4前-02 縛り
縛りプレイ。
それは、ロープを使った新感覚人間アトラクション・・・の話ではない。
行動に様々な選択肢がある中で、「これは使わない」とルールを決めてゲームを攻略する場合などに使う言葉だ。
某ゾンビゲーのナイフ縛りなどが有名か。
そして、この旅にも、縛りルールが適用されようとしていた。
もちろん、この旅でナイフ縛りをやるわけではない。
やっても余裕で世界征服出来そうだが。
「というわけで、村に帰るのと、村から元いた場所に戻る以外で、飛ぶのは無しね!」
「ええ、よろしいのではないでしょうか?」
などと、旅のルールを決めながら、北への街道を歩いているワルツ達。
出発してからまだ2時間程だ。
何故、縛りを導入する事になったのか。
それは、このままだと、旅が旅でなくなるからだ。
ワルツが飛んでいけば、いつでも、どこでも、好きなときに移動できる。
自由度だけ見れば、某ハイテク転移ドア並ではないだろうか。
しかし、それは旅なのだろうか、とワルツ達は疑問を感じたのだ。
足を使って移動する時間にこそ旅の楽しみがあるのではないか、というのは主に狩人の主張だ。
仲間達との時間をゆっくり過ごす、というのも悪くない、と思ったのかもしれない。
結局、狩人の主張に対して反対する者も居なかったので、歩きオンリーの旅に決定したわけだ。
というわけで、空を飛んで移動するのは、村への帰還時と緊急時以外は原則無しということになった。
同じ理由で、移動のための転移魔法も禁止だ。
更に、
「バングルも外したほうがいいんじゃないかしら?」
「何故です?危険ではないですか?」
「だって、魔法の練習にならないと思うのよ・・・特にルシアの場合」
ワルツには、ルシアがバングルを付けて魔法を使うと、絶対に碌なことにならない確信があった。
「どうなるか試しにやってみ・・・いや、やめましょう」
「えっ?」
ルシアはやる気満々だったようだ。
残念そうに杖を下ろす。
「・・・そうね・・・じゃぁ、カタリナ以外は外す、というのはどうかしら?」
「何故、私だけ?」
「いや、カタリナが付けていても、私達に悪いことは全くないし。怪我の治療を考えると、そのほうがいいと思うのだけど?」
「なるほど。私って、攻撃魔法は使えないですからね・・・」
どうやら地雷だったようだ。
すかさずフォローする。
「みんなが全滅しても、カタリナさえ生き残っていたら、なんとかなるってことよ?」
「そうですか・・・」
うまく回避できたようだ。
「みんな、それでいい?」
カタリナ以外の3人が頷く。
そして、もう一人。
「あと、テンポも付けていて、いいんじゃないかしら?」
「それは・・・何故ですか、お姉さま?」
「だって、テンポは私達と違って、自分の身を守る手段を持ってないでしょ?」
「・・・」
少しだけ無言の時間が続く。
(言い方がキツかったかしら・・・)
そう思っていると、
「いえ、大丈夫です。これは、万が一の場面で使うことにします。私は非力ではありませんので」
と、意外な答えが帰ってきた。
(テンポが自衛のための戦力を持っている記憶は無いんだけど、大丈夫かしら)
だが、頭脳はワルツと同じガーディアン。
無茶をすることは無いはずだ。
「・・・分かったわ」
こうして、バングルの装備についても、制限を加える事になった。
そして、最後の縛りである。
「料理」
『ダメッ!!』
まだ、料理しか言っていないにも関わらず、ほぼ全員から否定が飛んできた。
だが、ワルツは思うのだ、
(狩人が居る内は作ってもらえばいいけど、いなくなったらどうするの?)
