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4前-03 嫌がらせ

太陽が沈んでしばらく経った頃。

まだ、大きな月は沈んでは居ないので、午後9時頃だろうか。


狩人特製、鹿肉と根菜のシチュー(原題:テンタクルディアーとマンドラゴラのごった煮)を夕食として摂った後、ワルツは皆を焚き火の近くに呼び寄せた。

そして、地面に何かを書き始める。


《もりのなかから 3人に みはられてる》

《まほうで 盗聴って できるの?》


盗聴の部分だけ妙に大きい字で書いたワルツ。

どこか、新聞の切り抜きだけで作った犯行声明のような字体だ。


するとカタリナが、


「今のところ、魔法が使われている形跡はありません。大丈夫だと思いますよ」


「なーんだ、盗聴されてるかと思って損したわ」


普通に話すことにしたワルツ。


「いえ、いい心がけだと思います」


「でも、何で盗聴されてないって分かったの?」


「私達の耳の件は覚えていますか?」


ピコピコっと、耳が動く。


「あぁ、そういうことね」


獣人は魔法が使われたら分かるのだ。


「もちろん、条件はあります。例えば、人が多い町中で魔法を使われても、ノイズだらけで分かりません。ですが、ここには私達くらいしかいないので・・・・・・」


「因みに、魔法が発動してから()()()()まで少し遅れたりする?」


「えぇ、よく知ってますね。もしかして、聞こえてたりします?」


「いいえ、そう思っただけよ。本当に音と同じようなものなのね」


単純に感心した素振りを見せているワルツ。

だが内心では、面白い発見をしたわ、とある意味悪巧みを考えていた。


「さて、どうしましょ?やっちゃう?」


「私はワルツに賛成だな。捕まえて何者かを吐かせればいい」


と、狩人はやる気のようだ。


「もしも、王国の関係者だった場合はどうしますか?」


テンポは慎重に考えるべきだと主張する。


「このまま殺害すると公務執行妨害になるのでは?」


「うん、その前に殺人罪ね。あと国家反逆罪かな」


「じゃぁ、逃げるの?」


と、口を開いたのはルシアだ。


「いえ、旅の間はできるだけ飛んだり転移したりしたくないし・・・・・・今回は逃げるのは無しね」


縛りルールに固執するようだ。


「では、嫌がらせをするというのはどうでしょう?」


テンポが提案する。


「嫌がらせ?」


「例えば、魔物を定期的に仕向ける、などはいかがですか?」


「なるほど」


もしも、相手が王都の関係者であった場合、相手を直接撃退すると、ワルツ達が何らかの罪に問われる可能性がある。

ならば、魔物に攻撃を肩代わりさせてしまおうという魂胆だ。


「でも嫌がらせねぇ・・・・・・」


「ゴブリン?」


ルシアが怪訝な顔をして自分の嫌いな魔物の名前を上げた。

以前襲われていたことでも思い出したのだろうか。


「それだと、嫌がらせというより、戦闘になってしまうわ。それに、相手の戦意を喪失させるくらいゴブリンを仕向けると、逆にこちらが疑われる可能性もあるし・・・・・・」


しばらく皆で考える。


「やっぱり、蚊かしら・・・・・・」


「いや、G(ゴキブリ)も捨てがたいですね」


「ムカデとかクモも人によっては大ダメージですよ?」


「お前たち、それは魔物じゃないぞ?」


「不快で、気持ち悪ければいいんですよ」


狩人の指摘にどこか遠い目をしてワルツが答えた。




というわけで、嫌がらせ開始だ。

まずは蚊を仕向けることにする。


周りの森や水辺から重力制御を用いて蚊を100匹程度、慎重に収集する。

しばらくして集まった蚊の塊に、鳥肌を立てるルシア。

カタリナは女神のような笑みを浮かべていたが、眼が笑っていない。

哀れみの表情だろうか。

テンポはいつも通りの無表情で、ワルツと狩人は苦笑を浮かべていた。


「じゃぁ、いくわよ?」


そう言うと、暗闇に紛らせて、蚊を追跡者達の周囲にばら撒いていく。


プゥゥゥ〜〜〜ン・・・・・・


すると、追跡者達を取り巻くように飛び始める蚊。


「うわ・・・・・・なんか、痒くなってくるわね」


ガーディアンなので刺されるはずはないのだが、どういうわけか、蚊を見ると痒くなる。


「どうだ?」


と、聞いてくるのは狩人だ。

夜の暗闇で相当な距離が離れていると、流石の猫眼でも見えないようだ。


「・・・・・・どうも反応が芳しくないわね」


既に、何箇所も刺されているはずだが、たまに退ける素振りを見せるだけで、大した反応は示していなかった。


