1.1-23 村17
4LDKの説明を修正したのじゃ。
鉄インゴットの売却によって、予定通り、収入を得ることに成功したワルツとルシア。
それを管理することになったワルツは、その40万ゴールドもの収入を、いったい何かに使おうと考えていたのか……。
もちろん、倍に増やすために賭け事へと注ぎ込む――というわけではない。
彼女にはやらなくてはならないことがあったのだ。
そう。
元の世界に戻るための、空間制御システムの修復である。
そのためには、この世界のどこかに工場か工房のようなものを作って、地道に部品を生産していかなければならなかったのだが……。
どうやら彼女はそれを、この村に作ろうと考えていたようだ。
結果、ワルツは、ルシアを連れて、夜の営業に向けて仕込みをしていた酒場の店主ところへと顔を出したようである。
彼に、どこかいい家は無いか、あるいは仲介してくれる者が居ないかを問いかけにやって来たのだ。
「あのー、店主さん?今、ちょっといいですか?」
「おう、嬢ちゃんたち。どうだった?鉄は売れたかい?」
「小銭ばっかりで、400枚貰いました」
「…………は?」
「いや、ですから、1000ゴールド硬貨で400枚です。何考えてるんですかね?あの人たち……」
「1000ゴールド硬貨で……400枚……?どんだけ貰ったんだよ……」
と、ワルツの言葉を聞いて、呆れたような表情を浮かべる店主。
それは、『代金をすべて小銭で受け取った』という話を聞いたことも一因ではあったが……。
彼自身、鉄の売却価格がそこまで高いものではない、と考えていたことも、大きな理由の一つだったようである。
なお。
この世界の1ゴールドの価値は、日本円にして1円とほぼ等しいので……。
つまり、ワルツたちは、およそ40万円を手に入れた、と言っても差し支えない状況だったりする。
ただし、分厚い1000円玉(?)ばかりで、だが……。
「まぁ……価値については、ちょっとよく分かんないんですけど、とりあえずの食費と家賃くらいにはなるかな、と思いまして」
と、腰に両手を当てながら固まっていた店主に向かって、そう口にするワルツ。
その言葉の副音声については、言うまでもないだろう。
それを察したのか。
店主はワルツに対し、こう答えた。
「俺に食費や家賃を払おうって考えてるなら……いらないぞ?なにしろ、現状、嬢ちゃんたちから、タダで肉を貰ってるようなもんだからな。それなのに、食費や家賃までふんだくるって言ったら、罰が当たっちまうぜ……」
「……いいんですか?」
「えっと……いいんですか?」
「あぁ。むしろ、申し訳なく思ってるくらいだからな。食事の時におかわりしたかったら、遠慮なく言ってくれていいんだぜ?まぁ、量にもよるけどな?」がっはっは
と、言って大きく笑う店主。
そんな彼に対し、ワルツはいよいよ本題を切り出すことにしたようである。
「ありがとうございます。それで……店主さん?実はちょっと相談したいことがありまして……」
「ん?何だ?」
「ここ近くに……空き家って無いですか?実は、本格的に鉄の精錬作業などを進めるにあたって、工房を作りたいと考えていたんですけど……」
「ほう……そうだな。確かに、今の部屋のままじゃ、何かと窮屈だろう。ちなみに、どのくらいの大きさが必要なんだ?」
「そうですね……。そんなに大きくなくても構いません。4LDKもあれば、こっちで改造します。あとできればですけど……ここに近いところがいいですね。ご飯をいただきに来るのが楽ですし……」
「ちょっ……ちょっとまってくれ。”よんえるでぃーけー”ってなんだ?」
「あー、ごめんなさい。業界用語(?)でした。個室が4つに、リビングとダイニングが1つづつ、それとキッチンが1つある、っていう間取りの略語です。それ以外にもトイレとお風呂がある、って感じですね。あ、お風呂は強制じゃないですよ?無ければ作りますんで……」
「はあ……」
4LDKとは何か、と問いかけた結果、ワルツの口から返ってきた言葉が、やはり理解不能な言葉だったためか……。
ただただ、首を傾げるしかなかった様子の店主。
それから彼は、小さくため息を吐いた後で、ワルツたちに対し、こんな物件を紹介した。
「嬢ちゃんたちの期待通りかは分からんが……この店の向かいの家が丁度開いてるぜ?そこでよければ、貸してもいい。家賃は……まぁ、このまま魔物の狩りを続けてくれるなら、タダにしておこう。もちろん、3食の食事付きだ」
「貸してもいいって……店主さんの持ち家なんですか?」
と、当然の疑問が浮かび上がってきたのか、戸惑い気味に問いかけるワルツ。
それに対し店主は、ワルツもルシアも予想だにしていなかった言葉を口にした。
「なーに。俺が村長だからな。空き家は俺が一元管理してるから、別に問題はないぞ?」
『…………えっ?』
店主の言葉を聞いて、ややしばらくあってから、耳を疑うような反応を見せるワルツたち。
それを見た店主は、したり顔を浮かべながら、ワルツたちに問いかけた。
「ん?もしかして、嬢ちゃんたち……俺がここの村の村長だってこと、知らなかったか?」にやり
「「あ、はい……」」
「まぁ、俺も言ってなかったからな……。なぁに、気にすんなって。ここの村の連中も、俺のことを”村長”って呼び名呼ぶことなんぞ、殆どねぇしな?」がっはっは
と、2人揃って、申し訳無さそうな表情を浮かべるワルツたちの姿を見て、どこか嬉しそうに笑う店主。
もしかするとそれは、今まで2人に驚かされてばかりだった彼の、意趣返しのようなものだったのかもしれない。