と。
「では、私が狩人さんに料理を教わりましょう」
姉の思考を読んだのか、テンポが料理に参加するようだ。
その言葉にワルツは考えていた。
(私達の料理って、なんか、呪われてる気がするのよね・・・ヘルチェリーとか。両自体は下手じゃないと思うんだけど・・・)
だが、テンポはまだ1度とはいえ、まともな料理(串焼き)を成功させている。
なら、任せても問題ないのではないか。
「私は賛成ね」
「わたしも」
「私もです」
「私の指導は厳しいぞ?耐えられるか?」
どうやら、狩人の料理はエクストリームスポーツの一種らしい。
「はい。完全にコピーすることが特技ですので」
「ほう?それは楽しみだ」
多分、テンポの言葉を正しく理解してないだろう狩人は、テンポを挑発するのだった。
(そういえば、狩人にテンポの正体を打ち明けていないけど・・・まぁ、いっか)
こうして、唯でさえ忙しい輸送係という仕事の上に、更に料理人という仕事が積み重なったテンポ。
どんどんと、負担が増えていくのだった。
この夜「串やき程度なら、私達にも作れるんじゃない?」と、いつもの3人が串焼きに挑戦するのだが、火にかけた途端、串の部分が爆発して酷いことになったのは・・・別に語るほどの話でない。
どうやら、本格的に呪われているようだ。
さて、そんな旅が1週間ほど続いた頃、一行はとある村へと辿り着いた。
位置的には、アルクの村から王都まで半分の距離、といったところだろうか。
ここに辿り着くまでに色々なことがあった。
ルシアは魔法のコントロールを上達するために「小さな魔法、小さな魔法」と言いながら魔物相手に特訓していたのだが、その効果が現れ始めていた。
ただ、どういうわけか、水魔法の水が透明な液体ではなく金属色になっていた。
確かに小さくなっているようだが、どうやら出力はそのままで重力制御並みに圧縮しているらしい。
その上、魔物に当たると、水なのに大爆発するというのは、いただけない。
その他の魔法も同様だ。
(どうして、カタリナが手に持った金属塊は普通に加熱できるのに、魔物相手ではダメなのかしら・・・)
トラウマが原因だろうか。
カタリナは仲間が怪我をするまで特に出番も無いので、道端に生えていた雑草に魔法をかけていた。
最初は、
(除草魔法の開発でもしてるのかしら・・・)
などと思っていたワルツだったが・・・。
次の瞬間には雑草がブクブクと膨れ始め、挙句の果てには大樹のような雑草という訳の分からない植物に成長していった。
これが食虫植物なら、拙かったのではないだろうか。
カタリナの魔法は、回復魔法を超えて、生命魔法の領域に進出し始めているらしい。
狩人は狩りを楽しんでいた。
どうやら、毎日、隠密のスキルを磨いているようで、段々影が薄くなっているようだ・・・もちろん、スキルの熟達の結果だ。
最近では条件付きで、魔物の目の前に立っても気づかれないレベルらしい。
一体、何に使うスキルなのだろうか。
テンポは・・・何をしているのか分からなかった。
単に左手をグーパーグーパーとしているだけだ。
彼女の中で、どうやら厨二が目覚めようとしているらしい。
これから先、大丈夫だろうか。
それはさておきだ。
正午過ぎ、村へとやってきた一行は・・・・・・そのまま村を通過して行く。
普通の旅人なら、この村で必ず一泊はする。
なぜなら、この村の近くに宿はなく、隣の村に付くまで3〜4日はかかるからだ。
その逆もまた然りである。
そもそも、この村は、旅の中継地点として出来上がった村なのだから。
それでもワルツ達は、脇目もふらずに歩みを進めていく。
村人の眼にはどう見えるのだろう。
急いでいるのだろうか。
この村にいられない理由でもあるのだろうか。
あるいは、追われているのか。
彼女らが何らかの問題を抱えているように見えるかもしれない。
では、もしも彼女らの素性を知っている者がいたとすれば、どう映っただろう。
アルクという村からほとんど休憩もなく歩き続け、本来なら2週間はかかるだろう経路を半分の時間で通過してくる。
しかも、勇者たちとイザコザを起こしての上、だ。
・・・つまり、誰がどう見ても不審者にしか見えなかったわけである。
そんなわけで、唯でさえ女だけの旅だというのに、不審者というレッテルを貼られたワルツ達は、余計に周りの視線を集めることになったのだった。
実のところ、その視線の中には、彼女達の動向を監視するものも含まれているのだが・・・。
(いやー、知らない人ばかりの村とか、通過するに限るわー)
一方、ワルツはいつも通りのコミュ障を発揮していた。
他のメンバーにしても、ワルツ特製反重力ベッド(改)のお陰で、日々の疲れなどは無かった。
食料も自前で調達できるし、何しろアイテムボックスもある。
特に名産があるわけでも無いのに、村に立ち寄ってお金を落としていく意味も無かったのだ。
というわけで、村を普通に通過していくのだった。
村を出てからしばらく経ち、日が大分傾いてきた頃、野営の準備を始める。
アイテムボックスからテントを出して設置し、アイテムボックスから寝袋を出してテントに入れ、アイテムボックスから野営用調理器具を出し、アイテムボックスから・・・
「・・・私はもしかして、いいように使われているのでしょうか?」
テンポは自分の仕事の多さに気づいて憂鬱になった。
「まぁ、仕事が多くなってしまうのは、輸送係の宿命ですから。私も勇者パーティーにいた頃はそんな感じでしたし・・・あれ、輸送係ではなかったのに・・・、もしかして、私も利用されていたのかしら・・・」
犠牲者が増えた。
「何を言っているんだ。まだ、仲間が手伝ってくれているからいいだろう。私はいつも一人ぼっちだったからな!」
ドヤ顔でボッチ宣言をする狩人。
「・・・そうですね、手伝ってくれてありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、助かってますよ」
二人共、底辺を見て復帰したようだ。