「じゃぁ、次は・・・ムカデをいってみようかしら」


すると、再び重力制御でムカデを収集し始めるワルツ。

するとカタリナが、


「・・・・・・ええと、私達に見せなくていいので、さっさとポイしちゃって下さい」


どうやら、相当、ムカデが嫌いらしいカタリナ。

言葉遣いがおかしくなっていた。


「そう・・・・・・分かったわ」


ムカデ100匹の塊をカタリナに見せてみたかったけど・・・・・・、と思いながらも、彼女の顔が真顔(マジ)だったので諦める。


「それじゃぁ、はい」


追跡者達の頭の上から、ムカデをぶちまけた。


「〜〜〜」


流石に、無視できなかったようで、慌てふためいている様子がここからでも確認できた。


「うん、反応は良好ね」


「そうですか」


と言って、ニヤリとした笑みを浮かべるカタリナ。


(あれ、こんなキャラだったっけ?)


どうやら、知らないカタリナの一面を目撃したようだ。


それはそうと、蚊100匹、ムカデ100匹を浴びたにも関わらず、追跡者達は偵察を諦めようとしなかった。


「ダメね。まだ諦めないわ」


「なら、次ですか?」


クモかGだろうか。


「うーん、このままじゃ埒が開かないから、別の方法で行きましょう。やっぱり、魔物がいいんじゃない?出来れば一番弱いやつで」


「なら、メガビートルなんてどうだ?」


「あぁ、あの大きな芋虫ですか。丁度いいですね」


以前、狩人とともに狩りに出かけた時に見かけたことのある芋虫だ。

その当時、彼女は「貴重なタンパク源だー」などと言っていたが、流石に誰も食べる気にはならなかった。

ここは食べ物のあまり取れないサバンナではないのだが・・・・・・。

ワルツは、貴族の令嬢なのに、余程、食べ物に困っていたのね、と思ったくらいだ。


さて、この芋虫、大きな特徴がある。

身体が硬いわけでも、速いわけでも、攻撃が強いわけでもない。

つまり、すごく弱い。


だが、妙に攻撃的で、相手が強者だとしても、果敢に立ち向かっていく。

冒険者達からは『クソムシ』と呼ばれることもあるが、それはメガビートルのしつこさから来る、ある種の畏怖を含んだ通名だ。


「じゃぁ、100匹ほど投入しますねー?」


病院で注射を片手に看護師が言っていそうな口調で、ワルツが告げる。


「てあっ!」


気の抜ける掛け声と共に、重力制御で採集したメガビートルを空中から投下した。

ついでに、蚊も100匹追加しておく。


「ぎゃぁぁぁ!!」


遠くから叫び声が聞こえる。

どうやら、耳元で聞こえるモスキート音と全身を刺されたことによる痒み、ムカデまみれの服に、そして極めつけのメガビートルによるボディープレス(痛くはない)に居ても立ってもいられなくなったらしい。

最早、偵察どころではなくなったのか、走って逃げていく追跡者達。

少し、やり過ぎた感は否めないのだが、ワルツはご満悦だった。


(うん、北風と太陽作戦(?)成功ね)


北風も太陽も、もう少し人間の精神を攻撃すべきよね、などと思うワルツだった。




こうして一行は余計な追跡者(ムシ)を退け、再び旅を満喫するのだったが・・・・・・。

この時の行動が、後に面倒事を招き寄せることになるとは、誰も予想して・・・・・・いなかった訳ではなかった。


相手が中々諦めなかったために、蚊+ムカデ+メガビートルのトリプルコンボを繰り出す事になったが、通常の森の中でそのような状況に陥るだろうか。

つまり、追跡者側にとっては、ワルツ達が自分たちを攻撃したと捉えてもおかしくはなかったのだ。


そのことに、ワルツやテンポは気づいていたのだが、まぁいっか、程度にしか考えていなかった。




そして事件が起こったのは、追跡者を撃退してから6日程経った日の夕方のことである。

あと一日でミッドエデン王国首都(ミッドエデン)に到着するか、といったところでの出来事だ。


首都についたら一度、アルクの村に戻ろうか、などという会話をしながら野営の準備をしている一行のところに、騎士団(?)と思わしき面々がやってきた。


「お前たちがカタリナ一味だな?」


(何故に、カタリナ・・・・・・)


どうやら、名前が知れているいるのがカタリナだけだから、という理由のようだ。

僧侶の格好をしていなくてもバレるらしい。


質問に対し、カタリナが頷く。


「貴様らには、魔女の疑いが掛けられている!」




こうして、ワルツはNEET(自宅警備員)から魔女に転職(ジョブチェンジ)が決定するのだった。


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