に触れてくれなかったせいだ。そして唐沢! でかい図体でランチのあともデザートを次々注文し、そのたびに僕たちの会話に割り込んでくる。

 ああ、今も山盛りのポテトフライがやってきた!

 さらに恵美は、隣の川上直樹と子育て談義に夢中で、僕の話をちっとも聞いていない。携帯電話の画面を見せてもらいながら、楽しそうに話し込んでいる。だから僕は、重要な内容を何度も恵美に説明しなおす羽目になった。


 「……ああ、もういい! うちに帰ろう」


 うんざりして立ち上がろうとすると、唐沢が口をもぐもぐさせながら、口の中で「もうちょっと待ってください」と言う。

 僕がおふくろにどいてもらおうとすると、彼女が僕にこそっと耳打ちした。


 「ねえ、恵美さん、だいぶ元気になったみたいよ? 少しリラックスさせてあげた方がいいんじゃないかねえ?」


 家を出る前、目を真っ赤に腫らして泣いていた恵美は、今はすっかり機嫌がよく、川上と楽しそうに話している。どうやら川上の子育てに、先輩ママとして張り切ってアドバイスをしているようだ。


 「まだ三時だし、一緒にデザートでもどうかねえ? 『ロイヤルホスト』なんて近所にないから、私もいろいろ食べてみたいのよお」


 娘の由美が部屋に引きこもっているせいで、わざわざ松本から上京してくれたおふくろにそう言われると、さすがに弱い。僕は肩をすくめて、再び席に腰を下ろした。そしておふくろと並んで、デザートメニューを物色し始めた。



 メニューに載っているデザートというデザートを食べ尽くし、窓の外の光がうっすらオレンジ色に変わる頃。

 店の外で電話をしていた唐沢が戻ってきた。


 「そろそろ夕方になりますね。帰りましょうか?」


 川上直樹が車のキーを取り出し、おふくろに声をかける。おふくろはにこやかに頷いた。


 「そうねえ、すっかり長居しちゃった。楽しかったわあ。皆さん、お付き合いありがとう。恵美さんも、こんな時間まで申し訳なかったわねえ」


 「いえいえ、とんでもない! かわいいお子さんの話が聞けて、私も楽しかったです」


 「哲治のお母さんのアドバイス、とても参考になりました。ありがとうございました!」


 川上直樹が恵美にぺこりと頭を下げる。恵美はうふふっと上機嫌で笑い、親しげに川上の肩を軽く叩いた。


 「こんな話でよければ、いつでも歓迎よ! また困ったら相談にいらっしゃいな」


 「えっ、いいんですか? じゃあ今度は娘も連れてきます!」


 「真梨香ちゃん? まあ、会いたいわあ。一緒に絵を描くのもいいわね。情操教育になるから」


 「なるほど、ぜひお願いします!!」


 ――まったく、若い男にデレデレして……。――


 川上と親しげに笑い合う恵美を見て、僕の胸がじりっと熱くなる。そんな僕の気持ちを察したのか、おふくろがパンと手を叩いて場を締めた。


 「さあ、お腹も心もいっぱいになったし、家に帰りましょう!」

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