1.1-24 村18
というわけで。
トントン拍子に、工房兼自宅にする予定の物件の確保に成功したワルツたち。
そんな彼女たちは、営業に向けた仕込みで忙しかった店主と別れた後、彼から貰い受けた鍵を持って、向かいにあるという件の建物へとやってきた。
そして、そこに建っていた物件を見て、彼女たちが口にした第1声はこうである。
「「…………ボロボロ……」」
元は白かったと思しき建物の壁は、長い間、家主がいなかったためか色あせて朽ち果て。
家の角という角にはクモの巣が張っていて。
腐った壁の隙間から室内が見えそうな、オンボロ屋敷だったようである
もしかすると、鍵を使って扉を開ける必要すら無いのではないだろうか。
「お、お姉ちゃん……。ちょっとこれ……どうなんだろ……」
と、心配そうな表情を浮かべて、隣りにいたワルツの顔を覗き込むルシア。
そんな彼女の視線の先にいたワルツは、というと――
「ふーん。思ってたよりは、いいんじゃない?タダで借りる物件だったから、部屋が4つあるだけの掘っ立て小屋かと思ってたわ?」
ルシアとは対照的に、嬉しそうな表情と視線を、廃墟と同然な建物へと向けていたようである。
それを何かに例えるなら――秘密基地を前にした少年のような表情だった、と表現できるかもしれない。
「えっ……ほ、本当に、ここでいいの?」
「えぇ、問題ないわよ?住めば都。住めなければ、住めるようにすればいい、ってだけの話だし……それに、直さなきゃ住めないってことは、大改造しても問題ないってことじゃない?それって、元通りにして返さなくていいってことだし……。考えようによっちゃ、すっごく良いことだと思うけど?まぁ、元通りにして返せって言われたら、ボロボロにして返せばいいだけの話だし……」
「う、うん……。でも……お姉ちゃんの手にかかったら……きっと、大豪邸に生まれ変わっちゃうんだろうなぁ……」
「えっ?ルシアの手にかかったら、の間違いじゃないの?」
「えっ?」
「えっ?」
と、そんな会話を交わしながら、歩いて行く2人。
ただその行き先は、目の前の家ではなく……。
さらにその向こう側に広がる森の方だったようである。
そう。
家を修復するための建材を、森の木から切り出すために。
◇
そしてワルツたちがやって来たのは、村を囲むようにして存在していた森の外側。
より具体的に言うなら、その輪郭部分である。
そこには広葉樹の中でも、ブナのような見た目をした背の高い木がぽつらぽつらと生えていて……。
ワルツたちは、それを目当てに、木を伐採しに来たのだ。
「それじゃぁ、ルシア?風魔法で、あそこにある一番太い木を根本から、スパーン!、とやっちゃってもらえるかしら?」
「うん。じゃぁ、いくよ?」
スパパンッ!
ズズズズズ……ドスンッ!!
「はい、ありがとう。じゃぁ、アレをここまで運ぶから、ルシアはここから動かないでね?」
「うん」
ルシアが首肯した瞬間――
ブゥン……
と、重力の力場を作り上げ、その場に倒れていた大木を、森の外まで浮かせて移動させるワルツ。
その際、森の木々が、宙に浮く木を避けるように左右へと分かれて、まるで道のようなものを作っている様子を見て――
「すごい……」キラキラ
ルシアはそう口にしながら、眼を輝かせていたようである。
ファンタジーな世界に生きていても、それ以上にファンタジーな光景が、彼女の目の前に広がっていたようだ。
「で、ここからがちょっと難しいのよ。木材の乾燥がね……」
「うん?乾燥?」
「そっ。乾燥。このまま乾燥させずに木材を使おうとすると、その内、湿気とか乾燥とかで勝手に曲がってきちゃうのよ。それに、木の内部が湿ったままだと、虫が沸いて、腐っちゃったりするし……。まぁ、生肉とビーフジャーキーの違いみたいなものね」
「ふーん…………ん?」
「で、普通なら、切り出してきた木を数年単位で干さなきゃならないんだけど、そんなことやってる時間もないし……。せっかくルシアが魔法を使えるんだから、一緒に協力して、建材を作っちゃおっかなー、って思ったのよ。ってなわけで、手伝ってくれる?」
「もう、切っちゃったけどね……」
「そうだったわね……」
と、ルシアに対し確認を取る前から、既に、ルシアに魔法の行使を頼んでいた事を思い出すワルツ。
それから彼女は、気を取り直し、大木を宙に浮かべると――
チュウィィィィン!!
と、機動装甲からレーザーを放ち、余計な枝や葉をカットして、丸太の姿に変えて。
そして、ルシアに対し、こう言った。
「じゃあ、ルシア?これに、雷魔法をかけてもらえるかしら?」
その質問に対し――しかしルシアは返答すること無く……。
何か言いたげな様子で――
「……ねぇ、お姉ちゃん……?」
と、逆に質問したようだ。
「ん?何か変なことでもあった?」しれっ
「…………ううん。なんでもない……(私がここにいる意味、あるのかなぁ……)」
「そう?なら、いいけど……。流石に、私じゃ、高電圧を掛けるようなことって出来ないから……雷魔法、お願いね?」
「えっ?う、うん!(ふーん……お姉ちゃんにもできないことがあるんだぁ……)」
と、ワルツの言葉に一喜一憂しながら、喜々として両手を前へと翳すルシア。
そして彼女は、午前中に見せたように、雷魔法を宙に浮かぶ木へと行使したのである。




